判例
商法会社法判例百選第4版A43
事前警告型買収防衛策における勧告的決議と無効確認の利益
全文
東京地判平成26年11月20日(判時2266号115頁)
京都大学教授
## 山下徹哉 やました てつや
本件は、事前警告型買収防衛策の一環として行われた株主意思確認のための株主総会決議が、株主総会の権限(会社295条2項)に属しない事項に関するものである場合に、当該決議の無効の確認の訴えに確認の利益があるか否かが争われた事実である。
Y社(報告)は、Y社株式の大規模な買付者に対して、買付けの事前通知と一定の情報提供を要求し、これらが遵守されないなど所定の場合に適切な対抗措置を発動することがあるなどとする大規模買付ルールを導入した。X1社(報告)は、本件ルールに従って、Y社株式の大規模買付行為を行う可能性がある旨をY社に通知し、Y社が求める情報を提供した。所要の検討の後、Y社の取締役会は、本件買付行為の中止を要請することの承認をY社株主に求める旨の議案を株主総会に提出することを決議した。同議案について、承認する旨の株主総会決議がされた。本件決議は、会社法・Y社定款に定める株主総会の決議事項に関するものではなかった。X1社とそのファンドの受託者X2社(報告)が本件決議の無効の確認を求める訴えを提起したところ、本判決は、確認の利益を欠くとして、訴えを却下した(確定)。
本判決は、株主総会「決議が会社法295条2項所定の事項に関してされたものであるかどうかにかかわりなく、当該決議の法的効力に関して疑義があり、これが前提となって、当該決議から派生した法律上の紛争が現に
存在する場合において、当該決議の法的効力を確定することが、上記紛争を解決し、当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であるときは、確認の利益がある」と判示した。そして、本件決議は大規模買付行為に対する対抗措置を発動すること自体を承認するものではなく、また、Y社は本件決議の有無にかかわらず対抗措置を発動することが可能であったから、本件決議に法的効力がないことを確定しても、Y社が対抗措置を発動する可能性は消滅・減少しないこと、現段階では、対抗措置の具体的内容は未定であり、対抗措置の必要性や相当性を的確に判断できないから、紛争の成熟性を欠くことなどを理由に、確認の利益を欠くとした。
本判決は、法人の意思決定機関たる会議体の決議の無効・不存在の確認の訴えに係る確認の利益について判断した判例(最判昭和47・11・9民集26巻9号1513頁など)を踏襲しつつ、株主総会の権限外の事項に関する決議であっても、一律に確認の利益がないとはせず、確認の利益を肯定しうる場合があることを認めている。買収防衛策の導入・発動に関して、勧告的決議による場合も含め、株主の承認の有無がその適法性を左右する可能性がある(最決平成19・8・7民集61巻5号2215頁[本書98事件]参照)。そのため、権限外の事項に関する決議の無効の確認の訴えを一律に否定しなかったことは注目に値する。もっとも、本件のような中止要請ではなく、対抗措置の発動を承認する決議の場合でも、新株予約権の発行の差止めなどで争えば足りるとの理由で、その決議の無効確認の訴えで確認の利益が肯定されるのは、ごく限定的な場合のみとされる可能性はある(松尾・後掲92-93頁参照)。
[参考文献] 弥永真生・ジュリ1484号123頁、松尾健一・リマークス2016(上)90頁、田中亘『企業買収と防衛策』[2012] 361-377頁。