判例
知的財産法特許法判例百選第6版15
審決取消請求事件
引用発明の適格性(国際シンポジウム要旨集)
全文
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2009-800063号事件について平成21年9月29日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告らが有する「電磁誘導加熱を利用した加熱装置」との名称の発明(以下「本件発明」という )に係る特許(第3680942号。以下「本。件特許」という )につき,無効審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたの。で,その取消しを求めた事案である。
主たる争点は,被告らによる訂正が適法であったか,及び,本件発明が,特開平3-184295号公報(甲1)に記載された発明(以下「甲1発明」という。),特開平7-254484号公報(甲2)に記載された発明(以下「甲2発明」という。),及び実願平3-9270号(実開平5-73896号)のCD-ROM(甲3)に記載された考案(以下「甲3発明」という )並びに周知技術に基づいて容。易に想到することができるか否かである。
1 特許庁における手続の経緯
被告らは,平成14年2月25日,本件発明につき出願し(甲13 ,平成17)年5月27日付けで設定登録を受けた。
原告は,平成21年3月25日,本件特許につき無効審判請求をしたところ,被告らは,同年6月22日付けで,訂正請求をした(甲14 。)
特許庁は,上記審判請求を無効2009-800063号事件として審理し,同年8月19日,口頭審理を実施した上で,同年9月29日 「訂正を認める。本件,審判の請求は,成り立たない 」旨の審決をし,その謄本は,同年10月9日,原。告に送達された。
2 本件発明の内容
本件発明につき,平成21年6月22日付け訂正請求(以下,この訂正請求による訂正を「本件訂正 ,訂正後の発明を「本件訂正発明」といい,そのうち請求項」1に係る発明を「本件訂正発明1」ともいう。また,同訂正前の明細書を「訂正前明細書 ,訂正後の明細書を「本件訂正明細書」といい,両者を併せて「本件明細」書」ともいう )により訂正される前の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし。3に記載されたものは,後記(1)のとおりであり,本件訂正後のものは,後記(2)のとおりである。
なお,本件訂正においては,請求項のほか,明細書の段落【0007】についても訂正され,その訂正前後の内容は,それぞれ後記(3),(4)のとおりであり,請求項の訂正を「訂正事項a ,明細書の段落【0007】の訂正を「訂正事項b」と」いう。
(1) 本件訂正前の請求項
「 請求項1】被加熱体を載置するプレートと,該プレートの下方部位に配設さ【れた高周波磁界を発生する加熱コイルと,前記被加熱体の温度を検知する温度センサと,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが,上記被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサであって,該赤外線センサの受光部が,アームを介して作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されていると共に,該受光部の近傍に,該受光部の油煙などによる汚れを防止するエアーノズルが配設され,かつ,該受光部に,該受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設されていることを特徴とする,電磁誘導加熱を利用した加熱装置。
【請求項2】上記制御手段が,上記温度センサによる検知温度が上記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に上記加熱コイルの出力を停止すると共に,被加熱体の加熱終了を知らせる音及び/又は光を発する制御を行うものであることを特徴とする,請求項1記載の電磁誘導加熱を利用した加熱装置。
【請求項3】上記赤外線センサが,受光部と制御部とが分離され,その間を光ファイバによって接続したファイバ式の赤外線センサであり,前記受光部が上記被加熱体の上方に配設され 前記制御部が本体内部に配設されていることを特徴とする, ,請求項1又は2記載の電磁誘導加熱を利用した加熱装置 」。
(2) 本件訂正後の請求項
「 請求項1】被加熱体を載置するプレートと,該プレートの下方部位に配設さ【れた高周波磁界を発生する加熱コイルと,前記被加熱体の温度を検知する温度センサと,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが,上記被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサであって,該赤外線センサの受光部が,アームを介して作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されていると共に,該受光部それ自体に,該受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され,かつ,該受光部及びターゲットライトの近傍に,該受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成するエアーノズルが配設されていることを特徴とする,電磁誘導加熱を利用した加熱装置 」。
請求項2,3は,訂正前と同じ。
(3) 訂正前明細書の段落【0007】
「 課題を解決するための手段】【
本発明は,上記した目的を達成するため,被加熱体を載置するプレートと,該プレートの下方部位に配設された高周波磁界を発生する加熱コイルと,前記被加熱体の温度を検知する温度センサと,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが,上記被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサであって,該赤外線センサの受光部が,アームを介して作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されていると共に,該受光部の近傍に,該受光部の油煙などによる汚れを防止するエアーノズルが配設され,かつ,該受光部に,該受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設されている電磁誘導加熱を利用した加熱装置とした 」。
(4) 本件訂正明細書の段落【0007】
「 課題を解決するための手段】【
本発明は,上記した目的を達成するため,被加熱体を載置するプレートと,該プレートの下方部位に配設された高周波磁界を発生する加熱コイルと,前記被加熱体の温度を検知する温度センサと,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが,上記被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサであって,該赤外線センサの受光部が,アームを介して作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されていると共に,該受光部それ自体に,該受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され,かつ,該受光部及びターゲットライトの近傍に,該受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成するエアーノズルが配設されている電磁誘導加熱を利用した加熱装置とした 」。
3 審決の内容
(1) 審決は,以下のとおり,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書に適合し,同条5項において準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するとして,同訂正を認めた。
ア 訂正事項aについて
「訂正事項aは,ターゲットライトが配設される位置を,『受光部』から,『受光部それ自体』であるとし(以下 「訂正事項a-1」という, 。),エアーノズルが配設される位置を『受光部の近傍』から『受光部及びターゲットライトの近傍』とし(以下,「訂正事項a-2」という。),エアーノズルにより『受光部の油煙などによる汚れを防止する』ものから『受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成する』もの(以下 「訂正事項a-3」とい,う )と訂正するものである。。
訂正事項a-1は,ターゲットライトの配設される位置を,受光部から,受光部それ自体とする限定するものであり,特許請求の範囲を減縮を目的とする訂正に該当する。そして,ターゲットライトの配設される位置を受光部それ自体とする点は,特許明細書の段落【0019】に 『また,上記赤外線センサ6の受光部10には,該受光部10が向く方向を指し示すター,ゲットライト15が設けられている 』と記載されており,図1及び図2から,受光部10の。側面にターゲットライト15が配設されている様子が見て取ることができるから,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
訂正事項a-2は,エアーノズルの配設される位置を,受光部近傍から受光部及びターゲットライトの近傍とするものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして,エアーノズルの配設位置を受光部及びターゲットライトの近傍とする点は,特許明細書の段落【0018】に 『図2及び図3に図示したものは,受光部10を支持する上記アーム9,に穿設された開口14を塞ぐ,所謂エアーカーテンKを形成するエアーノズル13が配設され』と記載されており,図2から,エアーノズルが受光部及びターゲットライトの近傍に配設されている様子が見て取ることができるから,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
訂正事項a-3は,エアーノズルにより,受光部の油煙などによる汚れを防止するというものから,受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成するものとするものであり,受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成することは,受光部の油煙などによる汚れを防止するという目的を成すための具体的な手段を示したものであると認められるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして,エアーノズルが受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成する点は,特許明細書の段落【0018】に 『図2及び図3に図示したものは,受光部10を支持する上記アー,ム9に穿設された開口14を塞ぐ,所謂エアーカーテンKを形成するエアーノズルが配設され』と記載されており,図2から,エアーノズルが受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成する様子が見て取ることができるから,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない 」。
イ 訂正事項bについて
「訂正事項bは,特許明細書の発明の詳細な説明の訂正前の記載を,訂正された特許請求の範囲に整合させるための訂正であるから,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し,また,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない 」。
(2) また,審決は,以下のとおり,甲1発明,甲2発明及び甲3発明から本件訂正発明を想到することは容易ではなかったとして,本件訂正発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではないとした。
ア 請求項1について
(ア) 甲2発明を主引例とする場合
a 甲2発明の内容
「容器を載置する載置板と,該載置板の下方部位に配設された高周波磁界を発生する通電コイルと,前記容器の温度を検知する温度検出部と,設定手段と,制御部とを具備する電磁誘導現象を利用した誘導加熱調理器であって,上記温度検出部が,上記容器から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサであって,該赤外線センサが,ハウジングの後部に立設されたセンサハウジングの先端(上端)側内部に配設されて,電磁誘導現象を利用した誘導加熱調理器 」。
b 甲2発明と本件訂正発明の一致点及び相違点
(a) 一致点
「 被加熱体を載置するプレートと,該プレートの下方部位に配設された高周波磁界を発生『する加熱コイルと,前記被加熱体の温度を検知する温度センサと,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが,上記被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサを備えた電磁誘導加熱を利用した加熱装置 』である点 」。 。
(b) 相違点1-1
「赤外線センサに関し,本件訂正発明1では 『赤外線センサの受光部が,アームを介して,作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されている』のに対し,甲2発明は,赤外線センサが,ハウジングの後部に立設されたセンサハウジングの先端(上端)側内部に配設されている点 」。
(c) 相違点1-2
「本件訂正発明1は 『受光部それ自体に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライト,が配設され』ているのに対し,甲2発明には,ターゲットライトは配設されていない点 」。
(d) 相違点1-3
「本件訂正発明1は 『受光部及びターゲットライトの近傍に,受光部及びターゲットライ,トの前方を横切るエアーカーテンを形成するエアーノズルが配設されている』のに対し,甲2発明には,エアーノズルは配設されていない点 」。
c 容易想到性について
(a) 相違点1-1について
「甲3に記載された事項の『温度センサ』,『被加熱皿』は,本件訂正発明の『受光部』,『被加熱体』に相当する。そして,図1,図2,図4から,温度センサは,アームを介して配設されており,作業者の邪魔とならない被加熱体の上方位置にあるとも言えるものであるから,甲3に記載された事項は,電磁皿加熱装置において 『赤外線センサの受光部が,アームを介し,て作業者の邪魔とならない被加熱体の上方に配設されている』と言うことができるものである。そして,甲2に記載の誘導加熱調理器と甲3に記載の電磁皿加熱装置とは,同一の技術分野に属するものであるから,甲2発明において,甲3に記載の点を採用することにより本件訂正発明1の相違点1-1に係る構成とすることは,当業者が容易に成し得るものである。
(b) 相違点1-2について
「甲5に記載された事項の『赤外線検出器』,『位置ぎめ用スポットライト』は,本件訂正発明1の『受光部』,『ターゲットライト』に相当し,第2図を参酌すると,位置ぎめ用スポットライトが赤外線検出器の近傍に配設されている様子が見て取れる。そうしてみると,甲5に記載された事項は 『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設さ,れ』ていると言うことができるものの,受光部とターゲットライトとは別々に他の部材に設置されているものであるから,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではない。また,甲6に記載された事項の『赤外線検出器』,『スポツトライト』は,本件訂正発明1の『受光部』,『ターゲットライト』に相当し,第3図を参酌すると,スポットライトが赤外線検出器の近傍に配設されている様子が見て取れる。そうしてみると,甲6に記載された事項は,『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され』ていると言うことができるものの,受光部とターゲットライトとは別々に他の部材に設置されているものであるから,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではない。次に,甲7について検討するに,甲7に記載の事項の 『温度検知部, 』,『レーザーマーカー発生部』は,本件訂正発明1の『受光部』,『ターゲットライト』に相当する。そうしてみると,甲7には,『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され』ている点が記載されていると言うことができるものの,温度検知部はノズルに,レーザーマーカー発生部は補助ノズルに,それぞれ,別々に収納されているものであるから,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではない。さらに,甲8について検討するに,甲8に記載の事項の『輻射線検出器』,『投光器』は,本件訂正発明1の『受光部』,『ターゲットライト』に相当する。そうしてみると,甲8には 『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲット,ライトが配設され』ている点が記載されていると言うことができるものの,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではない。さらに,甲9について検討するに,甲9に記載の事項の『赤外線検出器』,『ランプ』は,本件訂正発明1の『受光部』,『ターゲットライト』に相当する。そうしてみると,甲9には 『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示,すターゲットライトが配設され』ている点が記載されていると言うことができるものの,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではない。以上のとおり,甲5乃至甲9には 『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され』ている,点が記載されていると言うことができるものの,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではない。
そして 『受光部それ自体』にターゲットライトを配設することと『受光部の近傍』にター,ゲットライトを配設することの違いについて,本件訂正発明は,赤外線センサの受光部が,アームを介して作業者の邪魔とならない被加熱体の上方に配設されて,受光部それ自体に,ターゲットライトが配設してあることにより 『赤外線センサの受光部が何らかの外力により動い,てしまった場合においても,該受光部それ自体に配設したターゲットライトも同様に動き,受光部が被加熱体の方向を向いているか否かをターゲットライトの光線の方向により容易に確認でき,赤外線センサの受光部を常に被加熱体の方向に正確に向けることができる』という作用効果(以下 『作用効果1』という )及び『受光部の汚れをターゲットライトの光量の減少に, 。より判断することができ』るという作用効果(以下『作用効果2』という )を奏するもので。ある。そして,作用効果1に関して,甲5に記載された事項,甲6に記載された事項及び甲9に記載された事項は,受光部に相当するものとターゲットライトに相当するものがそれぞれ別々に設置されているものであるから,作用効果1を奏するものではない。また,甲7に記載された事項と甲8に記載された事項とは,受光部に相当するものとターゲットライトに相当するものとを,一体的に動かす点においては,作用効果1と類似の作用効果を奏するものであるが,本件訂正発明1は,受光部とターゲットライトとが常に一体となって固定しているものであり,外力により動いたとしても,常に一体に動くよう受光部自体にターゲットライトが配設されているので,作用効果1を奏するものである。それに対し,甲7,8は,その前提が異なり,また前述したように,受光部それ自体に配設されているものではないから,何らかの外力により動いてしまう事を考慮する契機は生じることがなく,作用効果1を想到することもできない。また,作用効果2に関しても,甲5及び甲6には,受光部の近傍にターゲットライトが配設されていることが記載されているとは認められるものの,受光部は機械室に設けられ,ターゲットライトはオーブンに面して設けられたものが記載されており,設置される空間が異なるものであるから,汚れの進行が同程度であるかどうかは明らかでなく,また,汚れの進行の判断に関する事項を示唆する記載もない。また,甲7については,放射温度計に関するもので,上記作用効果を示唆するものではない。甲8に関しても,輻射線検出器と投光器は別の場所に設けられていると言えるものであって,汚れの進行が同程度であるかどうかは明らかでなく,また,汚れの進行の判断に関する事項を示唆する記載もない。さらに,甲9については,放射線検出器とランプが同一室(チョッパー室)内にあるものの,配設された向きや他の部材(チョッパー,反射鏡)との配置の関係で汚れの進行が同程度であるかどうか明らかでなく,また,汚れの進行の判断に関する事項を示唆する記載もない。
そうしてみると,受光部それ自体にターゲットライトを配設する点は,単なる設計事項とは言えないものである 」。
(c) 相違点1-3について
「甲4に記載された事項の『センサユニット』は,本件訂正発明1の『受光部』に相当し,甲4の『排気用ファンは』は,送風機構という点で,本件訂正発明1の『エアーノズル』と一致する。そうしてみると,甲4に記載の事項は,本件訂正発明1の相違点3に係る構成と,『受光部の近傍に,受光部の前方を横切るエアーカーテンを形成する送風機構が配設されている』点で一致し,本件訂正発明1の相違点3に係る構成は,エアーカーテンが受光部及びターゲットライトの前方を横切るのに対し,甲4に記載の事項は,受光部を前方を横切る点,及び,送風機構に関し,本件訂正発明の相違点3に係る発明は,エアーノズルであるのに対し,甲4に記載の事項は,排気用ファンである点で相違する。
そして,送風機構をどのようなものとするかは当業者が適宜決定すべきものであり,送風機構として,エアーノズルは広く慣用されているものであって,エアーノズルを採用したことによって格段の作用効果を奏するものでもない。
しかしながら,受光部のみでなく,ターゲットライトの前方をも横切るようにエアーカーテンを形成することは,甲4には記載されておらず,また,それを示唆する記載もない。また,他の証拠についても本件訂正発明1の相違点1-3に係る構成は記載されておらず,また,それを示唆する記載もない。そして,本件訂正発明は,上記構成によって,ターゲットライトの油煙などによる汚れが防止できるという作用効果を奏するものである 」。
(イ) 甲1発明を主引例とする場合
a 甲1発明の内容
「鍋を載置する調理容器載置面と,該調理容器載置面の下方部位に配設された高周波磁界を発生する誘導加熱コイルと,前記鍋の温度を検知する赤外線センサーと,前記加熱または加熱停止の判断の基準となる基準設定部と,鍋の温度が上昇して基準温度より高くなれば,誘導加熱コイルに供給する電力を停止する加熱制御回路とを具備する磁束による渦電流で調理用鍋などの加熱を行う誘導加熱調理器であって,上記赤外線センサが,上記鍋から発せられる赤外線を捕らえ,温度に応じた信号を出力する赤外線センサーであって,上記赤外線センサーが誘導加熱調理器本体の内部に配設されている磁束による渦電流で調理用鍋などの加熱を行う誘導加熱調理器 」。
なお,審決は,「誘導加熱調理器において,加熱または加熱停止の判断の基準となる基準設定部と,鍋の温度が上昇して基準温度より高くなれば,誘導加熱コイルに供給する電力を停止する加熱制御回路」を「甲1に記載された事項」と認定している。
b 甲1発明と本件訂正発明の一致点及び相違点
(a) 一致点
「 被加熱体を載置するプレートと,該プレートの下方部位に配設された高周波磁界を発生『する加熱コイルと,前記被加熱体の温度を検知する温度センサと,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが,上記被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検知する赤外線センサを備えた電磁誘導加熱を利用した加熱装置 』である点 」。 。
(b) 相違点2-1
「赤外線センサに関し,本件訂正発明1では 『赤外線センサの受光部が,アームを介して,作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されている』のに対し,甲1発明は,赤外線センサが誘導加熱調理器本体の内部に配設されている点 」。
(c) 相違点2-2
「本件訂正発明1は 『受光部それ自体に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライト,が配設され』ているのに対し,甲1発明には,ターゲットライトは配設されていない点 」。
(d) 相違点2-3
「本件訂正発明1は 『受光部及びターゲットライトの近傍に,受光部及びターゲットライ,トの前方を横切るエアーカーテンを形成するエアーノズルが配設されている』のに対し,甲1発明には,エアーノズルは配設されていない点 」。
c 容易想到性について
(a) 相違点2-1について
「上記『・・・相違点1-1について』において検討したのと同様に,甲1に記載の誘導加熱調理器と甲3に記載の電磁皿加熱装置とは,同一の技術分野に属するものであるから,甲2に記載の発明において,甲3に記載の点を採用することにより本件訂正発明1の相違点2-1に係る構成とすることは,当業者が容易に成し得るものである 」。
(b) 相違点2-2について
「上記『・・・相違点1-2について』において検討したのと同様に,甲5乃至甲9には,『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され』ている点が記載されていると言うことができるものの,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているとは認められず,受光部それ自体にターゲットライトを配設することより,受光部の近傍にターゲットライトを配設することによっては得られない特有の作用効果1,2を奏するものである 」。
(c) 相違点2-3について
「上記『・・・相違点1-3について』において検討したのと同様に,受光部のみでなく,ターゲットライトの前方をも横切るようにエアーカーテンを形成することは,甲4には記載されておらず,また,それを示唆する記載もない。そして,本件訂正発明1は,上記構成によって,ターゲットライトの油煙などによる汚れが防止できるという作用効果を奏するものである 」。
(ウ) 甲3発明を主引例とする場合
a 甲3発明の内容
「被加熱皿を載置するトレー材と,トッププレートの下方部位に配設された交番磁界を発生する磁力発生コイルと,前記被加熱皿の温度を検出する温度センサと,被加熱皿が設定温度以上になるとこれを温度センサが検出し,この加熱完了信号によって皿移送機構を駆動し,そのトレー材を次位置に移送して停止させるように構成した制御手段とを具備する電磁誘導加熱を利用した電磁皿加熱装置であって,上記温度センサが,被加熱皿の表面温度を検出する赤外線方式の温度センサであって,該温度センサが,上記被加熱皿の上方に配設されている電磁誘導加熱を利用した電磁皿加熱装置 」。
なお,審決は,「電磁皿加熱装置において,温度センサが,被加熱皿の上方に配設されている点」を「甲3に記載された事項」と認定している。
b 甲3発明と本件訂正発明の一致点及び相違点
(a) 一致点
「プレートの下方部位に配設された高周波磁界を発生する加熱コイルと,被加熱体の温度を検知する温度センサとを具備する電磁誘導加熱を利用した加熱装置であって,上記温度センサが被加熱体から放出される赤外線を受光し,該受光した赤外線から被加熱体の温度を検出する赤外センサであって,該赤外線センサが上記被加熱体の上方に配設されている電磁誘導を利用した加熱装置 」。
(b) 相違点3-1
「本件訂正発明1は,被加熱体がプレートに載置されているのに対し,甲3発明は,被加熱体がトッププレートではなくトレー材に載置されている点 」。
(c) 相違点3-2
「本件訂正発明1は,前記被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段を具備し,制御手段が,前記温度センサによる検知温度が前記加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に前記加熱コイルの出力を停止する制御手段であるのに対し,甲3発明は,加熱温度設定手段を備えておらず,制御手段は,被加熱皿が設定温度以上になるとこれを温度センサが検出し,この加熱完了信号によって皿移送機構を駆動し,そのトレー材を次位置に移送して停止させるように構成した制御手段である点 」。
(d) 相違点3-3
「温度センサに関して,本件訂正発明は,赤外線センサの受光部が,アームを介して作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されているのに対し,甲3発明は,被加熱皿の上方に配設された赤外線センサであるものの受光部について及び作業者との関係については記載されていない点 」。
(e) 相違点3-4
「本件訂正発明1は 『受光部それ自体に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライト,が配設され』ているのに対し,甲3発明には,そのようなものは配設されていない点 」。
(f) 相違点3-5
「本件訂正発明1は 『受光部及びターゲットライトの近傍に,受光部及びターゲットライ,トの前方を横切るエアーカーテンを形成するエアーノズルが配設されている』のに対し,甲3発明には,そのようなものは配設されていない点 」。
c 容易想到性について
(a) 相違点3-1について
「甲3発明は,被加熱体がトレー材に載置されており,トレー材は皿移送機構によって循環移送可能なものであって,複数個の被加熱体を効率的に加熱することができるものであるから,被加熱体がトレー材に載置されることは必須の構成要件であるとも考えられる。しかしながら,被加熱体をプレートに載置し,加熱を行うことも,甲1,甲2にもみられるように通常行われていることであって,甲3発明において,被加熱体をプレートに載置することは,前記作用効果が損なわれるものの,適用が困難というものでもない 」。
(b) 相違点3-2について
「甲1に記載された事項において,甲1に記載された事項の『鍋』は本件訂正発明1の『被加熱体』に相当し,以下同様に 『誘導加熱コイル』は『加熱コイル』に 『赤外線センサー』, ,は『温度センサ』に 『基準設定部』は『加熱温度設定手段』に 『加熱制御回路』は『制御手, ,段』に,『誘導加熱調理器』は『電磁誘導加熱を利用した加熱装置』に,それぞれ,相当する。そうしてみると,甲1には 『被加熱体の加熱温度を設定する加熱温度設定手段と,温度セン,サによる検知温度が加熱温度設定手段による加熱温度に達した時に加熱コイルの出力を停止する制御手段』と読み替えることができる。そして,甲3発明と,甲1に記載された事項とは,同一の技術分野に属するものであり,甲3発明に甲1に記載された事項を採用することに困難性はない 」。
(c) 相違点3-3について
「甲3発明における温度センサが受光部を備えていることは自明であって,また,温度センサが,アームを介して配設されている様子も図1乃至図3から見て取ることができる。また,作業者の邪魔とならない被加熱体の上方に配設されているとも言えるものであるから,相違点3-3は実質的な相違点ではない 」。
(d) 相違点3-4について
「上記『・・・相違点1-2について』において検討したのと同様に,甲5乃至甲9には,『受光部の近傍に,受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され』ている点が記載されていると言うことができるものの,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているとは認められず,受光部それ自体にターゲットライトを配設することより,受光部の近傍にターゲットライトを配設することによっては得られない特有の作用効果1,2を奏するものである 」。
(e) 相違点3-5について
「上記『・・・相違点1-3について』において検討したのと同様に,受光部のみでなく,ターゲットライトの前方をも横切るようにエアーカーテンを形成することは,甲4には記載されておらず,また,それを示唆する記載もない。そして,本件訂正発明1は,上記構成によって,ターゲットライトの油煙などによる汚れが防止できるという作用効果を奏するものである 」。
イ 請求項2,3について
「請求項2は請求項1を引用し,請求項3は請求項1又は2を引用しているものである。ここで ・・・において言及したとおり,本件訂正発明1は,相違点1-2,相違点1-3,あるいは相違点2-1,相違点2-2,あるいは相違点3-4,相違点3-5の構成により甲1乃至甲11に記載された発明あるいは事項から容易に想到し得るとすることはできないとしたものであるので,請求項1における特定事項をすべて含み,さらに,別の特定事項を備える本件訂正発明2及び本件訂正発明3も同様に上記相違点の構成により甲1乃至甲11に記載された発明あるいは事項から容易に想到し得るとすることはできない 」。
第3 原告主張の要旨
審決は,以下のとおり,訂正の適否についての判断を誤り,審理の手続に関して手続違背があり,進歩性についての判断も誤ったものである。
1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)
(1) 訂正事項a-1(ターゲットライトが配設される位置を,「受光部」から「受光部それ自体」とする訂正)は,以下のとおり,新規事項の追加に該当する。
(2)ア 審決は,訂正事項a-1が新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことの根拠として,以下の2つを挙げている。
① 本件明細書の段落【0019】に 「また,上記赤外線センサ6の受光部1,0には,該受光部10が向く方向を指し示すターゲットライト15が設けられている 」と記載されていること。
② 図1及び図2から,受光部10の側面にターゲットライト15が配設されている様子が見て取ることができること
他方で,審決は 「訂正事項a-1は,ターゲットライトの配設される位置を,,受光部から受光部それ自体とする限定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する」と認定しており,すなわち「受光部それ自体」は「受光部」とは異なる概念(下位概念)であると認定している。
そうすると,根拠①は「ターゲットライトの配設される位置が『受光部』であること」が記載されているのみであるから 「受光部」をその下位概念である「受光,部それ自体」と訂正することの根拠となり得ないことは明白であり,実質的には根拠②のみが,訂正事項a-1の根拠ということになる。
根拠②について,確かに,審決が認定するとおり,図1及び図2からは受光部10の側面にターゲットライト15が配設されている様子が見て取れる。しかし,「受光部それ自体」と「受光部の側面」は明らかに異なる概念である。
「受光部それ自体」が,少なくとも「受光部の側面」のみを意味するとは解釈できず 「受光部の先端面(図2では右側の面 」や「受光部の下面(図2では下側の, )面 」等も含むものと解釈される。)
しかし 「受光部の先端面」や「受光部の下面」にターゲットライトを配設する,ことは,明細書及び図面には記載されていない。
そうすると,ターゲットライトの配設される位置を 「受光部」から「受光部の,側面」とする訂正であれば,明細書及び図面に記載された事項の範囲内でする訂正といえるが 「受光部それ自体」とする訂正は,明細書及び図面に記載された事項,の範囲内でする訂正とはいえず,新規事項の追加に該当するものである。
イ なお,特許請求の範囲に記載する技術用語は,学術用語でなければならず,光センサの技術分野において 「受光部」という学術用語は,文字通り「光を受け,る部分」を意味するものであり,具体的にはフォトトランジスタやフォトダイオード等の受光素子を意味するものである。
そして,甲20ないし23には 「受光部」がフォトトランジスタやフォトダイ,オード等の光を受ける受光素子からなること,及びこれらの受光素子はケースに配設されていること(すなわち受光素子そのものにはケースは含まれないこと)が記載されており,光センサの技術分野において 「受光部」が「受光素子」を意味す,ることは,特許公報(甲20ないし23)のみならず,学術専門誌(甲24)の記載においても裏付けられている。
以上から 「受光部それ自体」とは 「ケースを含まない受光素子そのもの」を意, ,味すると解すべきである。
なお,被告らは 「受光部」イコール「受光素子」ではないとして,乙1の1な,いし4を提出するが,乙1の3及び4は,特許庁の審査を経ることなく発行された公開公報であるから 「受光部」の意味を解釈するために参酌する文献としては不,適当である。もっとも,乙1の4に記載された「受光部22」は,明細書及び図面の記載を参照すると 「受光素子」を意味することが明らかであり,乙1の1ない,し3においては 「受光部」という文言の意味が明細書中に明確に定義されている,から,本来「受光部」は「受光素子」と解釈すべきところ,明細書の記載を参酌して「受光素子」以外のものも含むという拡大解釈が許されるにすぎない。これに対し,本件発明では,明細書中に「受光部」という文言の定義が一切されていないので 「受光部」を拡大解釈することは許されず,原則どおり「受光素子」と解釈す,べきである。
そうすると,本件訂正発明における「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」との記載は 「ケースを含まない受光素子そのものにターゲットライ,トが配設されている」と解釈されなければならない。
しかし,ケースを含まない受光素子そのものにターゲットライトを配設することは技術的に不可能である。実際,本件特許の明細書及び図面には 「受光素子を収,容するケースにターゲットライトが配設されている 構成が記載されているのみで」 ,「受光素子そのものにターゲットライトが配設されている」構成は記載されていない。
したがって,審決は,訂正の適否について判断を誤り,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,取り消されるべきである。
ウ 仮に,本件発明において「受光部」イコール「受光素子」ではないと認定できるとしても,逆に「受光部」イコール「受光素子」であるとの認定も可能であるところ,本件訂正発明における「受光部」という文言は,2通りに解釈できる,意味を特定できない不明瞭な文言であることになる上,被告らの主張を前提とした場合,ターゲットライトが 「受光部」を構成する複数の部材のうちどの部材のどの,位置に付いているかが全く不明である。このように,訂正後の特許を受けようとする発明が不明確になるような訂正は,新規事項の追加又は実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものである。
2 取消事由2(手続違背)
(1) 本件での審判手続では,平成21年6月22日付けで,被請求人ら(被告ら)により訂正請求書が提出され,審判合議体は,当該訂正請求書による訂正を認めた上で,審判請求が成り立たない旨の審決をした。
つまり,本件での審判手続では,訂正により無効審判の対象に変更が生じたものであり,このような場合には 「審判請求人に従前の攻撃防御を修正・補充する機,会を与える必要のない特段の事情があるときを除いて,審判官は,変更された後の審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない。」(最高裁昭和45年(行ツ)第32号)とされている。
そして,審決では,訂正により新たに付加された構成要件に基づいて生じた甲1発明ないし甲3発明との相違点を理由として,請求人(原告)が主張した無効理由を排斥し,審判請求が成り立たないとしたものであるから,上記判示における「審判請求人に従前の攻撃防御を修正・補充する機会を与える必要のない特段の事情があるとき」に該当しないことは明らかである。
そうすると,本件での審判手続においては,訂正後の特許発明につき,請求人(原告)に対して,相当の期間を示して弁駁書の提出の機会が与えられるべきであったのである。
しかし,審判合議体は,訂正後の特許発明につき,請求人(原告)に対して弁駁書の提出の機会を与えることなく審決を行った。
(2) なお,被告らは,口頭審理において 「本件訂正発明は,アームが動き,そ,
れにより受光部も動くことを含むものである 」旨陳述したが,この主張は口頭審。理において初めてされたものである。
一方,審決は,口頭審理において初めてされた被告らの上記陳述を基礎として,本件訂正発明が作用効果1(赤外線センサの受光部が何らかの外力により動いてしまった場合においても,該受光部それ自体に配設したターゲットライトも同様に動き,受光部が被加熱体の方向を向いているか否かをターゲットライトの光線の方向により容易に確認でき,赤外線センサの受光部を常に被加熱体の方向に正確に向けることができる旨の作用効果)を奏する旨認定し,同認定を前提として本件訂正発明の進歩性を判断した。口頭審理においては,被告らの「本件訂正発明は,アームが動き,それにより受光部が動くことを含むものである 」との主張の採否を原告。に示さず,かつ当該主張に対する反論を原告に求めることなく,審判長により「以後書面審理とする 」との宣言がされ,書面審理においては被告らの主張を採用し。て進歩性の判断が行われた。
書面審理において被告らの主張を採用するのであれば,当然,原告に対して,再度弁駁の機会を与えるべきであったのであり,原告に対して弁駁の機会を与えることなく進歩性を判断したことには,手続上の瑕疵がある。
また,前記1(2)ウのとおり 「受光部」という文言の解釈に疑義があるにもかか,わらず,特許庁は,無効審判の審理手続において,請求人に対して何ら意見を求めることなく,訂正が適法である旨の審決をしたものであり,手続上の瑕疵がある。
(3) このように,審決には,審理手続における手続上の瑕疵があり,この瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法であって,取り消されるべきである。
3 取消事由3(進歩性についての判断の誤り)
(1) 主位的主張
取消事由1で主張したとおり,本件訂正は,訂正要件を満たしていないので,認められない。したがって,本件発明は,本件訂正前の内容の発明である。
しかるに,審決は,本件訂正を認めて,同訂正後の発明を本件発明と認定しているから,本件発明の認定に誤りがある。
そして,審決が,本件発明につき,甲1発明ないし甲3発明との相違点として認定した点は,いずれも本件発明(本件訂正前の発明)が備えていない構成であるから,審決の進歩性判断に誤りがあることは明らかであり,この誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法であって,審決は取り消されるべきである。
(2) 予備的主張
仮に,本件訂正が訂正要件を満たしているとしても,以下のとおり,本件訂正発明には進歩性が認められない。
ア 相違点1-2,2-2,3-4について
(ア) 構成について
a 本件訂正の根拠となった図1及び図2を参照すると,「受光部10」及び「ターゲットライト15」は,いずれも長方形状の物体として描かれている。
しかし,技術常識を考慮すると,図1及び図2に長方形状の物体として描かれた「受光部10」及び「ターゲットライト15」は,受光部(受光素子)やターゲットライト(発光素子)そのものを表しているのではなく,受光部(受光素子)やターゲットライト(発光素子)がケース(ハウジング)の内部に収容されている状態を表しているのは明らかである。
したがって 「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」という発,明特定事項には 「受光部(受光素子)を収容したケース(ハウジング)に,ター,ゲットライト(発光素子)を収容したケース(ハウジング)が配設されている」ものも含まれると解すべきである。
b 一方,甲7には 「受光部(温度検知部)を収容したケース(ノズル)に,,
ターゲットライト(レーザーマーカー発生部)を収容したケース(補助ノズル)が配設されている」構成が記載されており,上記解釈に基づくと,当該構成は「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている という発明特定事項に含まれる」 。したがって,甲7には,「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」構成が記載されているといえ 「受光部それ自体にターゲットライトが配設されて,いる」構成は甲7に記載された構成も含むことになる。
なお,被告らは 「甲7に開示された構成は,受光部それ自体(温度検知部)で,はなくこれを収納したケース(ノズル5)にターゲットライトが配設されているから,本件訂正発明の構成とは全く異なる」旨主張するが,他方で,被告らは 「受,光部」には「受光素子」以外の光を導く部分が含まれると主張しており,被告らの両主張は矛盾している。
c その結果,相違点1-2,2-2,3-4は相違点とはなり得ず,審決が,相違点1-2,2-2,3-4の構成に基づいて本件訂正発明の進歩性を判断したことは誤りである。
なお,被告らの主張に基づけば 「受光部それ自体にターゲットライトが配設さ,れている」とは,「受光部を収容したケースにターゲットライトが配設されている」場合を含まず 「ケースを含まない受光素子そのものにターゲットライトが配設さ,れている」ことを意味すると解釈するしかない。
しかし 「ケースを含まない受光素子そのものにターゲットライトが配設されて,いる」構成は,明細書及び図面には記載されておらず,本件訂正請求が違法であることになる。
(イ) 作用効果について
a 審決は,受光部それ自体にターゲットライトが配設してあることにより,「赤外線センサの受光部が何らかの外力により動いてしまった場合においても,該受光部が被加熱体の方向を向いているか否かをターゲットライトの光線の方向により容易に確認でき 赤外線センサの受光部を常に被加熱体の方向に向けることができる, 」との作用効果1及び「受光部の汚れをターゲットライトの光量の減少により判断することができる」との作用効果2を奏し,これらの作用効果は,本件訂正発明に特有の作用効果であると認定している。
しかし,これらの作用効果1,2は,相違点1-2,2-2,3-4の存在を前提としたものであって,これら相違点が存在しない以上,本件訂正発明に特有の作用効果といえないことは明白である。
b 仮に,これらの相違点の存在を認めたとしても,作用効果1,2は本件訂正発明の進歩性の根拠とはなり得ない。
まず,作用効果1についてであるが,甲7,8記載の発明においても 「受光部,が外力により動いた場合には,ターゲットライトもそれに伴って動く」ことはその構造上明らかである。つまり,甲7記載の発明では 「受光部(温度検知部)を収,容したノズルが外力により動いた場合には,ターゲットライト(レーザーマーカー発生部)を収容した補助ノズル6もそれに伴って動く」ものであり,甲8記載の発明では 「受光部(輻射線検出器6)が外力により動いた場合には,ターゲットラ,イト(投光器13)も揺動板12と共にそれに伴って動く」ものである。
したがって,甲7,8記載の発明も,作用効果1を奏することが明らかであり,甲7,8記載事項から作用効果1を想到することができないとはいえない。
なお,甲7記載の発明は,本件訂正発明と同じく「対象物の温度を赤外線により検知して計測し,計測位置をレーザーマーカー(ターゲットライト)で指し示す」技術であることから,本件訂正発明と近似する技術分野に属するものである。しかも,甲7に記載されたようなレーザーマーカー等で計測位置を指し示す非接触式の放射温度計を加熱調理器内の温度測定に使用することは 本件訂正発明の出願当時, ,当業者間に広く行われていたことであるから,甲7の開示技術を加熱調理器に適用することは,当業者であれば容易に行えることであり,何ら阻害要因もない。
c また,作用効果2についてであるが,甲5,6記載のものは,受光部(赤外線検出器)は機械室の下面の透孔に面して設けられ,ターゲットライト(スポットライト)は機械室の下面に設けられており,両者は非常に近い位置にあることから,汚れの進行に大差がないことは自明であり,作用効果2を奏するといえる。なお,汚れの進行の判断に関する事項を示唆する記載は,本件明細書にも一切ないので,当該記載の有無により作用効果2の差異を判断するのは妥当ではない。また,甲5,6に記載された発明においても,受光部(赤外線検出器5,19)の下方近傍には,透孔4,15が設けられているから,油煙が透孔4,15を通って受光部(赤外線検出器5,19)に容易に到達することは明らかである。
そして,本件訂正発明においても,図2に示すように,ターゲットライトは受光部よりも上方の側面にあり,両者の位置にはずれがあり,全く同一位置にあるわけではないので,ターゲットライトと受光部とで汚れの進行は同一とはならず,差異が生じることは明らかである。
そうすると,作用効果2について,本件訂正発明と甲5,6記載の発明とで多少の差異があるとしても,その差異は質的なものではなく量的なものにすぎず,しかもその量的な差異はわずかなものであって,当業者が予測し得ないほどの顕著な差異とはいえない。
なお,実施例である図2により奏される作用効果は,当然,本件訂正発明の作用効果であるから,図2により奏される作用効果と甲5,6に記載された発明により奏される作用効果とを比較することに何ら誤りはない。
d 以上により,仮に相違点1-2,2-2,3-4の存在を認めたとしても,作用効果1,2は本件訂正発明の進歩性の根拠とはなり得ない。
なお,仮に先行技術に開示されていない相違点が存在していても,当該相違点が先行技術から当業者が容易に想到し得る場合に,進歩性が否定されるのは当然である。そして,当業者が容易に想到し得るか否かの判断基準の一つに,効果の顕著性があり,本件訂正発明と先行技術(甲5ないし7)とは効果に顕著な差異がないから,進歩性が否定されるべきである。
イ 相違点1-3,2-3,3-5の進歩性について
(ア) 相違点1-3,2-3,3-5に係る構成は,甲5,6等に記載された「受光部の近傍にターゲットライトを配設する」構成に対して,甲4に記載されたエアーカーテンに係る構成を適用すれば容易に得られるものであって,ターゲットライトの油煙などによる汚れが防止できるという作用効果は,甲5,6等に記載された「受光部の近傍にターゲットライトを配設する」構成に対して,甲4に記載されたエアーカーテンに係る構成を適用すれば当然に得られる作用効果にすぎない。
つまり,受光部とターゲットライトが近傍位置にある構成において,受光部の前方を横切るようにエアーカーテンを形成すれば,受光部だけでなくターゲットライトの油煙などによる汚れをも防止できることは,当業者であれば容易に想到できるものである。
(イ) なお,甲4には「センサユニットの近傍に,受光部の前方を横切るエアーカーテンを形成することにより,受光部の油煙による汚れを防止する」構成が記載されているところ,甲4ないし甲6に記載された発明は,本件訂正発明と同一又は類似の技術分野に属するものであって,しかも甲4には「エアーカーテンにより受光部の油煙による汚れを防止する」という本件訂正発明と類似する技術課題が教示されている。
そうすると,「受光部の近傍にターゲットライトを配設する」構成を備えた甲5,6の開示技術に対して,甲4に記載された「受光部の前方を横切るエアーカーテンを形成する」構成を適用して,本件訂正発明のごとく構成することは,当業者であれば容易に想到し得ることであり,適用に対する阻害要因は見当たらない。
したがって,仮にターゲットライトの汚れを防止しようとする技術思想の開示がなくとも,甲5,6に記載された発明に甲4に記載された構成を適用することには十分な動機付けがあり しかもターゲットライトの汚れを防止できるという効果は, ,甲4ないし6記載の発明から当業者であれば容易に予測し得る効果にすぎない。
(ウ) 以上により,仮に相違点1-3,2-3,3-5の存在を認めたとしても,当該相違点に係る構成により奏される作用効果は,本件訂正発明の進歩性の根拠にはなり得ない。
ウ 小括
以上のとおり,仮に本件訂正が訂正要件を満たしているとしても,本件訂正発明に進歩性は認められない。
第4 被告らの反論
1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)に対して
(1) 本件特許の訂正前の特許請求の範囲の記載は,単に「該受光部」としていたのであり,訂正後の「受光部それ自体」と比較されるべきは「受光部の側面」という文言ではなく単に「該受光部」という文言であるから,原告の主張は,この点がまず誤りである。
(2) また,訂正後の「受光部それ自体」という文言は 「受光部」という訂正前,
の文言に「それ自体」という条件を付加して内容を限定する,具体的には,ターゲットライトの配設位置が,受光部近傍とか受光部に何か他の部材を介して等ではなく,受光部そのものであることを明瞭に限定するものであるから,明らかに特許法134条の2第1項1号の「特許請求の範囲の減縮」に該当するものであって,これと同旨の審決の認定判断に何ら誤りはない。
(3) さらに,審決は,本件明細書の段落【0019】及び図1,2に言及して,「受光部10の側面にターゲットライト15が配設されている様子が見て取ることができるから,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない 」と認定判断するが,この点についても何ら誤りはな。い。
上記のとおり,本件訂正は「特許請求の範囲の減縮」に該当するものであり,減縮の根拠は,本件明細書の段落【0019】の記載( また,上記赤外線センサ6「の受光部10には,該受光部10が向く方向を指し示すターゲットライト15が設けられている 」旨)及び図1,2の記載(受光部10の側面にターゲットライト。15が配置されている様子)に基づくものであるから,本件明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行われたものであって,新規事項の追加に当たらず,訂正前後の特許請求の範囲の文言を比較しても 「受光部」という文言から「受光部それ,自体」という文言への変更であるところ,当該変更は,前述のとおり,ターゲットライトの配設位置が受光部そのものであることを明瞭に限定したものであるから,変更後の特許請求の範囲は,変更前の特許請求の範囲に包摂される関係にあることとなり,明らかに実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものにも該当しない。
なお,本件特許においては 「受光部」を赤外線センサの光を受ける部分の意味,で使用しており 「受光部」イコール「受光素子」ではない。本件のような意味で,「受光部」を使用している特許公報等の文献も多数存在する(乙1の1ないし1の3参照 。)
(4) 原告は,あたかも本件訂正が「受光部の側面」から「受光部それ自体」への訂正であるかのような論を展開するが,そもそも比較の対象が誤っている上,本件特許の特許請求の範囲の訂正前の文言は単に「受光部」としているものであって,「受光部の側面」というのは単に実施例である図1,2から導かれた審決の認定にすぎず,特許請求の範囲は実施例によって限定されるものでもないから,原告の主張は二重の意味で誤りである。
このように,本件訂正についての審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(手続違背)に対して
甲16の「審理予定資料」における「審理予定項目」には 「本件訂正発明と・,・・一致点,相違点の認定について」とあるように,明らかに訂正を前提とした無効理由につき,審判請求人に攻撃防御の機会は与えられていたものである。
無効審判請求時に訂正請求がされた場合の独立特許要件は,無効理由と一括して審理・判断されるという扱いから,甲16の1頁「審理予定項目 「1 」に「本件」 .訂正請求の訂正要件(独立特許要件については除く 」と記載されたにすぎず,独)立特許要件について攻撃防御の機会は与えられていたのであるから,原告の主張は的外れである。
3 取消事由3(進歩性についての判断の誤り)に対して
(1) 主位的主張については,前述のとおり,本件訂正請求が適法であることは明らかであるから,理由がない。
(2)ア 相違点1-2,2-2,3-4について
(ア) 構成について
「受光部それ自体」という文言は,極めて明瞭であって,一義的に明確に理解できるから,明細書の発明の詳細な説明や図面を参酌して「発明特定事項の意味を解釈」する必要性に欠けるし,百歩譲って,明細書の発明の詳細な説明や図面の参酌が許容されるとしても,許容されるのは特許請求の範囲に基づきこれを限定する解釈だけであって,「受光部それ自体」という文言から,「受光部を収容したケースに」と解釈することは,特許請求の範囲をその記載に基づかずに拡張解釈することとなり,到底許容されるものではない。
したがって,甲7については,原告が主張するように「受光部(温度検知部10)を収容したケースに,ターゲットライト(レーザーマーカー発生部9)を収容したケース(補助ノズル6)が配設されている」構成について記載したものにすぎず,決して本件訂正発明の発明特定事項との関係で 「受光部それ自体にターゲットラ,イトが配設されている 構成が記載されていると解釈することは許容されないので」 ,相違点1-2,2-2,3-4がないとする原告の主張には理由がない。
(イ) 作用効果について
a 本件訂正発明と先行技術との間に相違点がある以上は,これを埋める引例がない限りは,当業者が「前項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができた(特許法29条2項参照 」とはいえないから,本件訂正発明に進歩性があ)ることは明らかであり,原告の主張には理由がない。
b 念のため,本件訂正発明と甲7,8に記載された発明との作用効果の違いについて認定した部分に対する原告の主張について反論すると,甲8に記載された発明については 「輻射線検出器6」と「投光器13」とは全く異なった位置に設け,られており 「受光部それ自体に・・・ターゲットライトが配設」されている本件,訂正発明とは全く異なる構成を有するものであり,そもそも作用効果の同一性などを論じる前提に欠けている。
また,甲7に記載された発明についても,前述のとおり 「温度検知器10」は,本願のアームに相当する「ノズル5」に収納されており,同ノズル5に「レーザーマーカー発生部9」を収納した「補助ノズル6」が設けられていることから 「受,光部それ自体」とする本件訂正発明とは全く異なる構成(すなわち,受光部それ自体( 温度検知部10」が該当する )ではなく,これを収納したケース( ノズル「 。 「5」が該当する。)に,ターゲットライトが配設された構成)を有するものであり,同様に,そもそも作用効果の同一性を論じる前提に欠けているし,当然異なる構成のものであるために作用効果1を奏することもなく,原告の主張は完全に誤りである。
いずれにしても,甲7(体温計に関するもの)は,本件訂正発明(加熱調理器に関するもの)とは物品が全く異なり,その使用環境,使用方法等は全く相違するため,そもそも作用効果の同一性を論じることはできず,甲8についても,受光部それ自体にターゲットライトを配設した構成ではなく,物品も堅牢なケースに赤外線センサの受光部を取り付けることができる電子レンジに関するものであるから,受光部の外力による動きをそもそも考慮する必要がなく,本件訂正発明の作用効果1を奏するものではない。
c 作用効果2についても検討すると,甲5,6に記載された発明において,図面を一見して明らかなように,受光部(赤外線検出器5,19)とターゲットライト(スポットライト6,23)は,それぞれ明らかに異なった位置(特にスポットライト6,23は油煙の激しいオーブン1,10内)に設けられているから 「汚,れの進行に大差がない」などとするのは,根拠のない原告独自の判断にすぎず,理由がない。
また,本件訂正発明についても,原告は,図2(甲13参照)を捉えて 「ター,ゲットライトと受光部とで汚れの進行は同一とはならず,差異が生じることは明らか」などと主張するが,明らかに事実的根拠を欠いた主張で理由がなく,そもそも実施例にすぎない図2を基準に作用効果を論じている点で原告の主張は誤りである。
特許発明の技術的範囲は実施例に限定されるものではない。
イ 相違点1-3,2-3,3-5の進歩性について
(ア) 甲5,6に記載されているのは,単に「受光部の近傍にターゲットライトを配設する」構成であって,そこには何ら,ターゲットライトの前方をも横切るようにエアーカーテンを形成するという構成の記載も示唆もない。また,ターゲットライトの前方をも横切ることによって,ターゲットライトの汚れを防止するという本件訂正発明に特有の課題と作用効果についての記載も示唆もみられない。
そして,甲4には,そもそも受光部の向く方向を指し示すターゲットライトにつき全く開示がなく ターゲットライトの汚れを防止しようとする思想は生じ得ない, 。このような思想については,甲4はもちろん,他のすべての甲号証にも何らの開示も示唆もない。
したがって,甲4に甲5,甲6を組み合わせる動機が皆無であり,原告の主張は単なる後知恵にすぎず 「仮に相違点1-3,2-3,3-5の存在を認めたとし,ても,当該相違点に係る構成により奏される作用効果は,本件訂正発明の進歩性の根拠にはなり得ない」とする原告の主張には理由がない。
(イ) 仮に,甲5,6に甲4の技術を組み合わせたところで,甲4の技術は,オーブン2と機械室3を連通する透孔6,14から,油煙が機械室3に進入しないようにエアーカーテンを形成するものであるから,甲5,6に記載された技術のように,オーブン1,10内に設けられているターゲットライト6,23の汚れをも防止できる構成とはならない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)
(1)「受光部」の意味について
ア 原告は 「受光部それ自体」とは「ケースを含まない受光素子そのもの」を,
意味すると解するべきであり,本件訂正発明1における「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」との記載は 「ケースを含まない受光素子そのもの,にターゲットライトが配設されている」と解釈されなければならない旨主張する。
イ 特許請求の範囲に記載する技術用語は学術用語を用いる(特許法施行規則第24条の4(様式第29の2の備考第8項 )こととされているが,その用語の意)義が一義的に明確に理解することができない場合は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を参照して解釈すべきである。
ここで,本件明細書(甲13,14参照)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(なお,これらの記載事項は,訂正前明細書,本件訂正明細書の双方で違いはない。)。
「 0013】【
更に,上記赤外線センサとして,受光部と制御部とが分離され,その間を光ファイバによって接続したファイバ式の赤外線センサとし,前記受光部のみを上記被加熱体の上方に配設すると共に,前記制御部を本体内部に配設する構成とすることは好ましい。
これは,被加熱体の上方には受光部のみを配設するため,その設置スペースの確保が容易であると共に,熱,汚れ,衝撃などを嫌う制御部,即ち受光した赤外線エネルギを電気エネルギに変換し,その電気エネルギを温度に換算する赤外線センサの中枢部分を本体内部に配設するため,長期に渡って使用し得る信頼性の高い装置を提供できるために好ましい 」。
「 0017】【
上記温度センサ6は,被加熱体Aの温度を精度良く且つオペレータの邪魔となることなく検知するため,本体2に立設された,例えば1m程度の高さのアーム9に受光部10が配設され,本体2内に制御部11が配設され,前記受光部10と制御部11との間を光ファイバ12によって接続した,所謂ファイバ式の赤外線センサが使用され,この赤外線センサ6によって,被加熱体Aの温度を上方から非接触の状態で検知する。
【0018】
上記赤外線センサ6の受光部10の近傍には,図2及び図3に示したように,該受光部10の油煙などによる汚れを防止するエアーノズル13が配設されている。このエアーノズル13は,受光部10に向けて直接エアーを吹き付け,該受光部10への汚れの付着を防止する構造のものとしても良いが,図2及び図3に図示したものは,受光部10を支持する上記アーム9に穿設された開口14を塞ぐ,所謂エアーカーテンKを形成するエアーノズル13が配設され,アーム9内に油煙などが進入すること自体を阻止する構造となっている。
【0019】
また,上記赤外線センサ6の受光部10には,該受光部10が向く方向を指し示すターゲットライト15が設けられている。このターゲットライト15は,指向性の強い可視光線Pを照射し,図1に示したように,赤外線センサ6の受光部10が,被加熱体Aの方向を正確に向いているか否かを常に確認できる構成となっている 」。
そして,本件明細書の【図面の簡単な説明】には,「 図1】本発明に係る電磁誘導加熱を利用した加熱装置の一実施の形態を概念的に示した【断面図である。【図2】本発明に係る電磁誘導加熱を利用した加熱装置の温度センサ設置部分の一例を示した断面図である 」。「 符号の説明】【・・・
6 温度センサ(赤外線センサ)
・・・
10 温度センサ(赤外線センサ)の受光部
11 温度センサ(赤外線センサ)の制御部
12 光ファイバ
・・・
15 ターゲットライト
・・・」と記載され,また,図面を参照すると 【図2】には,符号10が付された部材,に,符号15が付された小型の部材が取り付けられている様子が描かれている。
[図1] [図2]
ウ すると,本件発明に係る赤外線センサは,受光部と制御部とが分離され,受光部10と制御部11との間を光ファイバ12によって接続した,ファイバ式のものであるから,本件発明において,「受光部10」とは,赤外線センサ6のうち「制御部11」及び「光ファイバ12」を除く部分,すなわち光を受ける部分であって,光ファイバ12に接続されてアーム9に配設され,被加熱体の上方に配設された部分であり,図2において,符号10が付された図面上長方形で表された部材が,「受光部10」であるといえる。
エ 原告は,甲20ないし甲23に 「受光部」がフォトトランジスタやフォト,
ダイオード等の光を受ける受光素子からなること,及びこれらの受光素子はケースに配設されていること(すなわち,受光素子そのものにはケースは含まれないこと)が記載されていることを根拠に 「受光部それ自体」とは「ケースを含まない受光,素子そのもの」を意味すると解すべき旨主張するが,このような解釈が一般的であることを根拠付ける文献等の証拠はない上,本件明細書には 「ケース」や「受光,素子」についての具体的な記載はなく,原告の解釈を裏付ける記載はない。
他方,乙1の1ないし4に記載されたとおり 「受光部」とは,受光素子(光電,変換素子)そのものではなく,赤外線センサの「光を受ける部分」を意味すると解すべき場合もあることは明らかであり,本件明細書においては,赤外線センサの光ファイバ12に接続された光を受ける部分であって,アームを介して被加熱体の上方に配設された部分につき,赤外線センサの「受光部10」として記載されており,図面においても,受光部10について,本件明細書の記載と一致する構造が描かれているところ,本件発明の「受光部」については,本件明細書及び図面の記載を参照して解釈すべきであるから,原告の主張は採用できない。
オ また,原告は,訂正後の「受光部それ自体に,該受光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され」という発明特定事項は,ターゲットライトの位置を特定することができないから,本件訂正発明1は特許を受けようとする発明が不明確であるとも主張する。
しかし,本件訂正後の請求項1の記載から,少なくとも,受光部は,赤外線センサのうち,被加熱体から放出される赤外線を受光する部分であって,アームを介して作業者の邪魔とならない上記被加熱体の上方に配設されている部分であることが明らかであるから,ターゲットライトの位置について 「受光部それ自体に,該受,光部が向く方向を指し示すターゲットライトが配設され」と特定することが不明確であるということはできず,本件訂正発明1につき,特許を受けようとする発明が不明確であるということはできない。
(2) 新規事項について
ア 原告は 「受光部」を「受光部それ自体」とする訂正は,明細書及び図面に,
記載された事項の範囲内でする訂正とはいえず,新規事項の追加に該当するものである旨主張する。
イ まず,上記訂正事項は,請求項1において,ターゲットライトが配設される位置を 「受光部」から 「受光部それ自体」であるとするものであり(審決におけ, ,る「訂正事項a-1」),訂正後の「受光部それ自体」という文言は「受光部」という訂正前の文言に「それ自体」という条件を付加して内容を限定する,具体的には,ターゲットライトの配設位置が,受光部近傍や受光部に何か他の部材等を介した位置ではなく,受光部そのものであることを明瞭に限定するものであるから,上記訂正事項が特許法134条の2第1項1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
ウ そして,ターゲットライトの配設される位置を「受光部それ自体」とする点は,本件明細書の段落【0019】に,「また,上記赤外線センサ6の受光部10には,該受光部10が向く方向を指し示すターゲットライト15が設けられている 」。 と記載されており,図2には,符号10で示された部材(受光部10)そのもの(それ自体)に,符号15で示された部品(ターゲットライト15)が配設されている構造が描かれているから,訂正事項a-1は,明細書又は図面の記載に基づくものであって,新たな技術的事項を導入しないものであり,新規事項の追加に該当せず,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項に違反しない。
なお,原告は,本件明細書及び図面には 「受光素子を収容するケースにターゲ,ットライトが配設されている」構成が記載されているのみであって(図1,2参照),「受光素子そのものにターゲットライトが配設されている」構成は記載されていないとも主張するが,前記(1)のとおり,本件明細書には「ケース」や「受光素子」についての記載はなく,同明細書の記載からは 「受光部それ自体」が「ケースを,含まない受光素子そのもの」を意味すると解釈することはできず,原告の主張は前提において誤りである。
エ 原告は,ターゲットライトの配設される位置を「受光部」から「受光部の側面」とする訂正であれば明細書及び図面に記載された事項の範囲内でする訂正といえるが 「受光部それ自体」は 「受光部の先端面(図2では右側の面 」や「受光, , )部の下面(図2では下側の面)」等も含むものと解釈されるから,「受光部それ自体」とする訂正は明細書及び図面に記載された事項の範囲内でする訂正とはいえないとも主張する。
しかし,本件明細書には,「赤外線センサ6の受光部10が,被加熱体Aの方向を正確に向いているか否かを常に確認できる構成」(段落【0019 )となるように,赤外線セ】ンサ6の受光部10にターゲットライト15を設けることが記載されているが,ターゲットライト15の設置場所を「受光部の側面」とする旨の明示的な記載はない。また,「発明の実施の形態」の説明に用いられた図面(図1及び図2)において,受光部10の側面にターゲットライト15が配設されている様子が看取可能であるとしても,図1は,「本発明に係る電磁誘導加熱を利用した加熱装置の一実施の形態を概念的に示した断面図」であり,図2は「本発明に係る電磁誘導加熱を利用した加熱装置の温度センサ設置部分の一例を示した断面図」であって,これらの図から,本件発明におけるターゲットライト15の配設場所が「受光部の(ケースの)側面」に限定されると解することはできない。
オ 以上のとおり,ターゲットライト15の設置位置を「受光部それ自体」とする訂正は,本件明細書及び図面に記載された事項の範囲内でするものといえ,本件訂正が新規事項の追加に該当するとの原告の主張は採用できず,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(手続違背)について
(1) 訂正後の特許発明についての弁駁の機会
ア 原告は,本件審判手続においては,訂正後の特許発明について請求人(原告)に対して,相当の期間を示して弁駁書の提出の機会が与えられるべきであったにもかかわらず,審判合議体は,訂正後の特許発明について請求人(原告)に対して弁駁書の提出の機会を与えることなく審決を行ったと主張する。
イ しかし,そもそも訂正後の特許発明についての弁駁書の提出は法定事項ではなく,原告に弁駁書の提出の機会が与えられなかったことが直ちに違法となるものではない。
そして,本件審判段階における審理手続についてみると,平成21年8月19日に実施された口頭審理の前に両当事者に示された同年7月7日付け 審理予定資料「 」(甲16)の審理予定項目には 「2.本件訂正発明と甲第1,2号証記載の発明,との一致点,相違点の認定について」及び「3.各相違点について」が挙げられ,また,原告は,これに基づいて同年8月19日付け「口頭審理陳述要領書 (甲1」7)を提出し,訂正請求の訂正要件及び訂正後の特許発明の進歩性について主張しているから,原告(審判請求人)には,訂正請求を前提とした本件訂正発明に対する無効理由を主張する機会が与えられていたものと認められる。
したがって,本件審判の審理手続において,何ら手続違背はない。
ウ なお,原告は 「審理予定資料 (甲16)の審理予定項目の「1 」に「本, 」 .
件訂正請求の訂正要件(独立特許要件については除く 」との記載があることを指)摘するものとも解されるが,同記載は,無効審判請求時に訂正請求がされた場合の独立特許要件(特許法126条5項参照)に関して 「第一項ただし書第一号又は,
第二号」とあるのを「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第一項ただし書第一号又は第二号」と読み替えること(同法134条の2第5項参照)に基づき,特許無効審判の請求がされた請求項の独立特許要件は,無効理由と一括して審理判断されるという扱いから,前記のとおり記載されたものにすぎず,同記載によって,本件訂正発明の特許要件についての原告の攻撃防御の機会が奪われたものではない。
(2) 被告らの主張の採用について
ア 原告は,審決において,口頭審理において初めてされた被告らの主張を基礎として本件訂正発明の作用効果1を認定し,これを前提として,進歩性を判断しており,このように,被告らの主張について原告に対して再度の弁駁の機会を与えることなく進歩性を判断したことには手続上の瑕疵があると主張する。
イ しかし,口頭審理における被告らの主張が採用されたとしても,本件審判段階における審理手続は,前記(1)のとおり,適正に口頭審理が行われ,また,その後の書面審理も行われており,当事者はその審理手続の中で必要な主張を行い,攻撃防御を行う機会が与えられていたものと認められるから,手続違背はない。
また,そもそも,作用効果1については,平成21年6月22日付け審判事件答弁書(甲15,5頁の下から4行目~6頁の2行目まで参照 )において既に被告。ら側から主張されており,原告は,同年8月19日付け口頭審理陳述要領書(甲17,5~6頁参照 )において,この作用効果は当業者が予測し得ないような格別。顕著な効果とはいえない旨主張しているから,原告には,作用効果1につき反論の機会が現実に与えられていたことは明らかであり,原告の主張は失当といわざるを得ない。
(3) 以上のとおり,本件審判の審理手続について手続違背があるとの原告の主張は失当であり,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(進歩性についての判断の誤り)について
(1) 主位的主張について
ア 原告は,本件訂正は訂正要件を満たしておらず,本件発明は,特許第3680942号公報の特許請求の範囲に記載された発明(訂正前の発明)であるにもかかわらず,審決は,本件訂正発明をもって本件発明であると認定しているから,本件発明の認定に誤りがあり,そうすると,審決は,進歩性判断に誤りがあるから,違法であって取り消されるべきであると主張する。
イ しかし,前記1で検討したとおり,本件訂正は新規事項の追加には該当せず,また,他に訂正要件を満たさない理由もないから,本件訂正は適法なものであり,本件発明は,訂正された特許請求の範囲に記載されたとおりのもの(本件訂正発明)であるといえる。
ウ したがって,審決による本件発明の認定に誤りはなく,原告の主位的主張は理由がない。
(2) 予備的主張について
ア 相違点1-2,2-2,3-4について
(ア) 構成について
a 審決は,本件訂正発明1と,甲1発明ないし甲3発明との相違点1-2,2-2,3-4に関し,甲5ないし甲9には 「受光部の近傍に,受光部が向く方向,を指し示すターゲットライトが配設され」ている点が記載されているということができるものの,受光部それ自体にターゲットライトが配設されているものではないと認定した。
これに対し,原告は,甲7には 「受光部それ自体にターゲットライトが配設さ,れている」構成が記載されている旨主張するので,まず,この点について検討する。
b 原告の主張は,本件訂正発明1の「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」という発明特定事項には 「受光部(受光素子)を収容したケース,
(ハウジング)に,ターゲットライト(発光素子)を収容したケース(ハウジング)が配設されている」ものも含まれると解釈すべきであり,他方で,甲7には 「受,光部(温度検知部)を収容したケース(ノズル)に,ターゲットライト(レーザーマーカー発生部)を収容したケース(補助ノズル)が配設されている」構成が記載されており,上記解釈に基づくと,当該構成は「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」という発明特定事項に含まれるというものである。
しかし,前記1で検討したとおり,本件訂正発明1の「受光部」とは,ファイバ式の赤外線センサ6のうち,光を受ける部分であって,アームを介して被加熱体の上方に配設された部分であり 「受光部それ自体にターゲットライトが配設されて,いる」とは,その受光部10そのもの(それ自体)に,ターゲットライト15(指向性の強い可視光線を照射する部品 が配設されていることを特定するものである) 。「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」という発明特定事項に「受光部(受光素子)を収容したケース(ハウジング)に,ターゲットライト(発光素子)を収容したケース(ハウジング)が配設されている」ものも含まれるとの解釈は,原告独自の解釈であり,採用できない。
c また,甲7(特開平6-117936号公報)には,以下の記載がある。
「 0001】【
【産業上の利用分野】この発明は放射温度計に関し,さらに詳しくは,赤外線を発生する赤外線発生体の計測位置に光像パターンとしてのレーザーマーカーを照射するためのレーザーマーカー発生部と,赤外線発生体の計測位置の温度を検知・表示する温度検知部とを備え,赤外線発生体から放射する赤外線を計測する放射温度計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に,この種レーザーマーカーとしては,放射温度計使用者に,例えば,患者の皮膚(赤外線発生体)の表面の計測位置を正しく認識させる意味から十字パターンのものが多用されている 」。
「 0016】図2において,放射温度計Rはドライヤー型で,ノズル5の上には補助ノズ【ル6が設けられている。補助ノズル6には,患者の手首(赤外線発生体)7の計測位置Mに光像パターンとしてのレーザーマーカー8が照射されるレーザーマーカー発生部9が収納され,ノズル5には,赤外線発生体7の計測位置Mの温度を検知・表示する温度検知部10が収納されている 」。
【図2】
以上の記載からすれば,甲7記載の発明では,計測位置Mの温度を検知・表示する温度検知部10がノズル5に収納され,その上方近傍に,補助ノズル6に収納され,計測位置Mにレーザーマーカー8を照射する(すなわち,温度検知部が向く方向を指し示す)レーザーマーカー発生部9が配設されているものと認められる。
d すると,温度検知部10及びレーザーマーカー発生部9は,それぞれノズル5及び補助ノズル6に収納されるものであって,ノズル5及び補助ノズル6は独立した部材と認められ,温度検知部10そのものに直接レーザーマーカー発生部9を配設するものではないから,甲7に記載された温度検知部10とレーザーマーカー発生部9との関係は,本件訂正発明1の「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」ものとは構成が異なるといえる。
また,甲7記載の放射温度計は,患者の皮膚表面の温度を測定することが例示され,ドライヤー型の構造をしており,本件訂正発明1のように,加熱調理器等における被加熱体の温度検知のために,被加熱体を載置するプレート方向に常に向かせるように,アームの所定位置に取り付けられる使用状況を想定したものということはできない。
したがって,甲7に「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」構成が記載されているということはできず,また,甲7記載のものは,使用環境,使用方法も本件訂正発明1とは相違しているため,作用効果の同一性を論じる前提に欠けるので,甲7の記載に基づいて,相違点1-2,2-2,3-4の構成について,当業者が容易に想到し得るということはできない。
e なお,原告は,甲7に記載されたようなレーザーマーカー等で計測位置を指し示す非接触式の放射温度計を加熱調理器内の温度測定に使用することは,本件訂正発明の出願当時,当業者間に広く行われていたことであるとも主張するが,同主張を裏付ける証拠は何ら提示されておらず,上記主張を採用することはできない。
f このほか,原告は,審決が認定した相違点1-2,2-2,3-4について,甲7に「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」構成が記載されている以上,これらは相違点とはなり得ないと主張するが,上記相違点1-2,2-2,3-4は,それぞれ,本件訂正発明1と甲2発明,甲1発明,甲3発明との相違点であって,甲7の記載事項にかかわらず存在するものであるから,これらが相違点とはなり得ないとの原告の主張は失当である。
(イ) 作用効果について
a 原告は,相違点1-2,2-2,3-4の存在を認めたとしても,作用効果1,2は本件訂正発明の進歩性の根拠にはなり得ないと主張するので,検討する。
b まず,作用効果1についてみると,原告は,甲7,8記載の発明においても,「受光部が外力により動いた場合には,ターゲットライトもそれに伴って動く」ことはその構造上明らかであるから,甲7,8記載の発明も作用効果1を奏するのは明らかであると主張する。
しかし,まず,前記(ア)で検討したとおり,甲7には 「受光部それ自体にターゲ,ットライトが配設されている」構成が記載されているということはできず,また,甲7記載の発明は,使用環境,使用方法も本件訂正発明1と相違しているから,作用効果の同一性を判断する前提に欠けるものであり,作用効果1を奏するものではない。
c 電子レンジ等の高周波加熱装置に関する甲8(特開昭57-62326号公報)には以下の記載がある。
(a)「被加熱物を収容する加熱室と,この加熱室内の被加熱物を加熱する加熱手段と,被加熱物よりの赤外線等の輻射線を検出する輻射線検出器と,この輻射線検出器の近傍に設けられ可視光線を放射する投光装置とを有し,この投光装置は上記加熱室内の,上記輻射線検出器の検出可能位置を表示すべく可視光線を投光する構成にしたことを特徴とする加熱調理器。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「図において,被加熱物を収容する加熱室1の下方には高周波発振器2が設けられ,この高周波出力は導波管3により加熱室1内に導かれる。この加熱室1の上壁部には,光は透過するが,使用高周波出力は透過しない程度の大きさの開口4が設けられ,この開口4を透過した被加熱物5よりの赤外線等の輻射線を検出する輻射線検出器6が取付板7にこの開口4を臨んで取付けられている。そして,この輻射線検出器6と開口4の間には,輻射線検出器6への被加熱物5よりの輻射線を遮ぎらない大きさの開孔8を形成した環状の反射鏡9が取付板7に取付けられている。この取付板7は,一辺が加熱室1の上壁に軸支され,他辺はモータ10で回転されるクランク軸11の回転に連動して揺動するようにした揺動板12に取付けられている。なおこのモータ10は使用者が必要に応じて作動させる構成としている。さらに,この揺動板12には,反射鏡9に対応して投光器13が設けてあり,この投光器13より放射される可視光線は,輻射線検出器6の検出可能位置または領域を中心軸として同軸的に投光するように取付板7への取付角度を調節して設けられた反射鏡9により,揺動板12にも設けられた開口14を通り被加熱物5に投射される構成にしている。」(2頁左上欄15行~右上欄18行)(c)「・・・輻射線検出器6の検出可能位置が揺動板12の揺動動作によって移動しても,この移動に伴って可視光の投光方向も移動する・・・ (2頁左下欄9~11行)」
以上の記載からすれば,甲8記載の発明においては 「輻射線検出器6」と「投,光器13」とは異なった位置に設けられるとともに,その可視光の投光手段も,「投光器13」から放射される可視光線を「反射鏡9」を利用して「被加熱物5」に投射されるものであるから,本件訂正発明1の「ターゲットライト」とは,全く異なる構成を備えたものであるといえ 「輻射線検出器6の検出可能位置が揺動板12,の揺動動作によって移動しても,この移動に伴って可視光の投光方向も移動する」という,作用効果1と類似の作用効果を奏するとしても,甲8は,輻射線検出器6が取付板7に取り付けられ,さらに,取付板7が揺動板12に取り付けられ,この揺動板12に投光器13が設けられる構造をしており,本件訂正発明1の「受光部それ自体にターゲットライトが配設されている」構成を有するものではない。また,甲8は,クランク軸の回転に連動して揺動するようにした揺動板12により,輻射線検出器6の検出可能位置を積極的に移動させるように構成されているものであって,その使用環境,使用方法も本件訂正発明1と相違しているから,作用効果の同一性を判断する前提に欠けるものであり,作用効果1を奏するものではない。
以上のとおり,甲7,8記載の発明は,いずれも,本件訂正発明1の「赤外線センサの受光部が何らかの外力により動いてしまった場合においても,該受光部それ自体に配設したターゲットライトも同様に動き,受光部が被加熱体の方向を向いているか否かをターゲットライトの光線の方向により容易に確認でき,赤外線センサの受光部を常に被加熱体の方向に正確に向けることができる」との作用効果1を奏するものではない。
d 次に,作用効果2について検討すると,原告は,甲5,6記載の発明においては,受光部(赤外線検出器)は機械室の下面の透孔に面して設けられ,ターゲットライト(スポットライト)は機械室の下面に設けられており,両者は非常に近い位置にあることから,汚れの進行に大差がないことは自明であり,作用効果2を奏するといえる旨主張する。
しかし,甲5,6記載の発明においては,図面(甲5の第2図,甲6の第3図)から明らかなように,赤外線検出器5,19(受光部)はオーブン(加熱室)上面の透孔4,15を介して赤外線を検出するものであって,オーブン1,10の外側に配設されているのに対し,位置決め用スポットライト6,23(ターゲットライト)は,オーブン1,10の壁面に設けられてオーブン内にその照射面を突出して設置される様子が看取でき 「受光部」と「ターゲットライト」が設置される空間,が異なっており,被調理物から生じる油煙等に触れる状況は,本件訂正発明とは相違する可能性も十分に予測されるから,審決が,甲5,6について 「汚れの進行,が同程度であるかどうかは明らかでなく,また,汚れの進行の判断に関する事項を示唆する記載もない 」と認定したことに誤りはない。。
イ 相違点1-3,2-3,3-5の進歩性について
(ア) 原告は,相違点1-3,2-3,3-5に係る構成は,甲5,6等に記載された構成に対して,甲4に記載されたエアーカーテンに係る構成を適用すれば容易に得られるものであって,ターゲットライトの油煙などによる汚れが防止できるという作用効果は,当然に得られる作用効果にすぎない旨主張する。
(イ) まず,甲4(実開昭59-100225号のマイクロフィルム)には,高周波加熱調理装置における赤外線センサの保護装置に関して,以下の記載がある。「既に提案されているこの種の高周波加熱調理装置は,第1図に示されるように,箱形をなすケース本体1内にオーブン2及び機械室3を区分して形成するオーブン枠体4を設け,このオーブン枠体4の一側壁にマグネトロン5を付設し,他方,上記オーブン枠体4の天板4aに透孔6を穿設し,この透孔6の直上に位置する上記機械室3内に赤外線によるセンサユニット7を間隙8を存して設け,上記センサユニット7内に截頭円錐状の赤外線導入孔9を有する保持部材10を上記透孔6の直上に位置して設置し,この保持部材10の上部10aに赤外線センサ11を下向きにして設け,上記センサユニット7の近傍の機械室3に排気用ファン12を設置したものである。」(2頁8行~3頁1行)
「・・・他方,上記排気用ファン12が,オーブン2内で発生し,しかも,上記透孔6を通して機械室3へ流出する湯気やミスト(油滴も含む)を上記間隙8による流体流路から側方へ押し流し,これによって,上記ミスト等が上記センサユニット7の赤外線センサ11の検出面(感知面ともいう)に付着して,これを汚損しないようにし,理論上,検出機能を損わないようにしている。」(3頁10行~18行)
また,考案の実施例につき,以下の記載がある。
「・・・このセンサユニット7内には円筒状の赤外線導入孔15を有する保持部材10が上記透孔14の直上に位置して設置されており,この保持部材10の上部10aには赤外線センサ11が下向きにして設けられている。さらに,上記センサユニット7の近傍には排気用ファン12が設置されており,この排気用ファン12の風下に位置する上記間隙8には,先細り流体ガイド部材17が上記透孔14を囲むようにして設けられている。」(6頁1行~9行)
「上記先細り流体ガイド部材17で形成された流体流路の流体は,あたかも横風による強力エアカーテンを形成し,オーブン2内へ流入するようになっている。」(7頁10行~13行)
(ウ) 上記記載(特に,第1図とその説明)によれば,甲4におけるエアカーテンは,オーブン枠体4の天板4aと赤外線によるセンサユニット7との間隙8を流体流路とし,オーブン2内で発生した湯気やミスト(油滴も含む)を側方へ押し流し,これによって,上記ミスト等が上記センサユニット7の赤外線センサ11(受光部に相当する )の検出面が汚損するのを防止するものである。。
しかし,甲4には,センサユニット7の赤外線センサ11が向く方向を指し示すターゲットライトについては何の開示もなく,ターゲットライトの汚損の防止についての課題の示唆もない。
他方,赤外線検出器5,19(受光部)の近傍に位置決め用スポットライト6,23(ターゲットライト)を配設することを開示する甲5,6には,エアカーテンを形成することについて開示も示唆もされておらず,そもそも赤外線検出器やスポットライトの汚れを防止することの技術課題も記載されていない。
したがって,甲5,6等に記載された構成に対し,甲4に記載されたエアカーテンに係る構成を適用するとの動機付けは見出せず,本件訂正発明1の構成が容易に得られるとの原告の主張は採用できない。
(エ) また,仮に,両者の組合せが可能であるとしても,以下のとおり,甲4ないし甲6から,相違点1-3,2-3,3-5に挙げられた本件訂正発明1の構成を導くことはできないというべきである。
すなわち,甲4のセンサユニット7は,オーブン枠体4の透孔6の直上に位置し,赤外線導入孔9,15を有する保持部材10の上部10aに赤外線センサ11を下向きにして設けたものであり,また,甲4におけるエアカーテンは,前記のとおり,オーブン枠体4の天板4aとセンサユニット7との間隙8を流体流路とするものである。
他方,甲5,6に記載された位置決め用スポットライト6,23(ターゲットライト)は,赤外線検出器5,19(受光部)の近傍に配設されているとはいえ,オーブン1,10の壁面に設けられてオーブン内にその照射面を突出して設置される様子が看取できるから,甲4に記載のごとく,オーブン枠体の天板と赤外線検出器との間隙にエアカーテンを形成したとしても,エアカーテンがオーブン内に配置されたスポットライトの照射面の前方を横切る構成を導くことはできない。
また,甲5,6は,位置決め用スポットライト(ターゲットライト)を,赤外線検出器(受光部)の近傍に配設することを開示するにすぎず,赤外線検出器(受光部)そのものにスポットライト(ターゲットライト)を設けることを示唆するものではないから,甲5,6に基づいて,本件訂正発明1の「受光部それ自体」にターゲットライトを配設する構成を導くことはできないし,甲4のセンサユニット7においては,赤外線センサ11が赤外線導入孔9,15を有する保持部材10の上部10aに密着して設けられているから,赤外線センサ11それ自体にターゲットライトを設けることも 赤外線センサ11が向く方向を指し示すターゲットライトを, ,エアカーテンがターゲットライトの前方を横切る位置に配設することも,困難といわざるを得ない。
したがって,仮に,甲5,6等に記載された構成と,甲4に記載されたエアカーテンに係る構成を組み合わせたとしても,本件訂正発明1の「該受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテンを形成するエアーノズル」との構成を導くことはできないというべきである。
(オ) 原告は,受光部とターゲットライトが近傍位置にある構成において,受光部の前方を横切るようにエアーカーテンを形成すれば,受光部だけでなくターゲットライトの油煙などによる汚れをも防止できることは,当業者であれば容易に想到できるとも主張する。
しかし,前記(ウ),(エ)のとおり,甲5,6の構成と甲4のエアカーテンとを組合せることに動機付けはなく,また両者を組み合わせても本件訂正発明1の「該受光部及びターゲットライトの前方を横切るエアーカーテン」の構成を導くことはできないから,原告の主張は,その前提において誤りである。
そして,甲4ないし甲6の記載から,受光部だけでなくターゲットライトの油煙などによる汚れをも防止できるとの本件訂正発明1の作用効果を予測するのは容易ではないというべきである。
(カ) したがって,「仮に相違点1-3,2-3,3-5の存在を認めたとしても,当該相違点に係る構成により奏される作用効果は,本件訂正発明の進歩性の根拠にはなり得ない 」旨の原告の主張には理由がない。。
(3) 以上のとおり,原告主張の取消事由3も理由がない。
4 このように,本件訂正は適法であり,審判に手続違背があったとは認められず,本件訂正発明につき特許法29条2項を適用することはできないので,審決に誤りはなく,原告の請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
塚 原東 海 林矢 口
朋俊
一保哉