判例
知的財産法商標・意匠・不正競争判例百選第2版71
類似性要件の保護範囲限定機能
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# 類似性要件の保護範囲限定機能
[SAKE CUP事件]
大阪高裁平成10年5月22日判決
(平成9年(ネ)第2178号:不正競争行為差止等請求控訴事件)
(判タ986号289頁)
京都教育大学専任講師
比良友佳理
ひら ゆかり
## 事実の概要
酒造会社X(原告・控訴人)は「One CUP」および「ワンカップ」について商標権を有し、カップ入り清酒に下図のようなラベルを貼って販売していた(X表示)。酒造会社Y(被告・被控訴人)は、カップ入り清酒について、当初は別の商品名を付けていたが、平成元年3月頃から新商品に「サケカップ」の商品名を採用し、「SAKE」「CUP」と記載されたラベルを貼って販売した(Y表示)。そこでXは、Yの行為が不正競争防止法2条1項1号に該当するとして、主位的にYの同ラベルの使用差止めを、予備的に同ラベル中の類似部分の使用差止めおよび損害賠償を求めて提訴した。
一審の神戸地判平成9・7・16(平4(ワ)2175号)は、共通部分に識別力がないこと等を理由にXの請求を棄却した。


## 判旨
控訴棄却(確定)。
I X表示とY表示の類似性
「X表示は、『One』の『O』と『CUP』の英文字が同じ大きさで2列に並び……、合わせてラベル全体のほぼ3分の2を占めていて、これが『ワンカップ』との呼称でX商品の表示として周知性を獲得している(したがって、同部分が最も見る者の目を引く部分である)のに対し、Y表示は『CUP』の英文字がX表示のそれと同じ大きさ・書体で、それのみでラベル全体のほぼ半分を占めているから、外観上、両表示は『CUP』の英文字の部分で類似しているといえなくはない。
……しかし、Y表示には、最上段に『CUP』の『C』の文字に匹敵する大きさの『鶴』のマークとその横に並ぶ漢字の『白鶴』があり、『白鶴』の字体は比較的大きく、全体として英文字主体の感のあるY表示の中にあって、独特のマークと漢字で構成された部分として特徴的な存在感があり、相当見る者の目を引く部分である。
そして……両者を比較すると、一見して、Y表示のうち右のマークと漢字で表された部分の特異性が目に付くのであって、いわゆるカップものの清酒については、現時、青地に白抜き文字で構成されたラベルが一般化している(したがって、青地に白抜きというラベルの下地の色彩には自他識別機能を認めることはできない)ことをも勘案すると、離隔的観察方法において両表示を全体と
して観察したとき、その印象は異なるものがあるというべきである。
とくに、X表示においては、『One CUP』の表示と呼称が商品主体を表すとともに、最下段の『OZEKI』の表示もそれ自体で商品の出所を明示しているのに対し、Y表示においては、『SAKE』『CUP』の表示には自他識別力がなく、『鶴』のマークと『白鶴』の文字が自他識別力を有して商品主体を直接表していること……からすると、X表示とY表示とは『CUP』の共通性にもかかわらず、外観上類似していると認めることはできない……。
「してみると、取引の実情のもとにおいて、離隔的観察方法によって、一般通常の需要者を基準にX表示とY表示を観察したとき、外観・称呼・観念のいずれにおいても類似しているものとは判断できない」。
II X表示とY表示の誤認混同のおそれ
「証拠……によれば、……酒類小売店で『ワンカップ』を買うつもりで誤って『サケカップ』を購入したとする顧客からの苦情があった。」「しかし……誤認例が現実にあったからといって、それが直ちに不正競争防止法にいう『混同』例に当たるものと判断するのは相当でない。」 「不正競争防止法2条1項1号は……不正競争が成立するには、『類似』の要件と『混同』の要件をともに独立した要件として要求し、かつ、『類似』の表示を使用等することによって『混同』が生じることを要求しているのであって、類似性を欠く表示によって混同が生じたとしても、それを不正競争とはしていない」。
## 解説
### 1 類似性要件と混同のおそれ
本判決は、現実の誤認混同例があったにもかかわらず、類似性と混同の要件がそれぞれ独立した要件であることを強調して、類似性および混同のおそれを否定した点に特徴がある。類似性はしばしば、混同のおそれを引き起こすほどに類似しているかという観点から検討されるが、本判決は類似性に独自の機能を見いだし、類似性を欠く表示が混同を引き起こしたとしても、不正競争行為には当たらないとした点に意義がある。
### 2 類似性要件の保護範囲限定機能
#### (1)類似性の判断基準
不正競争防止法2条1項1号に基づく請求が認められるには、原告と被告の商品等表示の類似性が必要である。学説では、類似性要件には独自の意味はなく、むしろ混同のおそれが認められる場合には表示の類似性も満たされると考え、類似性にあまり実質的な意味を持たせない見解もある(渋谷達紀『商標法の理論』[1973] 338-339頁、紋谷暢男・昭和58年度重判解242頁)。しかし、最高裁は、類似性について「取引の実情のもとにおいて、取引
別冊 Jurist No.248
者,需要者が,両者の外観,称呼,又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否か」によって判断すべきと述べ(最判昭和58・10・7民集37巻8号1082頁[日本ウーマン・パワー事件上告審-本書70事件],最判昭和59・5・29民集38巻7号920頁[フットボール・シンボルマーク事件上告審-本書68事件],最判平成10・9・10判時1655号160頁[スナックシャネル事件-本書72事件]),類似性要件に混同のおそれとは別個の独自の意義を見いだしている(石井彦毅・最判解民事篇昭和58年度406-407頁,小野昌延先生還暦記念『判例不正競業法』[1992] 437-438頁[竹田稔],茶園成樹編『不正競争防止法[第2版]』[2019] 31頁)。
(2) 類似性要件の独自の意義
それでは,類似性要件の独自の意義とは何であろうか。裁判例を眺めてみると,普通名称には至らないが,双方の表示の共通部分が独占になじまない部分である場合に,共通部分は要部ではないこと,あるいはそれだけでは識別力を欠くことを理由に類似性を否定する判決が多数存在する(松山地判昭和40・7・16不競判759頁[瀬見観光ホテル事件],東京地判平成2・8・31無体裁集22巻2号518頁[ラジオ日本事件],京都地判平成7・6・22判時1603号115頁②事件[アーバンホテル京都事件]等)。
本件でも,カップ入り清酒について「SAKE」「CUP」といった識別力の低い言葉が共通しているというだけで類似性を認めてしまうと,カップ入り清酒について誰も「CUP」という言葉を含んだ表示を使用できないという事態を招いてしまう。かといって,「CUP」を含んだ表示すべてを2条1項1号の普通名称や慣用表示であると認定してしまうと,双方が全く同一の表示を使用したという場合に使用差止めを請求できないという事態に陥る。そのような場合に類似性要件が,どの範囲まで表示に排他的な効力を認めるかという法的価値判断を実現する機能を担っているといわれている(田村善之『不正競争法概説[第2版]』[2003] 81-82頁)。すなわち,こうした識別力が低い表示につき,普通名称とせず,類似性を肯定することで,ほぼ同一の表示に対する使用差止請求は認容しつつ,他方で双方の表示が見分けのつく程度に相違している場合には,類似性を否定することで,使用差止請求は棄却するという中庸の策を実現することが,類似性要件によって可能になるのである。
(3) 現実の誤認混同例と類似性要件
さらに本判決は,1号は「『類似』の要件と『混同』の要件をともに独立した要件として要求し,かつ,『類似』の表示を使用等することによって『混同』が生じることを要求しているのであって,類似性を欠く表示によって混同が生じたとしても,それを不正競争とはしていないといわなければならない」と述べている。
Xは一審で混同のおそれの立証のためにアンケート調査を提出したが,神戸地裁は母集団に人為的操作が行われていることや質問が誘導的文言になってしまっていることを理由にそれを採用しなかった。Xはそれらの点を改善し再度アンケート調査を行い,それによれば,現実にX商品とY商品を誤認購入した経験者の割合は約7%であった。だが,二審の大阪高裁は,これは逆に混同しなかった者の割合は9割を超えることを示しており,平均的な需要者においては混同を生じないということができるとして,誤認例を根拠に両表示が類似しているということはできないと判断している。慎重を期して再実施したアンケートである上,混同経験者が約7%というの
は決して低い数字ではないが,それにもかかわらず侵害が否定されていることから,本判決は類似性要件の保護範囲限定機能がアンケート結果をかき消すほど強力に働いた事例と位置づけることができる。そもそもアンケート調査の証拠評価は,自由心証主義の下,最終的には裁判官の自由な心証によって判断,評価される。識別力の低い表示を独占させるべきではないという規範的な価値判断がある場合,いかに現実の誤認混同例があると強調しても,裁判官の心証に大きな影響はなく,アンケート調査の結果はあくまでも法的判断を助けるための脇役にとどまるということなのだろう(田村善之『裁判例に見る不正競争防止法2条1項1号における規範的判断の侵食』中山信弘先生還暦記念『知的財産法の理論と現代的課題』[2005] 410頁,青木博通『知的財産権としてのブランドとデザイン』[2007] 251頁,井上由里子『『混同のおそれ』の立証とアンケート調査』知的財産研究所編『知的財産の潮流』[1995] 36-37頁)。
3 商品パッケージにおける類似性判断
ところで,商品のパッケージは,商品名を含む文字,図柄,絵,色彩,模様など様々な要素によって構成されている。混同を防止するという1号の趣旨に照らせば,パッケージを構成するあらゆる表示が1号の保護を受けるのではなく,出所識別機能を有する部分のみが保護対象となる。したがって,商品パッケージの表示を比較するにあたっては,配置,大きさ,色彩といった各要素の特性を十分に考慮しながら,取引者,需要者の目を引く部分がどこなのかを重視する必要がある。識別力の強い部分は識別力の弱い部分よりも重視すべきであり,さらに出所識別機能を全く有さない要素については除外して比較すべきであろう(比良友佳理・知的財産法政策学研究35号417頁)。また,様々な要素の中から恣意的に一部分だけを都合よく取り出したり切り捨てたりして比較することは認められない。
このような観点から裁判例を眺めると,図形と文字の結合からなる商品パッケージが問題となっている場合には,それらの配置,大小,色彩等から要部が決定され,それに基づいて類似性が検討され,識別力の低い要素がある程度共通していても,識別力の高い要素が双方で共通していなければ,類似性が否定され(東京地判平成13・6・15[平12(ワ)27258号][ふりかけさまざま事件]),逆に,識別力を有する部分が共通する場合には,類似性が肯定される(東京地判昭和55・4・18無体裁集[参]13巻2号536頁[ダイワ釣具事件一審],東京高判昭和56・7・20同無体裁集529頁[同二審])。
本件では,青字に白抜き文字で構成されたラベルが同種のカップ入り清酒のパッケージとして一般化していることから,その色彩自体には識別力がないと判断されている。本件と似た事実として,同様の配色,大きさ等を備える他社製品が多数存在していたことを理由に,いわゆる正露丸のパッケージの中で自他識別力を有するのはラッパの図柄のみであると判断した大阪地判平成18・7・27[判タ1229号317頁[正露丸事件一審]],大阪高判平成19・10・11[判時1986号132頁[同二審]]がある。
[参考文献]
本文中に掲げたもの。