判例
刑法刑法判例百選Ⅱ第8版30
建造物侵入,窃盗被告事件
窃取の意義
全文
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中20日を本刑に算入する。
理 由
弁護人滝戸ゆき緒の上告趣意は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,窃盗罪の成立範囲について,職権で判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
(1) 被告人,A及び氏名不詳者は,共謀の上,針金を使用して回胴式遊技機(通称パチスロ遊技機)からメダルを窃取する目的で,いわゆるパチスロ店に侵入し,Aが,同店に設置された回胴式遊技機1080番台において,所携の針金を差し込んで誤動作させるなどの方法(以下「ゴト行為」という。)により,メダルを取得した。
(2) 他方,被告人は,専ら店内の防犯カメラや店員による監視からAのゴト行為を隠ぺいする目的をもって,1080番台の左隣の1078番台において,通常の方法により遊戯していたものであり,被告人は,この通常の遊戯方法により,メダルを取得した。被告人は,自らが取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとを併せて換金し,A及び換金役を担当する氏名不詳者と共に,3等分して分配する予定であった。
(3) 被告人らの犯行が発覚した時点において,Aの座っていた1080番台の下皿には72枚のメダルが入っており,これは,すべてAがゴト行為により取得したものであった。他方,1078番台に座っていた被告人の太ももの上のドル箱には,414枚のメダルが入っており,これは,被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルと,Aがゴト行為により取得したメダルとが混在したものであった。
2 原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人の遊戯行為も本件犯行の一部となっているものと評することができ,被害店舗においてそのメダル取得を容認していないことが明らかであるとして,被告人の取得したメダルも本件窃盗の被害品ということができ,前記下皿内及びドル箱内のメダルを合計した486枚のメダル全部について窃盗罪が成立する旨判示した。
3 しかしながら,以上の事実関係の下においては,Aがゴト行為により取得したメダルについて窃盗罪が成立し,被告人もその共同正犯であったということはできるものの,被告人が自ら取得したメダルについては,被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものであるから,窃盗罪が成立するとはいえない。そうすると,被告人が通常の遊戯方法により取得したメダルとAがゴト行為により取得したメダルとが混在した前記ドル箱内のメダル414枚全体について窃盗罪が成立するとした原判決は,窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤り,ひいては事実を誤認したものであり,本件において窃盗罪が成立する範囲は,前記下皿内のメダル72枚のほか,前記ドル箱内のメダル414枚の一部にとどまるというべきである。もっとも,被告人がAによるメダルの窃盗について共同正犯としての責任を負うことは前記のとおりであり,関係証拠によれば前記ドル箱内のメダル414枚のうちの相当数もAが窃取したものであったと認められること及び原判決の認定判示したその余の量刑事情に照らすと,本件については,いまだ刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
よって,同法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
裁判長裁判官
櫻井龍子
裁判官
甲斐中辰夫
裁判官
涌井紀夫
裁判官
宮川光治
裁判官
金築誠志