境法]
[環境法]
〔第1問〕(配点:50)
A県に所在する山地に電力会社B社がダムを設置して管理しているところ,連日続いた集中豪雨によりダム湖に急激に大量の土砂が堆積し,ダムの機能が維持できないおそれが生じた。B社は,二次災害を防止するため,ダムから放流水とともに土砂等の大量の堆積物を川に排出した。その結果,川の下流域と河口付近の沿岸海域に急激に濁りが生じた。また,C社が設置していた金属加工工場から,その敷地に漏れ出して堆積していたセレン化合物が上記集中豪雨により堤防の割れ目を通じて同じ川に排出され,環境基準の100倍を超えるセレン化合物が上記の濁水に押し流されて沿岸海域に流出した。Dは,同じ川の河口から約1キロメートルの海域ではまちの養殖業を営んでいたが,ダムから堆積物が排出された数日後に5000匹のはまちが第1いけす内で全滅した。第1いけすから更に300メートル離れた海域にある第2いけすには,現在もはまち1万匹が養殖されている。また,ダムから堆積物が排出された数日後に,一般消費者であるEは,第2いけすで養殖されたはまちを食べたところ,吐き気,激しい腹痛等の健康被害の症状を発症した。Eは同じ場所で養殖されたはまちを食べて同様の症状を発症した者が他に100人程度いると報道で聞いている。この場合において,【資料】を参照しつつ,以下の設問に答えよ。
〔設問1〕⑴Dは,B社及びC社に対して,それぞれどのような法的手段を採ることが考えられるか。その場合の法律上の問題点について論ぜよ。⑵Eは,B社及びC社に対して,それぞれどのような法的手段を採ることが考えられるか。その場合の法律上の問題点について論ぜよ。
〔設問2〕Eは,専門的・科学的調査を実施して自ら因果関係を立証するのは負担が大きく困難だと思っている。そのような負担を軽減するにはどのような手続を活用することが考えられるか。その理由についても述べよ。
【資料】
○水質汚濁防止法施行令(昭和46年6月17日政令第188号)(抜粋)
第2条
法第2条第2項第1号の政令で定める物質は,次に掲げる物質とする。一~二十二
(略)
二十三セレン及びその化合物二十四~二十八
(略)
○公害紛争処理法(昭和45年6月1日法律第108号)(抜粋)
(定義)
第2条
この法律において「公害」とは,環境基本法(平成5年法律第91号)第2条第3項に規定する公害をいう。
(公害等調整委員会)
第3条
公害等調整委員会(以下「中央委員会」という。)は,この法律の定めるところにより公害に係る紛争についてあつせん,調停,仲裁及び裁定を行うとともに,地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行う。
(裁定委員の指名等)
第42条の2
中央委員会による裁定は,3人又は5人の裁定委員からなる裁定委員会を設けて行なう。2,3
(略)
第2款
責任裁定
(申請)
第42条の12
公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争が生じた場合においては,その賠償を請求する者は,公害等調整委員会規則で定めるところにより,書面をもつて,中央委員会に対し,損害賠償の責任に関する裁定(以下「責任裁定」という。)を申請することができる。2,3
(略)
(証拠調べ)
第42条の16
裁定委員会は,申立てにより,又は職権で,次の各号に掲げる証拠調べをすることができる。一当事者又は参考人に出頭を命じて陳述させること。二鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。三事件に関係のある文書又は物件の所持人に対し,当該文書若しくは物件の提出を命じ,又は提出された文書若しくは物件を留め置くこと。四事件に関係のある場所に立ち入つて,文書又は物件を検査すること。
2(略)
3裁定委員会は,職権で証拠調べをしたときは,その結果について,当事者の意見をきかなければならない。4,5
(略)
6裁定委員会は,第1項第4号の規定による立入検査について,専門委員をして補助させることができる。
(事実の調査)
第42条の18
裁定委員会は,必要があると認めるときは,自ら事実の調査をし,又は中央委員会の事務局の職員をしてこれを行なわせることができる。
2裁定委員会が前項の事実の調査をする場合において必要があると認めるときは,裁定委員会又はその命を受けた中央委員会の事務局の職員は,当事者の占有する工場,事業場その他事件に関係のある場所に立ち入つて,事件に関係のある文書又は物件を検査することができる。
3裁定委員会は,事実の調査の結果を責任裁定の資料とするときは,その事実の調査の結果について,当事者の意見をきかなければならない。
4裁定委員会は,第2項の規定による立入検査について,専門委員をして補助させることができる。第3款原因裁定
(申請)
第42条の27
公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合において,当事者の一方の行為に因り被害が生じたことについて争いがあるときは,当事者は,公害等調整委員会規則で定めるところにより,書面をもつて,中央委員会に対し,被害の原因に関する裁定(以下「原因裁定」という。)を申請することができる。
2(略)
(裁定事項等)
第42条の30
裁定委員会は,被害の原因を明らかにするため特に必要があると認めるときは,原因裁定において,原因裁定の申請をした者が裁定を求めた事項以外の事項についても,裁定することができる。
2前項の場合において,裁定の結果について利害関係を有する第三者があるときは,裁定委員会は,その第三者若しくは当事者の申立てにより,又は職権で,決定をもつて,相手方としてその第三者を原因裁定の手続に参加させることができる。
3裁定委員会は,前項の決定をするときは,あらかじめ,その第三者及び当事者の意見をきかなければならない。
(受訴裁判所からの原因裁定の嘱託)
第42条の32
公害に係る被害に関する民事訴訟において,受訴裁判所は,必要があると認めるときは,中央委員会に対し,その意見をきいたうえ,原因裁定をすることを嘱託することができる。2~4
(略)
(準用規定)
第42条の33
第42条の13から第42条の19まで,第42条の21,第42条の24及び第42条の26の規定は,原因裁定について準用する。
(紛争処理の手続に要する費用)
第44条
中央委員会において行うあつせん,調停,仲裁,責任裁定,原因裁定又は証拠保全の手続に要する費用は,政令で定めるものを除き,各当事者又は証拠保全の申立てをした者が負担する。2,3
(略)
○公害紛争処理法施行令(昭和45年8月31日政令第253号)(抜粋)
(手続費用)
第17条
法第44条第1項の政令で定める費用は,次の各号に掲げるものとする。一法第42条の16第1項第1号若しくは第2号の規定により陳述若しくは鑑定を命ぜられた参考人若しくは鑑定人又は公害等調整委員会規則の規定により陳述若しくは意見を求められ,若しくは鑑定を依頼された参考人若しくは鑑定人に支給する鉄道賃,船賃,車賃,日当,宿泊料又は鑑定料二~四
(略)
2,3
(略)
〔第2問〕(配点:50)
A県に所在するB大学(以下「B」という。)の昭和40年代後半に建設された研究棟(大学の敷地の端に立地していて,隣接地にはC保育所の園舎,運動場や他の民家がある。)の大規模改造工事(以下「本件工事」という。)がBによって計画された。DがBから本件工事を受注したが,Dは研究棟が建設された時期を考えると,吹付け石綿ないし石綿を含有する断熱材・耐火被覆材などが使用されている可能性があると考えた。ところが,Bの施設担当者は,以前に同じ建物の一部で石綿除去工事を行っていたことを前任者から申し送られていたことから建物の全部が安全であると誤認していたため,建物には石綿使用がないとDに述べた。しかし,Dは念のために研究棟の一部について目視で調査を行ったところ,やはり石綿使用の懸念があったので,Bの担当者にこの旨を伝えたが,担当者は次年度の新学科設置に備えた大学全体の建物使用計画に間に合わせるために,本件工事の着工を急ぐようDに指示した。そこで,石綿粉じんの発生を想定した設備を設けることなく本件工事が平成30年5月頃始まったが,その段階で,作業従事者Eは作業箇所での石綿含有建材の存在を強く疑い,石綿被害防止支援活動を行っている団体Fに,自らが現場で採取した試料を持ち込んで相談した。Fが専門家に依頼して検査をした結果,Eの持ち込んだ試料には青石綿が高い濃度で含有されていると報告があったので,FからA県に対してその旨の通報がなされた。なお,青石綿は,他の種類の白石綿などに比して人の健康への有害性が極めて高いことが知られている。この場合において,【資料】を参照しつつ,以下の設問に答えよ。
〔設問1〕本件工事の着工に当たって,B及びDには,大気汚染防止法(以下「大防法」という。)によれば,いかなる措置を講じる必要があったか述べよ。
〔設問2〕本件の事案で,Fから通報を受けたA県が,大防法によって採り得る措置は何か述べよ。
〔設問3〕本件工事による粉じんが,Bの敷地を超えて隣接地に流入するおそれがあったが,A県による大防法上の適切な措置が講じられていない場合に,C保育所の園児らは,誰に対して,いかなる法的措置を求めることができるか述べよ。
〔設問4〕大防法の平成25年改正では,特定粉じん排出作業に係る規制に関して,廃棄物の処理及び清掃に関する法律の平成12年改正により新設された第19条の5第2号などと同様に,直接に汚染を引き起こした行為者でない者にも一定の責任を負わせる考え方を導入しているが,このような考え方が大防法の平成25年改正に取り入れられた趣旨を説明せよ。
【資料】
○大気汚染防止法施行令(昭和43年11月30日政令第329号)(抜粋)
(特定建築材料)
第3条の3
法第2条第11項の政令で定める建築材料は,次に掲げる建築材料とする。一吹付け石綿二石綿を含有する断熱材,保温材及び耐火被覆材(前号に掲げるものを除く。)
(特定粉じん排出等作業)
第3条の4
法第2条第11項の政令で定める作業は,次に掲げる作業とする。
一特定建築材料が使用されている建築物その他の工作物(以下「建築物等」という。)を解体する作業二特定建築材料が使用されている建築物等を改造し,又は補修する作業
(報告及び検査)
第12条
1~6
(略)
7環境大臣又は都道府県知事は,法第26条第1項の規定により,解体等工事の発注者に対し,法第18条の15第1項第4号から第7号までに掲げる事項,同条第3項の環境省令で定める事項及び法第18条の17第1項の規定による調査について報告を求めることができる。
8環境大臣又は都道府県知事は,法第26条第1項の規定により,解体等工事の受注者に対し法第18条の17第1項の規定による調査について,自主施工者に対し法第18条の15第1項第4号から第7号までに掲げる事項,同条第3項の環境省令で定める事項及び法第18条の17第3項の規定による調査について,それぞれ報告を求め,又はその職員に,解体等工事に係る建築物等若しくは解体等工事の現場に立ち入り,解体等工事に係る建築物等,解体等工事により生じた廃棄物その他の物及び関係帳簿書類を検査させることができる。9,10
(略)
○大気汚染防止法施行規則(昭和46年6月22日厚生省,通商産業省令第1号)(抜粋)(特定工事に該当しないことが明らかな建設工事)第16条の5法第18条の17第1項の環境省令で定める建設工事は,次に掲げる建設工事とする。一平成18年9月1日以後に設置の工事に着手した建築物等を解体し,改造し,又は補修する作業を伴う建設工事であつて,当該建築物等以外の建築物等を解体し,改造し,又は補修する作業を伴わないもの二建築物等のうち平成18年9月1日以後に改造又は補修の工事に着手した部分を改造し,又は補修する作業を伴う建設工事であつて,当該部分以外の部分を改造し,若しくは補修し,又は当該建築物等以外の建築物等(平成18年9月1日以後に設置の工事に着手した建築物等を除く。)を解体し,改造し,若しくは補修する作業を伴わないもの
(解体等工事に係る説明の時期)
第16条の6
法第18条の17第1項の規定による説明は,解体等工事の開始の日までに(当該解体等工事が特定工事に該当し,かつ,特定粉じん排出等作業を当該特定工事の開始の日から14日以内に開始する場合にあつては,当該特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までに)行うものとする。ただし,災害その他非常の事態の発生により解体等工事を緊急に行う必要がある場合にあつては,速やかに行うものとする。
(解体等工事に係る掲示の方法)
第16条の9
法第18条の17第4項の規定による掲示は,掲示板を設けることにより行うものとする。