判例
商法会社法判例百選第4版A39
名義書換末了株主による株式交換無効の訴えの提起
全文
名古屋地一言支判平成20年3月26日(金判1297号75頁)
京都大学教授
## 山下徹哉 やました てつや
本件は、株主名簿の名義書換末了の実質的株主と主張する者が、株式交換無効の訴えを提起したという事案であり、本判決は、当該者の原告適格を否定した。
訴外A社の完全子会社Y1社(被告)は、公開買付けにより、Y1社(被告)の総株主の議決権の96.62%に当たる議決権を所有する株主となった。その後、Y2社は、略式株式交換の手続によりY1社の完全子会社になる旨を取締役会で決議した(「本件株式交換」)。X社(原告)は、本件株式交換の効力発生日の前日時点でY2社の株主名簿に株主として記載されていなかったが、本件株式交換の無効を主張して本件訴えを提起した。本判決は、X社の原告適格を否定して、本件訴えを却下した(確定)。
本判決は、株式譲渡についての会社その他の第三者に対する対抗要件は株主名簿の名義書換であるから(会社130条1項)、実質的な株主であっても株主名簿の書換えを行っていなければ、株主たることを会社に対抗できず、株主としての原告適格は認められないと判示した。続いて、本判決は、会社が従前、当該名義書換末了株主を株主として認め、権利行使を容認してきたなどの特段の事情が認められる場合には、訴訟において会社が名義書換の欠陥を指摘して株主たる地位を争うことが、信義則(禁反訴)に反して許されないと判断されることがあろう。と判示した。その上で、認定事実によれば、Y2社が
株主としての権利行使をX社に認めたことは一度もないから、Y1社・Y2社による名義書換欠陥の主張は、信義則に違反しない、とする。
従前の裁判例は、新株発行無効の訴え(東京地判平成2・2・27金判855号22頁)や株主総会決議の取消しの訴え(大阪地判昭和35・5・19下民集11巻5号1132頁、東京地判昭和45・11・19下民集21巻11~12号1447頁、東京地判昭和63・1・28判時1269号144頁)について、名義書換末了の株主の原告適格を否定してきた。株式交換無効の訴えについて名義書換末了の株主の原告適格を判断した先例は見当たらないが、本判決の判断は、従前の裁判例の延長線上にあるといえる。学説では、一部に名義書換末了株主の原告適格を肯定する見解があったものの(三本・後掲29-34頁)、通説は否定していた(上柳克郎ほか編集代表『新版法釈会社法(5)』(1986)328頁[岩原紳作])。本判決を契機として、肯定説が有力に主張されている。肯定説は、会社に対する対抗の可否(実体法上の問題)と裁判所に対する訴訟行為の適法性(訴訟法上の問題)は直結させるべきではない、原告適格を認めても株主名簿制度の趣旨(会社の事務処理の便宜、集団的法律関係の画一的処理の要請)を害しない、名義書換が末了か否かにかかわらず株式交換の条件次第で経済的不利益を受けるから訴訟について定型的に重要な利害関係を有するなどと主張する(三本・後掲29-34頁、弥永・後掲201-207頁、土田・後掲95-97頁、小出・後掲185頁)。
[参考文献] 三木浩一「株主名簿に仮名で登録されている株主の総会決議取消訴訟における当事者適格」判タ696号25頁、弥永真生「会社の組織に関する訴えと株主の原告適格」慶應法学11号191頁、土田亮・ジュリ1416号94頁、小出篤「「組織に関する訴え」における原告適格の法定」神作裕之ほか編『会社裁判にかかる理論の到達点』[2014]172頁。
# V 組織再編・解散