判例
知的財産法商標・意匠・不正競争判例百選第2版97
モデルチェンジと保護期間の起算点
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# モデルチェンジと保護期間の起算点
[空調ユニットシステム事件]
東京高裁平成12年2月17日判決
(平成11年(又)第3424号:不正競争行為差止請求控訴事件)
(判時1718号120頁)
弁護士・弁理士
# 紋谷崇俊
もんや たかとし
## 事実の概要
X(原告・控訴人)は、建物室内の天井裏内部に設置され、建物室内の空気調整・換気を行う空調ユニットシステムを製造販売している会社である。Xは、平成4年3月ごろから「FASU」と称する空調ユニットシステムの販売を始め、平成9年3月ごろから「FASU」の後続商品としてX製品を製造販売していた。Y(被告・被控訴人)は、空調設備会社から空調装置の注文を受け、平成9年8月から同年12月末までの間にY製品を納品した。
そこでXは、Y製品の形態がX製品の形態と同一であり、YがY製品を販売する行為は不正競争防止法2条1項1号および3号所定の不正競争行為に該当すると主張して、その差止めおよび損害賠償の請求に及んだ。
原判決(東京地判平成11・5・10[平9(ワ)8839号])は、不正競争防止法2条1項3号の主張に関しては、X製品は、先行商品である「FASU」の形態上の特徴を概ね備えており、極く僅かな形態上の変更を加えたものに過ぎないとして、同法所定の「最初に販売された日」は、「FASU」が最初に販売された日であると判示し、Xの請求を棄却した。
本件は、その控訴審である。
## 判旨
控訴棄却(確定)。
I 「不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品形態を模倣した商品の譲渡行為等を他人の商品が最初に販売された日から3年間に限って不正競争行為としているものであり、不正競争防止法における事業者間の公正な競争等を確保する(1条)という目的に鑑みれば、開発に時間も費用もかけず、先行投資した他人の商品形態を模倣した商品を製造販売して、投資に伴う危険負担を回避して市場に参入しようとすることは、公正とはいえないから、そのような行為を不正競争行為として禁ずることにしたものと解される。このような不正競争防止法2条1項3号の立法趣旨からすれば、『最初に販売された日』の対象となる『他人の商品』とは、保護を求める商品形態を具備した最初の商品を意味するのであって、このような商品形態を具備しつつ、若干の変更を加えた後続商品を意味するものではないものと解すべきである。」
II 「これを本件についてみると、Xが保護を求める商品形態の構成の中心が『FASU』においても採用されていたものであることは、その主張自体から明らかであるから、『最初に販売された日』の対象となる『他人の商品』は、X商品ではなく、『FASU』ということになると考えるのが合理的である。そうすると、Y製品が販売されたのは、平成9年8月以降であり、『FASU』が最初に販売された日である平成4年3月より3年を経過していることは明らかであるから、本件について、もはやY製品が不正競争防止法2条1項3号に該当するか否かを論ずる余地はないことになる。」
III 「仮にX主張のとおり、X製品が『FASU』の改良品や部分的な手直し品でないというのであれば、このような場合、Xが、X製品に固有の形態として不正競争防止法2条1項3号による保護を求め得るのは、X製品の商品形態のうち、『FASU』の形態と共通する部分を除外した部分に基礎をおくものでなければならない」。「X製品の、先行商品である『FASU』との形態上の相違点は、チャンバーが若干縦長になっている点、及びチャンバーの背面にVAVとCAVが接続されている点のみであり……極めてありふれたものであるし……接続に伴う必然的な形態であり、いずれも……他人の商品と同様の商品が通常有する形態……に当たる」。「結局、Xの主張は、一方で『FASU』の形態の保護を求めつつ、他方でX製品を最初に販売した日を保護の起算日とせよという極めて矛盾したものというはがない」。
IV 「Xの不正競争防止法2条1項3号に基づく請求は、いずれにせよ、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。」
## 解説
### 本判決の意義
不正競争防止法2条1項3号における「他人の商品の形態」の保護(いわゆるデッド・コピー規制)は、「他人の商品」が「最初に販売された日」から3年間に限られる。モデルチェンジによって先行商品の形態が変更されて後続商品が販売された場合、いずれの商品を基準に3年の保護の終期を起算すべきか問題となる。本判決は、そのようなモデルチェンジの場合において「最初に販売された日」の対象となる「他人の商品」の意味について明示的に判断した判決として意義を有する(判旨1参照)。
### 保護期間の趣旨(判旨1前段参照)
2条1項3号は、平成5年改正で新設された不正競争行為の類型である。3年の保護期間は、当初は同号本文括弧書で規定されていたが、同17年改正により適用除外規定に移行され(19条1項5号イ)、実質的な変更はないものの、国内販売から起算されること等が明確化された。
3号は、「先行者が資金・労力を投下して商品化した成果にフリーライドすることが競争上不正と観念されるから」(経済産業省知的財産政策室編『逐条解説 不正競争防止法[第2版]』[2019]240頁)、「市場先行の利益という新商品の開発のインセンティブを保証するため」(田村善之『不正競争法概説[第2版]』[2003]285頁)に「不正競争行為」と位置づけられた。
保護期間は、かかる趣旨から「先行者の投資回収期間に限定」して模倣を禁じたものであり、EU意匠制度とのハーモナイゼーションや(経産省編・前掲)、商品形態のライフサイクルが短いことや、登録主義の意匠制度の存在意義を失わせないこと等にも配慮して(渋谷達紀『不正競争防止法』[2014]144頁)、「3年」と定められた。
なお、3年経過の立証責任は、適用除外規定と改正されて、被告側が負うことが明確化されている(経済産業省
別冊 Jurist No.248
経済産業政策局知的財産政策室編著『一問一答 不正競争防止法 [平成17年改正版]』[2005] 31頁)。
## 3 保護期間の起算点(判旨|後段参照)
3年の起算点の解釈論は、モデルチェンジの際に顕在化する。ただし、変更前後の商品形態に化体されている競争上の成果の質や高低は同じではないから、先行商品と後続商品を模倣する行為は別個の不正競争であり、模倣された商品がいずれの商品であるかによって起算日が異なり(渋谷・前掲)、保護の可否も異なる。また、先行商品との同一性を論じつつも、「最初の販売」については後続商品を基準とすることで3年間の期間制限を不当に免れようとする主張は対立を必要もある(判旨Ⅱ参照)。
この点、本判決は、前述の立法趣旨に照らして、「最初に販売された日」の対象となる「他人の商品」とは、「保護を求める商品形態を具備した最初の商品を意味するのであって、このような商品形態を具備しつつ、若干の変更を加えた後続商品を意味するものではない」との解釈論を示した(経産省編・前掲達条241頁)。
保護の始期については、「商品」該当性、「形態」該当性、「模倣」該当性、「営業上の利益」の侵害等を基準とする見解があるが、「模倣」し得る程に「形態」が完成されていれば「商品」化がなされたと理解して、その時から保護が開始されると解される(田村善次・Westlaw判例コラム93号参照)。とすれば、本判決のように、モデルチェンジの場合は、先行商品と実質的に同一な後続商品についても、模倣行為に対して「保護を求める商品形態を具備した最初の商品」を基準に「最初に販売された日」を判断すべきであろう。その後の裁判例も概ね同様である。
例えば、(1)モデルチェンジ前の先行商品を基準に「最初に販売された日」が認定された例としては、①本判決のほか、②大阪地判平成23・7・14(判時2148号124頁)(ミニバスケットに関して、前記解釈論に言及の上、全体的な商品の形態として先行商品の形態を具備しているから、大きさの違いやそのことから由来する差違をもって別の商品形態ということはできないとした事実)、③東京地判平成23・2・25(平20(ワ)26698号)(自動排泄処理装置に関して、大きさや操作パネル等の相違点は僅かな点にとどまり、最も重要なカップ・ホースユニットが全く同一であるから、先行商品と実質的に同一であるとした事実)等がある。
他方、(2)モデルチェンジ後の後続商品を基準に「最初に販売された日」を認定した例としては、④大阪地判平成12・10・24(平11(ワ)3727号)(カレンダーに関して、各月の記載は暦に応じて自動的に変わるので先行商品と実質的に同一だが、重要部分である表紙に変更があるため、現在の表紙デザインに変更後の後続商品を基準とした事実)、⑤知財高判平成31・1・24(判時2425号88頁)(サックス用ストラップに関して、V型ブレート等がモデルチェンジによって変更された後続商品は、先行商品とは実質的に同一でなく、別個の形態であるとした事実。なお、原審〔後述〕は東京地判平成30・3・19判時2425号106頁)等がある。他にも、本判決以前だが⑥大阪高判平成11・2・16(平10(ネ)2867号)(G境に関して、先行商品と実質的に同一の形態であるとはいえないとして、後続商品を基準とした事実)等も有する。
このほか「販売」前の見本市出展段階の商品ではあるが、⑦知財高判平成28・11・30(判時2338号96頁~本書96事件)(本判決の解釈論〔判旨1後段〕に言及の上、後日販売された加湿器と実質的に同一であるとして、見本市出展商品〔先行商品〕を基準に「最初に販売された日」を認定した例)も有する。
19条1項5号イは、保護の終期の起算点を定めたものであって、保護の始期(2条1項3号の「商品」該当性)を定めたものではない(経産省編著・前掲一問一答)。ただし、3年の保護期間を実質的に延長することも妥当でなく、両者が連動する場面も多いように見受けられる(前出⑦参照)。
なお本判決では、先行商品が基準とされ、後続商品の販売が先行商品の販売日から3年を経過していたため、保護が否定されたが(判旨Ⅱ参照)、先行商品の保護期間内なら後続商品の形態も保護されよう(前出⑥参照)。
## 4 19条1項5号イ(保護期間)と2条1項3号(形態模倣/保護対象)
### (1) 保護期間と形態模倣との検討順序(判旨Ⅳ参照)
本判決は、保護期間のみを論じ、それ以外の要件を検討しないで、3号の請求を否定する。19条1項5号イ(保護期間)は2条1項3号(形態模倣)の適用除外規定であり、本来は形態模倣の検討を先行すべきようにも思われる。しかしながら、保護期間を先に検討すれば、3年の期間(抗弁)という明確な基準で請求を否定でき、形態模倣(請求原因事実)の判断に立ち入る必要がないため、訴訟経済に資するし、要件事実論とも適合的と解されよう。
もっとも、保護期間の判断が先行する場合、先行商品と後続商品の相違が着目され、以下のように、保護対象(2条1項3号)の実質的判断においても、変更部分のみが重視されかねないおそれもあるように見受けられる。
### (2) 保護対象の判断方法(判旨Ⅲ〔傍論〕参照)
本判決は、保護期間の起算点に関して先行商品と後続商品の相違を論じるに際し、モデルチェンジ後の商品形態として保護を求め得るのは「(先行製品)の形態と共通する部分を除外した部分に基礎をおくものでなければならない」との一般論に付言した(前出②・⑤原審も同旨)。
この点、先行商品と後続商品の相違点がありふれた形状など些細なものであれば、実質的に同一であるから先行商品の販売日を基準とする結論自体には異存はない。もっとも、上記判示が、もし商品形態の保護対象について、商品を全体として観察せずに、一商品を構成する部分形態のみをその全体形態から分離して考察する趣旨であれば、妥当ではあるまい(牛木理一・知財管理51巻5号801頁参照)。ただし、19条1項5号イは、商品形態の保護期間を規定するが、保護対象を規定するものではなく、保護対象は2条1項3号の「商品の形態」の解釈に基づき、一部ではなく、商品全体について判断すべきと解されるからである(経産省編・前掲達条39頁、三村量一「商品の形態模倣について」牧野利秋ほか編「知的財産法の理論と実務(3)」[2007] 282頁、本書92・93事件等参照)。
かかる問題は、特に後続商品を基準に保護期間が経過していないと認定され、形態模倣の成否が正面から論じられる事実において顕在化する。事実、前出⑤サックス用ストラップ事件においては、控訴審と原審の判断が分かれた。原審は、保護期間の判断を先行させた後、形態模倣の判断において、本判決の上記一般論と同様、保護対象は変更部分に基礎を置く部分に限られると述べ、部分的考察により形態模倣を否定した。これに対し、控訴審は、形態模倣の判断を先行させ、原審の上記判断は、3号の「商品の形態」とは商品全体の形態であること等に照らして妥当でないとして、全体的考察により、形態模倣を肯定している。本判決の上記一般論への付言は傍論であり(なお、保護対象は変更部分を基礎とする旨の上記判示のほか、「保護を求める商品形態を具備した最初の商品」という本判決の解釈論〔判旨Ⅰ後段〕自体も、専ら実質的同一性を論じる立場〔前出⑥参照〕と異なり、部分的考察と親和的であるとの指摘もある〔殿村松司・豊田紗織・NBL 1142号88頁〕)、実際に保護対象について判断する際には留意を要するものと思われる。
[参考文献]
本文中に掲げたもの。