判例
商法会社法判例百選第4版A22
定款の定めおよび株主総会決議を欠いて支給された退職慰労金の返還請求
全文
## 最二小判平成21年12月18日(判時2068号151頁)
### 学習院大学教授 松元暢子 まつもと のぶこ
本件は、X株式会社(原告・控訴人・被上告人)の取締役であったY(被告・被控訴人・上告人)が取締役退任に際して支給を受けた退職慰労金について、Xが、株主総会の決議が存在しないこと等を理由に、Yに対し、不当利得返還請求権などに基づき、退職慰労金相当額の支払を求めた事案である。Xの発行済株式総数の99.24%はXの代表者が保有しており、Xにおいては、退職慰労金は通常は株主総会の決議を経ることなく、代表取締役の決裁を中心とする手続により支給されていた。しかし、本件でYに対して行われた送金は、株主総会の決議もX代表者の決裁も経ずに行われた。本訴において、Yは、本件請求は信義則に反し、権利の濫用にあたるなどと主張した。原審がXの請求を認容すべきとしたのに対してYが上告受理申立て。
判旨は以下のように述べ、原判決を破棄し、信義則違反等の主張の当否について審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。「Yに対し退職慰労金を支給する旨の株主総会の決議等が存在しない以上は、Yには退職慰労金請求権が発生しておらず、Yが本件全員の支給を受けたことが不当利得になることは否定し難い……。しかし……[Yが退職慰労金支給を催告したところ約10日後に本件全員が送金され、Xがその返還を明確に求めたのはYへの送金後1年近く経過した日であったことなどから、Yが」、本件送金についてX代表者の決裁を経たものと信じたとしても無理からぬものがある。また、X代表者が、上記催告を受けて本件送金がされたことを、その直後に認識していたとの事実が認められるのであれば、X代表者において本件送金を事実上黙認してきたとの評価を免れない。さらに、Yは、Yが従前退職慰労金を支給された退任取締役と同等以上の業績を上げてきたとの事実も主張しており、上記各事実を前提とすれば、Yに対して退職慰労金を不支給とすべき合理的な理由があるなど特段の事情がない限り、XがYに対して本件全員の返還を請求することは、信義則に反し、権利の濫用として許されない」。
本判決は従来の裁判例(本書A21事件参照)を踏襲し、まず、株主総会の決議等が存在しない以上は退職慰労金請求権は発生せず、取締役が全員の支給を受けたことは不当利得になることを確認する。その上で、本件の事情の下では、一旦支払われた全員の返還を請求することが信義則に反し、権利の濫用にあたる可能性があることを示す。
閉鎖的な株式会社をめぐっては、退職慰労金が支給されない退任取締役を救済するための方法について議論が行われてきた(北村雅史・リマークス2011(上)87頁参照)。本判決は、特殊な事案の下での事例判断ではあるが(菊田秀雄・金判1356号5頁)、一旦支払われた全員について、会社が返還請求をすることが信義則・権利濫用に該当する可能性を示した事例として意義を有する。
[参考文献] 本文中に掲げたもののほか、落合誠一編『会社法コンメンタール(8)』(2009)145頁以下(田中良)、伊藤靖史・判評620号(判時2084号)22頁。
別冊 Jurist No.254
II 株式会社 — (4) 取締役・取締役会