この判例の核心
本件では、買収者による経営支配権取得を阻止するため、全株主に新株予約権を無償で割り当てながら、買収者及びその関係者だけがこれを行使できないという差別的な条件が付された。
この対抗措置について、中心となる問題は二つである。
第一に、買収者だけを不利に扱うことが株主平等原則の趣旨に反し、会社法247条1号の「法令又は定款に違反する場合」に当たらないか。
第二に、経営支配権の取得を阻止するために新株予約権無償割当てを利用することが、会社法247条2号の「著しく不公正な方法」に当たらないか。
本件では、いずれにも該当しないとされた。
事案
買収者Xは、Y社株式について公開買付けを行い、Y社の経営支配権を取得しようとした。
これに対してY社は、全株主に新株予約権を無償で割り当てることとした。ただし、新株予約権には、X及びその関係者はこれを行使することができないという差別的な行使条件が付されていた。
他の株主は新株予約権を行使するなどしてY社株式の交付を受けることができるため、この措置が実施されればX側の持株比率は大幅に低下する。
もっとも、Y社はX側に割り当てられた新株予約権を金銭を交付して取得することができ、その金額は新株予約権の価値に見合うものとされていた。
本件対抗措置は株主総会に付議され、X側にも意見を述べて議決権を行使する機会が与えられた上で、X及びその関係者以外のほとんどの株主の賛成によって承認された。
新株予約権無償割当てと差止め
新株予約権無償割当てとは、株式会社が株主に新たな払込みをさせずに新株予約権を割り当てる制度である(会社法277条)。
無償割当てに関する事項は、株主の有する株式数に応じて新株予約権を割り当てる内容でなければならない(会社法278条2項)。
他方、会社法247条は、文言上、会社法238条1項の募集に係る新株予約権の「発行」の差止めを定めており、新株予約権無償割当てについて直接の差止規定は置かれていない。
これは、通常の新株予約権無償割当てであれば株主にその持株数に応じて新株予約権が割り当てられ、既存株主の地位に不利益な変動が生じないことを前提とする。
しかし、本件のように、買収者だけが新株予約権を行使できず、他の株主がこれを行使することで買収者の持株比率が大幅に低下する場合には、無償割当てによって株主の地位に実質的な変動が生じる。
そこで、このような新株予約権無償割当てには、株主保護の必要性が募集新株予約権の発行の場合と共通することから、会社法247条が類推適用される。
したがって、本件では、会社法247条1号と会社法247条2号をそれぞれ検討する。
行使条件を付けること自体は許される
本件では、「X及びその関係者は新株予約権を行使できない」という行使条件が用いられている。
会社法は、新株予約権について行使条件が定められること自体を予定している。会社法911条3項12号ニが、新株予約権について行使条件を定めたときは、その条件を登記事項としていることが、その明文上の手掛かりである。
したがって、新株予約権に行使条件を付したこと自体が直ちに法令違反になるわけではない。
え、じゃあ行使条件を付けられるなら、買収者だけ使えない条件にしてもそのままOKってこと?
そうではない。会社法911条3項12号ニは、行使条件という仕組みそのものを会社法が予定していることを示すものであって、どのような内容の行使条件でも適法であることを意味しない。
本件のように、株主である買収者だけを他の株主と実質的に異なる取扱いにする行使条件については、別途、株主平等原則の趣旨との関係を検討しなければならない。
会社法247条1号――株主平等原則の趣旨
なぜ株主平等原則が問題になるのか
会社法109条1項は、株式会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを要求している。
もっとも、本件で直接異なる取扱いがされているのは株式そのものではなく、新株予約権の行使条件である。
そこで、会社法109条1項をそのまま直接適用するというのではなく、
株主平等の原則の趣旨は,株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合にも及ぶ
とされた。
新株予約権無償割当ては株主であることを基礎として行われ、しかも会社法278条2項が株式数に応じた割当てを要求している。その制度を利用して、行使条件によって特定株主だけに実質的な不利益を与えるのであれば、株主平等原則を潜脱することになり得るからである。
したがって、本件では、差別的行使条件が株主平等原則の趣旨に反するならば「法令違反」となり、会社法247条1号の差止事由となる。
ここで重要なのは、株主平等原則の趣旨との関係は、会社法247条1号の問題であるという位置付けである。
差別的取扱いが常に禁止されるわけではない
もっとも、株主平等原則の趣旨が及ぶからといって、株主間の異なる取扱いが一切許されないわけではない。
特定株主による経営支配権の取得によって会社の企業価値が毀損され、株主共同の利益が害される場合に、その侵害を防止するため特定株主を異なる取扱いにする必要が生じることがある。
そこで、特定株主による経営支配権取得に伴って企業価値が毀損され、株主共同の利益が害される場合には、その防止のための差別的取扱いも、
衡平の理念に反し,相当性を欠くものでない限り
株主平等原則の趣旨に反しないとされた。
したがって、会社法247条1号では、大きく必要性と相当性を見ることになる。
必要性――本当にその買収を防ぐ必要があるのか
まず、特定株主による経営支配権取得によって、本当に企業価値が毀損され、株主共同の利益が害されるのかが問題となる。
この判断を現経営陣だけに委ねることには問題がある。買収が成功すれば現経営陣自身が地位を失う可能性があるため、現経営陣には自己の地位を維持する方向への利害関係があるからである。
そこで、買収によって企業価値が毀損され、株主共同の利益が害されるかについては、
最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべき
とされた。
もっとも、株主総会で多数の賛成を得れば無条件にその判断が尊重されるわけではない。
株主総会における判断について、
株主自身の判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべきである
とされている。
したがって、株主意思を確認するときは、単に賛成率を見るのではなく、株主が十分な情報に基づいて判断したか、総会手続が適正であったか、判断の前提となった事実に重大な誤りがなかったかなどを見る必要がある。
本件では、X側を除くほとんどの株主が、Xによる経営支配権取得によって企業価値が毀損され、株主共同の利益が害されると判断した。
また、X側は経営支配権取得後の経営方針や投下資本の回収方針を明らかにしておらず、そのような事情を踏まえた株主の判断には、正当性を失わせるような重大な瑕疵がなかった。
そのため、買収に対抗する必要性についての株主の判断が尊重された。
相当性――必要でも、差別の程度には限界がある
買収を防止する必要性が認められても、買収者にどのような不利益を与えてもよいわけではない。
そこで、差別的取扱いが目的との関係で相当な範囲にあるかをさらに検討する。
本件では、X側が新株予約権を行使できないため、他の株主が新株予約権を行使すればX側の持株比率は低下する。これはX側にとって重大な不利益である。
しかし、X側にも株主総会で意見を述べる機会があり、X側を除くほとんどの株主がそのような差別的取扱いを是認していた。
さらに、X側に割り当てられた新株予約権については、Y社がその価値に見合う金銭を交付して取得することとされていた。
このように、X側の経済的利益にも配慮した設計となっていたため、本件の差別的取扱いは衡平の理念に反して相当性を欠くものではないとされた。
したがって、本件新株予約権無償割当ては株主平等原則の趣旨に反せず、「法令又は定款に違反する場合」には当たらないため、会社法247条1号には該当しない。
会社法247条2号――著しく不公正な方法
会社法247条1号に該当しなくても、それだけで差止めが否定されるわけではない。
さらに、本件新株予約権無償割当てが会社法247条2号の「著しく不公正な方法」によるものかを検討する。
買収局面で現経営陣が新株又は新株予約権を利用して買収者の持株比率を低下させることを広く認めれば、誰が会社を支配するかを現経営陣自身が決めることになりかねない。
そのため、
専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するため
に行われる対抗措置であれば、その不公正性が強く問題となる。
本件では、Xによる経営支配権取得の可能性が現実化したため、企業価値の毀損と株主共同の利益の侵害を防止する必要があると株主自身が判断し、本件措置が採用された。
また、X側には新株予約権の価値に見合う金銭が交付され、本件措置は専ら現経営陣又はこれを支持する特定株主の経営支配権を維持するために行われたものではなかった。
したがって、本件新株予約権無償割当ては「著しく不公正な方法」によるものではなく、会社法247条2号にも該当しない。
1号と2号で考慮事情が重なる理由
1号でも2号でも必要性とか相当性とか株主意思を見るなら、結局同じことを二回判断してないか?
実際、考慮事情はかなり重なる。
しかし、会社法247条1号と会社法247条2号では、その事情を評価する法的な問いが異なる。
会社法247条1号では、買収者だけを異なる取扱いにすることを正当化できるかが問題となる。そこで、企業価値・株主共同の利益を守る必要性があるか、そのために買収者を差別的に取り扱うことが相当かを検討する。
これに対し、会社法247条2号では、新株予約権無償割当てという手段を経営支配権争いのために利用すること自体が著しく不公正ではないかが問題となる。そこで、1号で検討した必要性・相当性や株主意思に加え、専ら現経営陣又はこれを支持する特定株主の経営支配権を維持する目的ではないかという点が特に重要になる。
したがって、
1号は「この差別を許してよいか」
2号は「この対抗措置の方法・目的は著しく不公正ではないか」
という違いがある。
同じ株主総会決議、同じ企業価値への危険、同じ金銭補償という事実が両方の判断に使われても問題はない。その事実によって答えようとしている法的な問いが異なるからである。
答案でも、1号で必要性・相当性を詳細に認定した後、2号で同じ事実を最初から繰り返す必要はない。2号では1号で評価した事情を踏まえつつ、対抗措置の目的、とりわけ現経営陣の経営支配権維持を専らの目的とするものではないかを中心に評価すればよい。
答案での思考順序
事例で差別的新株予約権無償割当てが出た場合、まず、募集新株予約権の「発行」ではなく会社法277条の新株予約権無償割当てであることを確認する。
次に、新株予約権無償割当てには直接の差止規定がないため、株主の地位に実質的変動を及ぼすことを理由として会社法247条を類推適用する。
その上で、会社法247条1号について、差別的行使条件が会社法109条1項の株主平等原則の趣旨に反するかを検討する。ここでは、企業価値・株主共同の利益の侵害を防止する必要性と、差別的取扱いの相当性を見る。必要性に関する株主の判断については、その正当性を失わせる重大な瑕疵がないかを確認する。
最後に、会社法247条2号について、既に検討した必要性・相当性・株主意思を踏まえつつ、本件措置が専ら現経営陣等の経営支配権維持を目的とするものではないかを検討する。
この順序を崩さなければ、株主平等原則と不公正発行を混同せずに処理できる。
射程を考えるときの注意
本件が重視したのは、単に「株主総会で賛成された」という一点ではない。
買収による企業価値・株主共同の利益への危険について株主が判断し、その判断に重大な瑕疵がなく、買収者に意見を述べる機会が与えられ、さらに買収者の経済的不利益にも配慮した措置であったという事情が重なっている。
したがって、株主総会の承認があっても、判断の基礎となる情報に重大な問題がある場合や、対抗措置が目的に比して過大である場合、専ら現経営陣の経営支配権維持を目的とする場合まで、本件と同じ結論になるわけではない。
また、会社法911条3項12号ニが行使条件の存在を予定していることと、具体的な差別的行使条件が適法であることは別問題である。行使条件を設定できることを確認した後、会社法247条1号及び会社法247条2号による実質的な審査へ進む必要がある。