判例
商法会社法判例百選第4版A21
取締役の報酬請求権と定款の定めまたは株主総会決議
全文
## 最二小判平成15年2月21日(金判1180号29頁)
### 学習院大学教授 松元暢子 まつもと のぶこ
X会社(原告・被控訴人=附帯控訴人・上告人)の代表取締役の地位にあったY(被告・控訴人=附帯被控訴人・被上告人)は、Xから取締役の報酬として合計4275万円の支給を受けたが、これについては定款の規定、株主総会の決議、株主総会の決議に代わる全株主の同意のいずれもなかった。XがYに対し、旧商法269条(会社361条1項)に違反するなどと主張して、旧商法266条1項5号に基づき損害賠償責任を追及する本件訴訟を提起した。
本判決は次のように判示した。「株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。ただし、商法269条(会社361条1項)は、取締役の報酬額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである」。「そうすると、本件取締役の報酬については、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから、その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず、YがXに対し、
報酬請求権を有するものということはできない」。
原審は、取締役と会社の間には、通常、有償である旨の黙示の特約があり、株主総会の決議がない場合には、取締役は会社に対し社会通念上相当な額の報酬を請求することができると判示したが、本判決は原審とは異なり、「定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生」しないことを明らかにした。
この点、委任契約である取締役任用契約(会社330条)は無償が原則とされるところ(民648条1項)、判例・通説は、取締役任用契約には通常報酬を与える旨の明示または黙示の特約が含まれていると解してきた(上柳克郎ほか編集代表『新版注釈会社法(6)』(1987)388頁[法80法代])。但し、本判決が判示した事項は、取締役任用契約を無償・有償のいずれと解するかという問題ではない。本判決は、取締役任用契約が無償委任であるか有償委任であるかに関わらず、定款や株主総会決議がなければ具体的な報酬請求権は発生しないという考え方を示したものだと理解できる。
また、本判決は、株主全員の同意がある場合には、これを株主総会の決議と同視し、取締役の報酬請求権が発生することを示唆している点でも注目される(この立場の学説として、龍田節「役員報酬」統判例展望172頁、落合誠一・ジュリ616号143頁等。北村雅史・法教380号124-125頁も参照)。
[参考文献] 本文中に掲げたもののほか、藤原俊雄・金判1183号60頁、早川勝・リマークス2004(下)90頁、落合誠一編『会社法コンメンタール(8)』(2009)145頁以下(田中良)。
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## II 株式会社 — (4) 取締役・取締役会