判例
商法会社法判例百選第4版A34
新株予約権付社債の有利発行
全文
東京高利令和元・7・17(判時2454号64頁)
南山大学准教授
永江亘 ながえ わたる
本判決は、新株予約権付社債の発行に際し、その発行がいわゆる有利発行(会社238条3項1号)または不公正発行(会社247条2号)に該当するかが争われた事案である。
東京証券取引所の第一部にその発行する普通株式を上場しているAの株主であるXは、Aの取締役会で平成27年9月1日に発行が決議された新株予約権付社債につき、Aの取締役であったYらが、有利発行または不公正発行であることを知りながら、あるいは容易に知り得たうえ、本件発行を強行し、損害を被ったなどとして、Yらに対し、会社法429条1項または民法709条および719条に基づき、損害賠償を請求した。
本判決は、①客観的な資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行条件が決定されていたと言える場合には、特段の事情がない限り、「特に有利な条件」に該当せず、②会社の支配権争いがあり、支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、もって自らの支配権を維持・確保すること等を主要な目的として新株予約権を発行するときは、不当な目的を達成する手段として行われる場合に該当するとした上で、新株予約権が行使されるとは限らないこと、差し迫った支配権争いがないこと、資金調達目的が存在し、公募によることによってXの持株比率を低下させる確実性が弱いものであることなどを挙げ、不公正発行への該当性を否定し、③取締役において、有利発行や不公正発行など法令上の義務に違反する
ものでない限り、資金調達に係る経営判断の過程・内容に著しく不合理な点があるなど取締役の裁量の範囲を超えている経営判断であると認められる場合に、初めて、取締役の善管注意義務違反があったというべきであると示した。
本判決は、①につき、新株予約権付社債の価値につき、募集新株予約権と社債の価値とに分離して評価する従来の裁判例(東京地決平成19・11・12金判1281号52頁など)を踏襲することを前提として、非上場会社の第三者割当て新株発行についての本書21事件の判断枠組みに依拠し、公正な価値そのものではなく発行条件の判断過程を審査し、取締役会の裁量を尊重することを示し、ブックビルディングを経てされた本件の発行条件の決定を「客観的資料に基づく一応合理的な算定方法」による決定であると評価した点が注目される。また、②につき、資金調達の方法が公募によることや資金調達目的が存在していることについて考慮し、募集株式の発行と不公正発行についての従来の裁判例(本書A41事件)と同様の考慮を示している。さらに、③につき、かねてより議論のあった、この局面での取締役の善管注意義務について検討した点に意義がある。
[参考文献] 松井秀征「新株有利発行規制に関する一考察」落合誠一先生還暦記念『商事法への提言』[2004]373頁以下、久保田安彦「公開会社の有利発行規制の再検討」吉本健一先生古稀記念『企業金融・資本市場の法規制』[2020]121頁、杉田貴洋「募集株式発行等における払込金額規整の意義とブックビルディングによる価格決定」前掲吉本古稀103頁、松中学「主要目的ルール廃止論」前掲吉本古稀189頁、同「主要目的ルールの検討(1)」阪大法学57巻6号1011頁、高橋陽一・本百選(第3版)229頁。
別冊 Jurist No.254
IV 社債