判例
知的財産法商標・意匠・不正競争判例百選第2版113
「虚偽」の事実——受け手の考慮
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# 「虚偽」の事実——受け手の考慮
[パチスロ機パテントプール事件]
東京高裁平成14年6月26日判決
(平成13年(2)第4613号・第5552号:不正競争行為差止等請求控訴,問附帯控訴事件)
(判時1792号115頁,判夕1108号280頁)
名古屋大学教授
栗田昌裕
くじた まさひろ
## 事実の概要
パチンコ型スロットマシン(以下「パチスロ機」という)業界では、各製造業者等が保有する特許権等につき、X(原告・被控訴人=附帯控訴人)に対して集中的に再実施許諾権付き実施許諾契約をし、Xにおいて、一定の範囲の製造業者に対し有償で再実施許諾をして、その再実施料を特許権者等に還元するという特許権等の実施方法(以下「本件パテントプール方式」という)が行われていた。パチスロ機業界の一社であるY1(被告・控訴人=附帯被控訴人)の代表者であるY2(被告・控訴人=附帯被控訴人)は、Y1が本件パテントプール方式の解消およびY1・X間の再実施許諾権付き実施許諾契約(以下「本件実施契約」という)の終了を主張し、これを前提として再実施許諾先とされる業者に対して特許権侵害訴訟(以下「別件訴訟」という)を提起したことから、当該訴訟を提起するに至ったY1側の言い分等を説明するものとして、遊技機業界関連のマスコミ関係者に対する記者会見(以下「本件記者会見」という)を行い、その際、Xの業務に関して、「異常な会社」、「詐欺的行為」である等の発言(以下「本件発言」という)をし、その内容が業界誌(以下「本件雑誌」という)の記事(以下「本件記事」という)に掲載された。Xは、Yらに対して、本件発言および本件記事を掲載させた行為(以下「本件掲載行為」という)は不正競争防止法2条1項13号(現21号)所定の不正競争行為に当たるとして、陳述等の差止め、謝罪広告の掲載および損害賠償の支払を求めた。
第一審(東京地判平成13・8・28判時1775号143頁)は、本件発言の一部が不正競争行為に当たることを認めて損害賠償請求を一部認容したが、差止請求は却下し、その余の請求は棄却した。Yらは原判決中Yらの敗訴部分の取消しを求めて控訴し、Xは原判決において訴えの却下がされた差止請求に係る請求の趣旨を変更するとともに、本件掲載行為が名誉毀損の不法行為を構成することを前提とする請求を追加した上、原判決の棄却した謝罪広告掲載請求および損害賠償請求(原判決認容額である200万円を超える部分)と併せて附帯控訴をした。
## 判旨
原判決中Yら敗訴部分取消し、請求および附帯控訴棄却(上告棄却、上告受理申立て不受理)。
### I 「虚偽の事実」該当性の判断について
本件発言、本件記事で陳述ないし掲載された事実が「『虚偽』であるかどうかは、その受け手が、陳述ないし掲載された事実について真実と反するような誤解をするかどうかによって決すべきであり、具体的には、受け手がどのような者であって、どの程度の予備知識を有していたか、当該陳述ないし掲載がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ、当該受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方を基準として判断されるべきである」。
本件発言の受け手は「本件記者会見に出席した遊技機業界関連のマスコミ関係者」であるから、別件訴訟に関する事実の基本的な流れを、本件雑誌の主な読者は「パチスロ機の製造販売業者等の関係者」であるから、別件訴訟の提起とその背景事情を、それぞれ予備知識として有していたものと推認される。
### II 本件発言について
本件発言中、「ちなみにY2は日電特許(Xの通称)を昨年、脱会された」との質問に対し、「はい、脱会しました」と答えた部分は、引き続く発言等にも照らせば、本件記者会見の出席者において、「単に本件パテントプール方式からの離脱を表明したY1の立場を説明する陳述として受け止めるであろうことは明らか」であり、陳述された事実が虚偽であるとはいえない。
また、本件発言中には、「Xを『異常な会社』、その活動を『詐欺的行為』ないし『非常に怖いこと』であると表現する意見ないし論評にわたる部分はあるものの」、「直接の聞き手が一般大衆であれば格別、本件においては、本件記者会見が別件訴訟を提起するに至ったY1側の言い分を説明するために開催されていることを当然の前提として、しかも当該問題について一定の前提知識を有し、取材という明確な目的を持ってこれに出席した遊技機業界関連のマスコミ関係者であったことを考えると、そのような出席者の普通の注意と聞き方を基準として判断した場合、……『同発言部分は、』別件訴訟に関するY1の主張……を、やや俗な言葉で説明したものと理解されるにとどまると解され、本件実施契約の解消という事実自体に関して、あるいは、Xが『詐欺的な行為を行う異常な会社である』かどうかという事実に関して、真実に反する誤解をするような陳述であると解することはできない」。「したがって、……『同発言部分』において陳述された事実が『虚偽』であるということはできない」。
### III 本件掲載行為について
Y2の発言を引用する本件記事の記載部分は、「単に引用という形式が採られているにとどまらず、本件記事全体の趣旨や前後の文脈に照らしても、……係争中の一方当事者の言い分として紹介されているものであって、その言い分が真実であることを断定的に主張するものでないことは、容易に理解し得る」。別件訴訟について一定の予備知識を有していた「〔本件雑誌の主な〕読者の普通の注意と読み方を基準にした場合」、本件記事中に引用されたY2の発言内容に関して、「Y1が本件パテントプール方式から離脱した結果、Xには『保有する特許が無い』状態となったかどうかという事実に関して、あるいは、Xが『詐欺的行為にも等しい』行為を行っているかどうかという事実に関して、真実に反する誤解をするような内容であるということはできず、本件記事をもって掲載された事実が『虚偽』であるとはいえない」。
## 解説
### 1 本判決の意義
本判決は、不正競争防止法2条1項現21号(以下「本号」という)の信用毀損行為(営業諸諸行為)の成立要件である「虚偽」の事実の判断基準として「受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方」を採用した裁判例である。なお、本判決後、数次の改正により号数が改められているが、文言の変更はない。
### 2 競争関係の要件
信用毀損行為とは「競争関係にある他人の営業上の
別冊 Jurist No.248
信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」をいう(本号)。このうち、競争関係の要件については、誹謗者が営業者でなくても、法人の代表者のように営業者と一定の関係を有するものであればよいとされる(田村善之『不正競争法概説〔第2版〕][2003]444頁、山本庸幸『要説不正競争防止法〔第4版〕][2006]224頁、渋谷達紀『不正競争防止法』[2014]248頁、小野昌延編著『新・注解不正競争防止法〔第3版〕(上)』[2012]746頁[木村修治]、金井重彦ほか編著『不正競争防止法コンコンサルタ(改訂版)』[2014]195頁[町田健一]、小野昌延・松村信夫『新・不正競争防止法概説〔第2版〕][2015]446頁)。本判決はこの点の判示を欠くが、原判決は、「Y2は、Y1の代表取締役であり、Y1の代表者の職務として本件記者会見において発言し」たのであるから、Y2は、Y1と共に、その責任を負うべきとする。
## 事実性の要件(虚偽の「事実」)
本号にいう「事実」とは、証拠等により虚偽か否かが判断可能な客観的な事項をいうものであって、主観的な見解ないし判断、証拠等による証明になじまない価値判断や評価に関する記述を含まない(東京地判平成15・9・30判時1843号143頁、東京地判平成17・1・20〔平15(ワ)25495号〕、東京地判平成27・9・25〔平26(ワ)31864号〕)。これは名誉毀損における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別に対応する(前掲東京地判平成27・9・25。最判平成16・7・15民集58巻5号1615頁参照)。もっとも、裁判例は、価値判断や評価の要素を含む表現であっても「事実」の告知または流布と認定しており、「事実」の範囲を広く解する傾向にあるとされる(小野編著・前掲763頁[木村]、大阪地判昭和27・5・29下民集3巻5号719頁、大阪地判昭和49・9・10無体裁集6巻2号217頁、東京地判昭和53・10・30無体裁集10巻2号509頁等参照)。本判決も、「(本件発言中には)評価的な表現も含まれているが、……具体的な事実を述べていること自体は明らかであるから、これらを全体として意見ないし論評にすぎないということはできない」と判示しており、この傾向に沿うものである。
## 虚偽性の要件(「虚偽」の事実」)
### (1) 虚偽性の判断対象
虚偽の事実の告知または流布に該当するかどうかは、発言や記事の一部のみではなく、全体として検討すべきとされる(寒河江孝允・本百選(第1版)211頁、高部真規子編『著作権・商標・不競法関係訴訟の実務〔第2版〕][2018]522頁[今井弘晃]、大阪地判昭和56・3・27無体裁集13巻1号336頁、東京地判平成18・9・26判時1962号147頁、最判平成10・7・17判時1651号56頁[他人の著作物の論評による名誉毀損の例]参照)。本判決も、「発言全体の中でとらえ」、または「本件記事全体の趣旨や前後の文脈に照らして」、本件発言および本件記事を評価する(原判決も同旨)。
### (2) 虚偽性の判断基準
① 受け手の考慮 事実の虚偽性について、本判決は、「受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方」を基準として、「その受け手が、陳述ないし掲載された事実について真実と反するような誤解をするかどうかによって決すべき」と判示する。先行する裁判例には、書面の送付の相手方が「良識を備えた新聞社等」であることを考慮して虚偽の事実の記載と認めなかったものがあり(東京高判昭和56・3・30判工2885の10頁)、後続の裁判例にも本判決と同様の判断基準を採用するものが少なくない(東京地判平成15・2・20判時1824号106頁、東京地判平成19・3・20〔平18(ワ)15425号・18446号〕、東京地判平成23・4・20〔平21(ワ)11566号〕)。なお、名誉毀損の不法行為における「人の社会的評価を傷つける」かどうかの判断について同様の基準を採用する判例が本判決に先行しており(最判昭和31・7・20民集10巻8号1059頁)、本判決はその影響を受けたものとも考えられる(判時1792号116頁参照)。また、本判決後、判例は、同様の基準を「摘示された事実がどのようなものであるか」の判断にも採用しており(最判平成15・10・16民集57巻9号1075頁)、本判決の立場に
一致する。本判決は、「受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方」を基準として陳述ないし掲載された事実がどのようなものであるかを判断するものだからである。
② 本件発言 本判決は、本件発言の受け手が別件訴訟に関する事実の基本的な流れを予備知識として有する「遊技機業界関連のマスコミ関係者」であることから、本件発言は、「Y1の立場を説明する陳述」、「Y1の主張を、やや俗な言葉で説明したもの」と理解されるにとどまり、「本件実施契約の解消」や「Xが『詐欺的な行為を行う異常な会社である』」という事実に関して真実に反する誤解をするようなものではないとして、陳述された事実の虚偽性をいずれも否定している。本判決の立場では、直接の聞き手が予備知識を有しない「一般大衆」であれば、異なる結論に至る可能性がある。
これに対して、原判決は、「訴訟提起の事実をマスコミ等の第三者に告げる行為」は「権利行使に当然に伴う行動」として許容されるとして、①訴訟提起の事実や自己の請求の内容や事実的主張、法律的主張の内容を説明するという限度を超えて「相手方を根拠なく誹謗中傷する」部分は、②その前提となる事実が虚偽であれば、不正競争行為に該当するとしており、本判決と判断枠組みを異にする。なお、学説には、訴訟提起の事実等の告知が原則として許容されるとする点において原判決を支持するものがある(小野編著・前掲764頁[木村]、金井ほか編著・前掲203頁[町田]、小野・松村・前掲449頁)。
原判決は、訴訟提起は原則として正当な行為であって違法性を欠くという判例法理を前提としつつ(最判昭和63・1・26民集42巻1号1頁。東京地判平成18・7・6判時1951号106頁参照)、その範囲を訴訟提起の事実等の告知にまで拡張するものといえる。①誹謗中傷部分はその例外となるが、原判決の立場では、誹謗中傷部分そのものの虚偽性は問題とならず、②その前提となる事実が客観的に虚偽であれば、信用毀損行為が成立し得ることとなる。そのため、原判決では、本件発言の前提となる本件許諾契約の終了という事実を虚偽と認定し、本件発言の一部について本号の適用を認めたものと考えられる。しかし、本号の不正競争行為は競業者の営業上の信用を攻撃するところにその不正競争性があるのだから(経済産業省知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法〔第2版〕][2019]154頁参照)、全体として受け手が真実に反する誤解をしないような誹謗中傷は本号の不正競争性を欠くのであって、民法上の不法行為や人格権侵害等に該当し得ることは別論、本号の信用毀損行為には該当しないものというべきである。本件発言は、「受け手の普通の注意と聞き方」を基準とすれば、本件許諾契約の終了という事実自体について受け手に真実に反する誤解をさせるものではなく、その事実自体が客観的に虚偽であるかどうかにかかわらず、本号の信用毀損行為には当たらないと評価すべきである。本判決の立場が妥当である。
③ 本件掲載行為 本判決は、本件記事の掲載に至る一連の流れをYらによる本件掲載行為と把握する可能性は認めたが、本件発言と同様に、本件記事中のY2発言の引用部分は、本件雑誌の主な「読者の普通の注意と読み方」を基準とすれば真実に反する誤解をするような内容ではないとして、その不正競争性を否定した。これに対して、原判決は、本件記事の掲載はYらの行為とはいえないとしつつ、同引用部分の内容自体としても「一方当事者の言い分であることが読者に容易に理解できる」としてその不正競争性を否定しており、後者の点は本判決とも概ね一致する。
[参考文献]
本文中に掲げたもののほか、島田邦雄ほか・商事法務1655号53頁、高部真規子編著『最新裁判実務大系(11) 知的財産権訴訟Ⅱ』[2018]908頁(沖中康人)。