境法]
[環境法]
〔第1問〕(配点:50)
A社は,B県C町の海沿いにD製鉄所を設置して操業をしているが,その岸壁に幾つかの亀裂があり,そこを通して排出水が数か月にわたって海に漏出している事実が,海上保安庁によって確認された。同庁の分析によれば,D製鉄所に適用されるpH(水素イオン濃度)に係る排水基準値をはるかに超える高アルカリ水であった。D製鉄所は,公有水面を埋め立てて造成した土地に立地しているが,捜査の結果,原因は,造成の際に用いられた埋立材料であることが判明している。D製鉄所には,場内で発生する汚水の処理をする水処理施設があり,これは水質汚濁防止法の下の特定施設となっている。その設置届出において,A社は,埋立地全体を特定事業場の所在地としている。D製鉄所の工場長E及びA社は,「特定施設が設置されている工場である特定事業場から,排水基準値違反の排出水を,排水口を通じて排水した」として,水質汚濁防止法違反で起訴された。
〔設問1〕A社及び工場長Eは,以下のように主張している。このような主張に対して,どのような反論をすることが考えられるかを論ぜよ。「水質汚濁防止法が規制対象としているのは,特定事業場内で発生する排水が特定施設の排水と合流してパイプの先から排水されたものに限定されるはずである。本件では,特定施設以外の部分から直接に公共用水域に排水されているのであるから,同法の規制対象外である。したがって,水質汚濁防止法第31条第1項第1号及び第34条に該当しないから,A社及び工場長Eは無罪である。」
〔設問2〕結局,工場長E及びA社のいずれに対しても,罰金刑が確定した。ところで,A社は,D製鉄所の場内で発生する産業廃棄物である廃プラスチックを焼却処理するための施設を設置し,B県知事から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づく中間処理施設許可を得ている。⑴A社が,水質汚濁防止法上,有罪とされたことにより,D製鉄所の許可に対して,廃棄物処理法上,どのような影響があるか。【資料】を参照しつつ説明せよ。⑵法律相互の上記の連携措置を,廃棄物処理法はどのような趣旨から設けたのかを説明せよ。
【資料】
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第4条の6法第七条第五項第四号ハに規定する政令で定める法令は,次のとおりとする。
(法律番号は省略)
一大気汚染防止法
二騒音規制法
三海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律四水質汚濁防止法五悪臭防止法六振動規制法七特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律八ダイオキシン類対策特別措置法九ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法
〔設問3〕大気汚染防止法の下でのばい煙に係る排出基準の遵守が求められる場所は,水質汚濁防止法の下での排水基準の遵守が求められる場所とどのように異なっているか。その相違及び理由を説明せよ。
〔第2問〕(配点:50)
環境影響評価について,以下の設問に答えよ。
〔設問1〕A県は,同県B市に3000メートルの滑走路を持つ本件空港を設置する事業(環境影響評価法の第一種事業に当たる。)を計画し,2003年,B市内のC岳の北側陸上案を採用することを決めた。A県は,2005年,本件空港設置事業について環境影響評価法に基づく環境影響評価手続を開始した。この環境影響評価手続の中では,C岳の北側陸上案しか対象とされず,複数案は検討されていなかった。本件空港予定地周辺の海域には種々の希少なさんご礁が形成されていた。2008年,A県は,本件空港の許可権者である国土交通大臣宛てに環境影響評価書(以下「本件評価書」という。)を送付し,国土交通大臣は,環境大臣宛てにその写しを送付して意見を求めた。国土交通大臣は,環境大臣の意見の内容を勘案した上でA県に対して,本件評価書についての環境保全の見地からの意見を書面により述べた。その後,A県は,本件評価書について補正を行い,国土交通大臣に対し,補正後の環境影響評価書(以下「本件補正書」という。)を送付し,国土交通大臣は,環境大臣宛てにその写しを送付した。A県は,環境影響評価書を作成した旨その他の事項を公告するとともに,本件評価書等を所定の期間,縦覧に供した。国土交通大臣の本件評価書についての環境保全の見地からの意見の中では,本件事業実施区域への降雨及び流入水が海域に浸出する場合の水質及び水量並びにそれによるさんご礁への影響について把握し,その結果を評価書に記載することが求められていたが,本件補正書の中では答えられていない。その後,A県は,本件空港の設置の許可の申請をし,2009年,国土交通大臣は,本件空港の設置を許可する旨の処分を行った。これに対し,本件空港予定地の敷地の一部の土地を所有するDは,A県が実施した環境影響評価手続に問題があったとして許可の取消訴訟を提起したいと考えている。Dはどのような主張をすることが考えられるか。
〔設問2〕複数案の検討に関して,2011年に改正された環境影響評価法及びその後に改正された「基本的事項」(環境省告示)(【資料1】参照)ではどのように扱われているか。その趣旨はどこにあるか。
〔設問3〕
【資料2】は,2008年に制定された生物多様性基本法の規定である。⑴2011年の環境影響評価法の改正によって導入された仕組みは,生物多様性基本法第25条とどのような関係にあるか。⑵生物多様性基本法が想定する環境影響評価の仕組みは,環境基本法においてどのように位置付けることができるか。
【資料1】
環境影響評価法第3条の2第3項,第3条の7第2項,第11条第4項,第12条第2項及び第38条の2第2項の規定による主務大臣が定めるべき指針並びに同法第4条第9項の規定による主務大臣及び国土交通大臣が定めるべき基準に関する基本的事項(環境庁告示第87号(平成9年12月12日)。最終改正:平成24年4月2日環境省告示第63号)(抜粋)
第一
計画段階配慮事項等選定指針に関する基本的事項一一般的事項⑴第一種事業に係る計画段階配慮事項の選定並びに調査,予測及び評価は,法第3条の2第3項の規定に基づき,計画段階配慮事項等選定指針の定めるところにより行われるものである。⑵計画段階配慮事項の範囲は,別表(略)に掲げる環境要素の区分及び影響要因の区分に従うものとする。⑶計画段階配慮事項の検討に当たっては,第一種事業に係る位置・規模又は建造物等の構造・配置に関する適切な複数案(以下「位置等に関する複数案」という。)を設定することを基本とし,位置等に関する複数案を設定しない場合は,その理由を明らかにするものとする。⑷計画段階配慮事項の調査,予測及び評価は,設定された複数案及び選定された計画段階配慮事項(以下「選定事項」という。)ごとに行うものとする。(以下略)
【資料2】
生物多様性基本法(平成20年6月6日法律第58号)(抜粋)(事業計画の立案の段階等での生物の多様性に係る環境影響評価の推進)
第25条
国は,生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており,一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることから,生物の多様性に影響を及ぼす事業の実施に先立つ早い段階での配慮が重要であることにかんがみ,生物の多様性に影響を及ぼすおそれのある事業を行う事業者等が,その事業に関する計画の立案の段階からその事業の実施までの段階において,その事業に係る生物の多様性に及ぼす影響の調査,予測又は評価を行い,その結果に基づき,その事業に係る生物の多様性の保全について適正に配慮することを推進するため,事業の特性を踏まえつつ,必要な措置を講ずるものとする。