判例
商法会社法判例百選第4版A31
責任限定契約に基づく監査役の責任限定と重過失の意義
全文
大阪高利平成27年5月21日(判時2279号96頁)
京都大学准教授
高橋陽一 たかはし よういち
本判決は、責任限定契約による責任限定の要件である「重大な過失」(会社427条1項)の意義についての判断を示した。注目される裁判例である。
本件事案の概略は、次のとおりである。公認会計士であるX(原告=被告・控訴人)は、ジャスダック上場会社であるA社の社外監査役であり、A社との間で責任限定契約を締結していた。A社には、日本監査役協会の定める「監査役監査基準」に準拠した監査役監査規程が存在する。A社では、代表取締役Bが資金の不当流用や羨発的な約束手形の振出し等の違法行為を繰り返しており、Xら監査役は、それに対して反対や疑義を表明していた。そのような中、Bは、A社の募集株式の発行に際して払い込まれた資金から8000万円を使途に反して不当に第三者に交付した(本件金目交付)。その後、A社について破産手続開始決定がなされ、破産管財人Y(被告=原告・被控訴人)がXらを相手方として本件金目交付に関し役員責任査定(破178条1項)を申し立てたところ、監査役報酬2年分に相当する648万円の損害賠償査定決定(本件査定決定)がなされた。X・Yがそれぞれ異議の訴え(破180条1項)を提起したところ、原審(大阪地判平成25・12・26判時2220号109頁)は本件査定決定を認可した。Xは控訴した。
本判決は、以下のように判示して控訴を棄却した(上告受理申立不受理。確定)。
Ⅰ Xは、「[A社の]監査役監査規程に基づき、取締役会に対し、A社の資金を、定められた使途に反して合理的な理由なく不当に流出させるといった行為に対処するための内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務」および「取締役ら又は取締役会に対し、Bを代表取締役から解職すべきである旨を助言又は勧告すべき」義務に違反した。
Ⅱ 「本件責任限定契約にいう『重過失』とは、当該監査役の行為が、監査役としての任務懈怠に当たることを知るべきであるのに、著しく注意を欠いたためにそれを知らなかったことであると解すべき」である。Xは疑義の表明や辞任意向の申入れを行うなど一定の限度でその義務を果たしていたこと、およびA社においてBの職務執行の監督や内部統制システムの整備が全く行われていなかったわけではないことといった事情を考慮すると、Xに上記意味での「重過失」は認められない。
判旨Ⅰに関しては、上記のような助言や勧告をなすことが監査役の法的任務となることの当否や根拠をめぐって議論がある。判旨Ⅱに関しては、本判決による重過失の定義が主観的過失概念に基づいていることが注目される。なお、当該重過失の存否に関する本判決の認定方法に対しては批判がある(飯田ほか・後掲314-315頁[飯田])。
[参考文献] 得津晶・ジュリ1490号119頁、遠藤元一・商事2078号4頁、伊藤靖史・リマックス2015(上)90頁、飯田秀総ほか『会社法判例の読み方』[2017]304頁[飯田]。
# II 株式会社 — (6) 計算