判例
商法会社法判例百選第4版A40
会社分割によるゴルフ場事業の承継と預託金返還義務
全文
最三小判平成20年6月10日(判時2014号150頁)
京都大学准教授
## 高橋陽一 たかはし よういち
本判決に先立つ最判平成16・2・20(民集58巻2号367頁)は、「預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の営業の譲渡がされ、譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには、譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会員において、同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり、営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは、無理からぬ」として、平成17年改正前商法26条1項(会社22条1項)の類推適用を認めている。本判決は、会社分割の場合にも、当該判例法理が妥当するとした。
本件事案の概略は、次のとおりである。A社(被告)は、自己が営むゴルフ場事業(預託金会員制のゴルフクラブが設置されている)を新設分割によりY社(被告・被控訴人・被上告人)に承継させたが、分割計画書中、預託金返還債務は承継債務に含まれていなかった。当該新設分割の3か月後、A社およびY社は、ゴルフクラブの会員に対し、会社分割によりY社が設立された旨を伝え、会員
権をY社の株式に転換する旨を依頼する「お願い書」と題する書面(本件書面)を送付した。Y社は、ゴルフクラブの名称を引き続き使用し、ゴルフ場を経営している。ゴルフクラブの法人会員であったX社(原告・控訴人・上告人)は、A社およびY社に対し、退会の意思表示をした上で、預託金の返還を求めた。第一審および原審は、会社分割にも平成17年改正前商法26条1項の類推適用の余地があるとしつつ、本件書面の送付を理由に「特段の事情」があるとして、Y社への請求を棄却した(A社への請求は認容された)。
最高裁は、会社分割の場合も、外観への信頼を保護する必要性は変わらないとの理由から、上記平成16年最判の法理が「同様に妥当する」とした上で、本件書面ではY社がA社の従前の会員に対する義務を引き継がなかったことが明らかにされたとはいえないことから、本件書面の送付をもって「特段の事情」があるとはいえないと判示した。
こうした判例法理が形成される背景には、訴害的な事業譲渡や会社分割が少なくないことがある。もっとも、会社法22条1項による救済は、商号等の続用が要件となり、また、債務を引き継がない旨の通知等がなされれば発動しない。そのため、訴害的な事業譲渡や会社分割に対しては、端的に訴害性に着目した救済手段も重要となる(本書91事件の解説を参照)。
[参考文献] 片木晴彦・法教371号117頁、弥永真生・ジュリ1360号84頁、伊藤靖史ほか『事例で考える会社法(第2版)』[2015]377頁以下(伊藤)。
12 企業買収・支配権の争奪