判例
商法会社法判例百選第4版A32
帳簿閲覧請求の対象となる会計帳簿・資料の意義
全文
横浜地判平成3年4月19日(判時1397号114頁)
学習院大学教授
松元暢子 まつもと のぶこ
本件は、帳簿閲覧請求権について、平成5年改正前商法(以下「商法」という)293条ノ6(会社法433条に相当)にいう「会計ノ帳簿及書類」の意義が問題となった事案である。
株式会社Y(被告)の株主であるX(原告)は、Yに対し、商法293条ノ6に基づき文書の閲覧謄写を求めた。
本判決は、Xが閲覧謄写を請求した各文書について、次のように判示した。「商法293条の6は少数株主の閲覧謄写請求権の対象を『会計ノ帳簿及書類』に限定しているところ、ここでいう『会計ノ帳簿』とは、商法32条及び企業会計原則に基づけば、通常会計学上の仕訳帳、元帳及び補助簿を意味し、『会計ノ書類』とは、会計帳簿作成に当たり直接の資料となった書類、その他会計帳簿を実質的に補充する書類を意味するものと解するのが相当である。なお、伝票については、これを仕訳帳に代用する場合には『会計ノ帳簿』と同視すべきであるが、それ以外の場合には、会計帳簿作成の資料となった書類として『会計ノ書類』に該当する」。本件では、総勘定元帳、手形小切手元帳、現金出納帳、売掛金に関する売上明細補助簿が『会計ノ帳簿』に該当し、また、伝票を仕訳帳に代用していることは認められないため、会計用伝票は『会計ノ帳簿』ではなく『会計ノ書類』に該当する。その一方で、契約書綴り、当座預金照会表、手形帳・小切手帳の控え、普通預金通帳、売掛金に関する請求書控・納品書控・領収証控、経費・固定資産税に関する領収書・請求書については、伝票作成のための資料に過ぎないことが推認され、直接会計帳簿作成の資料となることを認めるに足りる証拠はなく、「会計ノ書類」に該当しない。「また、法人税確定申告書は、会計の帳簿を材料として作成される書類であって、会計の帳簿作成の資料となる余地はない」。
学説上、帳簿閲覧請求権の対象の範囲については、非限定説(帳簿閲覧請求の対象を会社の経理の状況を示す一切の帳簿・書類[資料]とする見解)と限定説(「会計ノ帳簿」を平成17年改正前商法32条[会社法432条1項に相当]にいう「会計帳簿」を意味するものと解し、帳簿閲覧請求権の対象の範囲を制限する見解)が対立していたところ(上柳克郎ほか編集代表『新版注釈会社法(9)』[1988]209-210頁[和座一清])、本判決は限定説の立場を採用した。ただし、学説上は、非限定説も有力である(江頭憲治郎『株式会社法[第8版]』[2021]734頁参照)。
なお、会社法433条においては「会計帳簿又はこれに関する資料」という文言が用いられているところ、本判決の「会計ノ書類」に関する判示は、会社法433条の「これに関する資料」の解釈としても意義を有すると指摘されている(山下友恒=神田秀樹編『商法判例集[第8版]』[2020]335頁)。
[参考文献] 本文中に掲げたもののほか、加藤一純・会社判例百選(第6版)154頁、豊岳信昭・本百選(第2版)160頁。
Ⅱ 株式会社 — (6) 計算