判例
商法会社法判例百選第4版100
配当異議
不公正発行と新株発行無効事由
全文
主 文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人山本洋一郎、同西畑修司の上告理由第一点について
一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は有限会社D所有の第一審判決別紙物件目録一の建物(以下「本件建物」という。)につき順位一番の根抵当権設定登記を経由したところ、本件建物は工場抵当法(以下「法」という。)一条にいう工場に属する建物であるのに、右設定登記について法三条に規定する目録(以下「三条目録」という。)は提出されていなかった。上告人は後順位の抵当権者であるが、その抵当権設定登記については三条目録が提出され、右目録には第一審判決別紙物件目録二の物件(ミキサー、集塵機、ベルトコンベアー、各種計量器等八点。以下「本件物件」という。)が記載されていた。
2 その後、本件物件を含む本件建物等について、競売手続が開始された。執行裁判所は、売却代金の配当に当たり、上告人の抵当権については三条目録が提出されていたことから、上告人には本件物件の売却代金に相当する額を被上告人に優先して配当することとし、上告人には二五八二万八六三五円を、被上告人には合計一七八八万五三一八円の債権届出に対して八三〇万七一五四円を配当する旨の配当表を作成した。
3 本件物件は、生コンクリートを製造するバッチャープラントを組成し、生コンクリートの材料投入から製品完成までの各製造過程の用に供される各機械器具が、機能上連続作業が可能なように設置され、製造過程ごとに各階層を有するタワー状をなしている。
本件建物は、鉄骨造り鉄板葺き・高床式三階建ての建物で、三階が受材室、二階が貯蔵槽、計量室及び操作室、架台の上の一階がミキサー室となっており、受材室は一個、貯蔵槽は六個、計量室は二個、操作室は一個、ミキサー室は二個の各ユニットから成り、これらをコンクリートの架台の上に順次結合して築造されたものである。
本件物件のうち前記物件目録二の八のベルトコンベアーは、建物外に設置された支柱で支えられ、三階受材室の外壁をくり抜いた部分の鉄製の枠にヘッド部分を突き込む形で立て掛けられており、また、二階上部(三階床部分)の鉄柵にボルトで固定されている。同目録の一ないし五の各計量器は、天井のはりの鉄骨にボルトで固定されたフックで吊り下げられており、同目録の六及び七のミキサー及び集塵機は、いずれもミキサー室の床(コンクリートの架台)にボルトで固定されている。
二 本件訴訟は、本件建物について設定した被上告人の前記根抵当権の効力は本件物件にも及んでいるから、被上告人は本件物件の売却代金につき上告人に優先して配当を受けることができると主張して、前記配当表の変更を求めるものである。原審は、抵当権者は、工場に属する土地又は建物について抵当権設定登記を経由すれば、法三条に規定する物件についても第三者に対して抵当権の効力を対抗することができ、三条目録の提出によって対抗要件が具備されるものではないと解すべきであるとした上、本件建物につき順位一番の根抵当権設定登記を経由した被上告人は、上告人に優先して本件物件の売却代金から配当を受けることができるとし、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消してその請求を全部認容した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
工場の所有者が工場に属する土地又は建物の上に設定した抵当権(以下「工場抵当権」という。)は、その土地又は建物に付加してこれと一体を成した物及びその土地又は建物に備え付けた機械、器具その他工場の用に供する物(以下、後者を「供用物件」という。)に及ぶが(法二条参照)、法三条一項は、工場の所有者が右土地又は建物につき抵当権設定の登記を申請する場合には、供用物件につき目録(三条目録)を提出すべき旨を規定し、同条二項の準用する法三五条によれば、右目録は登記簿の一部とみなされ、その記載は登記とみなされている。また、法三条二項の準用する法三八条は、右目録の記載事項に変更が生じたときは、所有者は遅滞なくその記載の変更の登記を申請すべき旨を規定している。
右各条項の規定するところに照らせば、工場抵当権者が供用物件につき第三者に対してその抵当権の効力を対抗するには、三条目録に右物件が記載されていることを要するもの、言い換えれば、三条目録の記載は第三者に対する対抗要件であると解するのが相当である。
もっとも、土地又は建物に対する抵当権設定の登記による対抗力は、その設定当時右土地又は建物の従物であった物についても生ずるから(最高裁昭和四三年(オ)第一二五〇号同四四年三月二八日第二小法廷判決・民集二三巻三号六九九頁参照)、工場抵当権についても、供用物件のうち抵当権設定当時工場に属する土地又は建物の従物であったものについては三条目録の記載を要しないとする考え方もあり得ないではない。しかしながら、供用物件のうち右土地又は建物の従物に当たるものについて三条目録の記載を要しないとすれば、抵当権設定の当事者ないし第三者は、特定の供用物件が従物に当たるかどうかという実際上困難な判断を強いられ、また、抵当権の実行手続において、執行裁判所もまた同様の判断を余儀なくされることとなる。したがって、法が供用物件について三条目録を提出すべきものとしている趣旨は、供用物件が従物に当たるかどうかを問わず、一律にこれを三条目録に記載すべきものとし、そのことにより、右のような困難な判断を回避し、工場抵当権の実行手続を簡明なものとすることにもあるというべきである。
そうすると、これと異なる見解に立って、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消してその請求を認容した原判決は、工場抵当法の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであって、この点の違法をいう論旨は理由があり、上告人のその余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前記の事実関係に照らせば、本件物件が供用物件に当たることは明らかであり、被上告人の工場抵当権については本件物件につき三条目録が提出されていなかったのであるから、被上告人は、本件物件について工場抵当権を有する上告人に優先して本件物件の売却代金から配当を受けることはできないものといわなければならない。したがって、右に判示したところと結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は理由がなくこれを棄却すべきものである。
よって、民訳法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官
三好達
裁判官
小野幹雄
裁判官
大白勝
裁判官
高橋久子