境法]
[環境法]
〔第1問〕(配点:50)
A県B町に所在するC社の工場の近隣に住むDは,自分がぜん息に罹患したのは,同社工場に設置されているばい煙発生施設から排出される窒素酸化物が原因であると考えている。同施設は,大気汚染防止法の規制対象であり,C社はA県知事に届出をしている。この場合において,以下の設問に答えよ。なお,各設問の事例はそれぞれ独立している。
〔設問1〕C社は,昭和55年(1980年)の操業開始時に,B町との間に公害防止協定を締結している。この協定においては,大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準よりも2割厳しい基準が定められ,その基準に関して,「C社工場内のばい煙発生施設の排出口において,本協定に規定する排出基準に適合しないばい煙を排出してはならない。」と規定されていた。Dからの相談を受けたB町役場では,C社工場に職員を派遣して窒素酸化物の濃度を測定させたところ,大気汚染防止法に基づく排出基準値は辛うじて遵守していたことが同社の測定記録からは確認できたものの,協定に規定されている値は実現できていないことが判明した。D以外にもぜん息症状を訴える住民が出てきたことから,B町は,C社に対して,このままでは協定の履行を求める訴訟を提起せざるを得ないと伝えた。C社は,協定値不遵守の事実は認めたものの,「協定に規定されている値は,あくまで目標値にすぎない。また,窒素酸化物に関する規制は,大気汚染防止法のみにより適法になし得るのであって,協定により法的義務を創出することはできないはずであるから遵守義務は発生しない。」と主張している。これに対してB町は,どのように反論できるか。なお,窒素酸化物に関する上乗せ条例は制定されていないものとする。
〔設問2〕大気汚染防止法は,昭和43年(1968年)に制定されたが,同法の昭和45年(1970年)の改正は,排出基準の違反について第33条の2を導入し,新たな法政策を採用した。【資料1】及び【資料2】を踏まえてその趣旨を述べよ。
〔設問3〕C社は,B町に対して,大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準値は遵守していたと主張したが,A県が立入検査をして質問などをしたところ,少なくとも平成19年(2007年)4月から平成24年(2012年)3月までの過去5年間にわたり,同法施行規則に基づく頻度で実施する排出基準の測定に当たって,度々同基準値を超過した排出をしていたにもかかわらず,それが基準値内にあるように測定値を改ざんして記録していたことが判明した。この場合について【資料1】ないし【資料3】を踏まえて次の⑴及び⑵に答えよ。⑴このような事案に対し,設問2に挙げた規定の導入と一体として行われた昭和45年(1970年)の大気汚染防止法改正の一部(【資料2】参照)には,「十分認識されていなかった問題点」があったことが明らかになり,平成22年(2010年)に同法改正がなされた(平成23年(2011年)4月1日施行)。この問題点は,我が国の環境法令の多くに前提となっている認識と関連しており,我が国の環境法令の特徴ともいえるが,それは何か。⑵C社はどのような刑事責任を負うか。なお,罪数については答えなくてよい。
【資料1】昭和43年(1968年)の大気汚染防止法制定の際の関連規定
(排出基準の遵守義務)
第5条
指定地域におけるばい煙発生施設において発生するばい煙を排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は,当該ばい煙発生施設に係る排出基準を遵守しなければならない。
(ばい煙量等の測定)
第15条
ばい煙排出者は,厚生省令,通商産業省令で定めるところにより,当該ばい煙発生施設に係るばい煙量又はばい煙濃度を測定し,その結果を記録しておかなければならない。
第33条
第10条又は第14条第1項若しくは第2項の規定による命令に違反した者は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
第34条
第7条第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者は,5万円以下の罰金に処する。
第35条
次の各号の一に該当する者は,3万円以下の罰金に処する。一第8条第1項又は第9条第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者二第11条第1項の規定に違反した者三第15条の規定による記録をせず,又は虚偽の記録をした者四第26条第1項の規定による報告をせず,若しくは虚偽の報告をし,又は同項の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者
【資料2】昭和45年(1970年)の大気汚染防止法改正の際の関連規定
(ばい煙の排出の制限)
第13条
ばい煙発生施設において発生するばい煙を大気中に排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は,そのばい煙量又はばい煙濃度が当該ばい煙発生施設の排出口において排出基準に適合しないばい煙を排出してはならない。
2(略)
(ばい煙量等の測定)
第16条
ばい煙排出者は,厚生省令,通商産業省令で定めるところにより,当該ばい煙発生施設に係るばい煙量又はばい煙濃度を測定し,その結果を記録しておかなければならない。
第33条
第9条又は第14条第1項の規定による命令に違反した者は,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。第33条の2次の各号の一に該当する者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。一第13条第1項の規定に違反した者二第17条第2項,第18条の4又は第23条第4項の規定による命令に違反した者
2過失により,前項第1号の罪を犯した者は,3月以下の禁錮又は5万円以下の罰金に処する。
第34条
次の各号の一に該当する者は,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。一第6条第1項又は第8条第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者二第15条第2項の規定による命令に違反した者
第35条
次の各号の一に該当する者は,5万円以下の罰金に処する。一第7条第1項,第18条第1項若しくは第3項又は第18条の2第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者二第10条第1項の規定に違反した者三第26条第1項の規定による報告をせず,若しくは虚偽の報告をし,又は同項の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者
【資料3】中央環境審議会「今後の効果的な公害防止の取組促進方策の在り方について(答申)」(平成22年1月29日)(抜粋)「近年においては,環境問題の対象が地球温暖化や廃棄物・リサイクル等にも多様化し,事業者や地方自治体においてもこのような課題への対応に重点が置かれるようになり,公害防止の取組に対する社会的な注目度は相対的に低下し,現場における担当者の公害問題に対する危機意識も希薄となりがちな傾向にある。それらを背景として,公害防止法令に基づく環境管理業務に充てられる人的・予算的な資源に制約が生じ,その適確な遂行が困難になりつつあり,さらに,これまで公害防止対策を担ってきた経験豊富な事業者や地方自治体の職員も退職期を迎えている。また,企業におけるコンプライアンスの確保が課題となっている。このような中で,ここ数年,大企業も含めた一部の事業者において,『大気汚染防止法』や『水質汚濁防止法』の排出基準の超過及び工場の従業員による測定データの改ざん等の法令違反事案が相次いで明らかとなり,事業者の公害防止管理体制に綻びが生じている事例が見られている。」「現行の『大気汚染防止法』及び『水質汚濁防止法』においては,(中略)ばい煙量等又は排出水の汚染状態の測定・記録(中略)により得られる排出測定データは,事業者が排出基準を超過しないよう自主的管理のために用いられるとともに(中略)地方自治体による報告徴収や立入検査,改善命令等の法に基づく措置を行う際に過去の排出の状況を明らかにする重要な資料となってきた。」
〔第2問〕(配点:50)
A県B町は,瀬戸内海に面した湾内に位置し,古くから海上交通の要衝として栄えた港町である。海岸には,中世からの港湾設備群や壮麗な神社等の歴史的建造物が並び,それらが良好な状態で保存されている。同じ湾内の,B町の対岸側にあるA県C町からは,B町海岸の歴史的建造物があたかも海に浮かんでいるように見えるため,C町からの景観は名勝として知られ,C町住民は,その特徴的な歴史的景観を日常的に遠望していた。A県は,事業者として,県内の他地域における幹線道路の慢性的な交通渋滞を緩和するため,上記湾内の公有水面を埋め立て,埋立地に新たな地上式の県道(以下「計画道路」という。)を設置する事業(以下「本件事業」という。)を計画した。計画道路は,C町を通る予定である。本件事業による湾の埋立てにより,B町の歴史的建造物が並ぶ海岸地先海面も埋め立てられることとなった。本件事業の計画に際し,埋立工事を行わず,別地区にトンネルを掘削する代替案も検討されたが,代替案では,幹線道路の交通混雑解消の効果が,埋立工事を行う場合の約70%であるとして,採用されなかった。なお,A県は,政府が瀬戸内海環境保全特別措置法第3条第1項に基づき策定した「瀬戸内海環境保全基本計画」に基づいて,「瀬戸内海環境保全に関するA県計画」を策定しており,これには,「瀬戸内海の自然景観と一体をなしている史跡,名勝,天然記念物等については,その指定,管理等に係る制度の適正な運用等によりできるだけ良好な状態で保全するよう努めるものとする。」との規定がある。A県は,A県知事に対し,公有水面埋立法第4条第1項に基づき埋立免許を申請し,A県知事は,A県に対し,公有水面の埋立免許を付与した。その後,本件事業による埋立工事が竣工した結果,C町からは,B町の歴史的建造物が海に浮かんでいるようには見えなくなり,特徴的な歴史的景観が損なわれた。
〔設問1〕C町に住むXは,長年,B町の歴史的建造物の見える景観を日常的に楽しんでいたが,本件事業による埋立てにより,特徴的な歴史的景観が損なわれ,精神的苦痛を感じているため,訴訟を提起して,損害の賠償を受けたいと考えている。⑴Xは,誰に対してどのような請求ができるか。⑵当該訴訟において予想される争点について,Xがどのような主張をすべきかを,予想される被告側の反論にも言及しつつ,論ぜよ。
〔設問2〕本件事業に係る計画道路の供用開始後,当該道路の交通量が増加し,C町では当該道路を通行する自動車の騒音が激しくなり,Xの居住地では,昼夜の各環境基準を5デシベル超える騒音が毎日のように測定されるようになった。Xは,生活妨害による精神的苦痛を感じているため,訴訟を提起して,損害の賠償を受けたいと考えている。⑴Xは,誰に対してどのような請求ができるか。⑵当該訴訟において予想される争点について,Xがどのような主張をすべきかを,予想される被告側の反論にも言及しつつ,論ぜよ。
【資料】
○公有水面埋立法(大正10年4月9日法律第57号)(抄)
第2条
埋立ヲ為サムトスル者ハ都道府県知事ノ免許ヲ受クヘシ2,3
(略)
第4条
都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ一国土利用上適正且合理的ナルコト二其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト三埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト四埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト五,六
(略)
2,3
(略)
○瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年10月2日法律第110号)(抄)
(目的)
第1条
この法律は,瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するための瀬戸内海の環境の保全に関する計画の策定等に関し必要な事項を定めるとともに,特定施設の設置の規制,富栄養化による被害の発生の防止,自然海浜の保全等に関し特別の措置を講ずることにより,瀬戸内海の環境の保全を図ることを目的とする。(瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画)
第3条
政府は,瀬戸内海が,わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として,また,国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として,その恵沢を国民がひとしく享受し,後代の国民に継承すべきものであることにかんがみ,瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するため,瀬戸内海の水質の保全,自然景観の保全等に関し,瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画(以下この章において「基本計画」という。)を策定しなければならない。2,3
(略)
(瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画)
第4条
関係府県知事は,基本計画に基づき,当該府県の区域において瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策について,瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画(以下この章において「府県計画」という。)を定めるものとする。2~5
(略)
(埋立て等についての特別の配慮)
第13条
関係府県知事は,瀬戸内海における公有水面埋立法(大正10年法律第57号)第2条第1項の免許又は同法第42条第1項の承認については,第3条第1項の瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならない。
2(略)