判例
知的財産法特許法判例百選第6版79
特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権不存在確認請求控訴
パテントリンケージと確認の訴えの利益
全文
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 主位的請求
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人エーザイRDが、控訴人に対し、別紙物件目録記載の医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、特許第6466339号及び特許第6678783号の各特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
(3) 被控訴人らが、控訴人に対し、控訴人による前項の医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、前項の各特許権の侵害に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認する。
2 予備的請求
(1) 原判決を取り消す。
(2) 予備的請求1
ア 被控訴人エーザイRDが、控訴人に対し、別紙物件目録記載の医薬品が薬価基準に収載された場合、当該医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、特許第6466339号及び特許第6678783号の各特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
イ 被控訴人らが、控訴人に対し、前項の医薬品が薬価基準に収載された場合、当該医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、前項の各特許権の侵害に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認する。
(3) 予備的請求2
控訴人と被控訴人らとの間において、別紙物件目録記載の医薬品が特許第6466339号及び特許第6678783号の特許請求の範囲の各請求項に係る各発明の技術的範囲に属しないことを確認する。第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)本件は、別紙物件目録記載の医薬品(以下「原告医薬品」という。)の製造販売について医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)14条3項に基づく厚生労働大臣の承認申請を行った控訴人が、発明の名称を「乳がんの処置におけるエリブリンの使用」とする特許第6466339号(以下「本件特許1」といい、本件特許1に係る特許権を「本件特許権1」という。)及び特許第6678783号(以下「本件特許2」といい、本件特許2に係る特許権を「本件特許権2」という。)の特許権者である被控訴人エーザイRD及び原告医薬品の先発医薬品に当たる「エリブリンメシル酸塩」を有効成分とする抗悪性腫瘍剤(販売名「ハラヴェン静注1mg」。以下「被告医薬品」という。)を製造販売する被控訴人エーザイを被告として、主位的に、被控訴人エーザイRDが控訴人に対して原告医薬品の生産、譲渡等について本件特許権1及び2(以下、これらを併せて「本件各特許権」という。)に基づく差止請求権(以下「本件差止請求権」という場合がある。)を有しないことの確認、被控訴人らが控訴人に対して原告医薬品の生産、譲渡等について本件各特許権の侵害に基づく損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という場合がある。)を有しないことの確認を求め、予備的に、①原告医薬品が薬価基準(平成20年厚生労働省告示第60号の「使用薬剤の薬価(薬価基準)」。以下同じ。)に収載された場合、被控訴人エーザイRDが控訴人に対して本件差止請求権を有しないことの確認、被控訴人らが控訴人に対して本件損害賠償請求権を有しないことの確認(以上、予備的請求1)を、②控訴人と被控訴人らとの間において、原告医薬品が本件特許1及び2(以下、これらを併せて「本件各特許」という。)の特許請求の範囲の各請求項に係る各発明(以下「本件各発明」という。)の技術的範囲に属しないことの確認(予備的請求2)を求める事案である。
原審は、本件各訴えのうち本件差止請求権の不存在確認請求及び本件損害賠償請求権の不存在確認請求に係る部分(主位的請求及び予備的請求1)については、現に、控訴人の法律的地位に危険又は不安が存在するとは認められず、また、原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認請求に係る部分(予備的請求2)については、控訴人と被控訴人らとの間に生じ得る法律上の紛争の解決のために適切有効とは言い難いから、本件各訴えは、いずれも確認の利益を欠くものであるとして却下した。
そこで、控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
1 前提事実
以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決4頁10行目末尾に次のとおり加える。
「被控訴人エーザイRDは、被控訴人エーザイの子会社であり、そのグループ企業である(甲1)。」
(2) 原判決5頁1行目の「(以下」から2行目の「いう。)」までを削る。
(3) 原判決12頁22行目の「医薬品」を「医薬品、医薬部外品又は化粧品(以下「医薬品等」という。)」と改める。
(4) 原判決13頁2行目の「申請に係る医薬品等が、 」を「 申請に係る医薬品又は医薬部外品が、」と、同頁4行目の「医薬品等」を「医薬品又は医薬部外品」と、同頁24行目及び14頁2行目の各「療用」をいずれも「療養」と改める。
(5) 原判決14頁19行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 厚生省薬務局審査課の各都道府県薬務主管課宛ての平成7年2月9日付けの事務連絡「医薬品製造(輸入)承認申請時に添付する特許情報について」(甲40)は、上記通知の③の「承認後速やかに製造又は輸入販売できることを示す資料」には、下記(ア)ないし(ウ)が該当するとしている。
(ア) 特許権が消滅していることを示す場合
閉鎖特許原簿、特許内容(特許番号、特許権者名、特許期間など)な
ど
(イ) 特許が無効であることを示す場合
特許無効審決書、裁判判決文など
なお、特許内容(特許番号、特許権者名、特許期間など)を参考資料として添付すること。
(ウ) 特許権者又は専用実施権者の同意を得ていることを示す場合
契約書、同意書など
なお、特許内容(特許番号、特許権者名、特許期間など)を参考資料として添付すること。」
(6) 原判決15頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 前記ウの厚生省薬務局審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」は、同年6月5日医政経発第0605001号によって一部改正され、特許抵触の有無を確認する対象に「用途特許」が加えられた(甲39)。」
(7) 原判決16頁10行目の「(以下「被告医薬品」という。)」を「(被告医薬品)」と、同頁13行目の「7日頃」を「7日付け書面(甲8の1)で」と、同頁18行目の「21日」を「21日付け書面(甲8の2)で」と、同頁22行目の「25日」を「25日付けで」と改める。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
以下のとおり、当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 争点①(被控訴人エーザイRDに対する現在の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)及び②(被控訴人らに対する現在の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について(当審における控訴人の補充主張)
ア パテントリンケージとは、「一般に、規制当局が後発品の承認手続において、先発医薬品に係る特許権の侵害性を考慮するシステム」(甲11の54頁右欄)をいい、このようなシステムが発動するということ自体が、控訴人において、特許権の侵害の有無という法律的地位が問題になっている状況にあることを意味するものである。すなわち、厚生労働省としては、後発医薬品が先発医薬品メーカの保有する特許権を侵害するか否かの判断ができないために、パテントリンケージが、物質特許や用途特許が形式的に存在していれば承認しないという制度になっていることが、法的な大きな問題を孕んだ状況にある。このようなパテントリンケージが問題になる状況にあること自体が、特許権の侵害の有無が問題になる法的紛争の状況であり、現に、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という、控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在している状況にある。
そして、パテントリンケージは、あくまでも先発医薬品メーカの特許権が有効で、かつ、後発医薬品がその技術的範囲に含まれることを前提とする制度であり、本件各特許の特許権者である被控訴人エーザイRD及び原告医薬品の先発医薬品である被告医薬品の製造販売を行う被控訴人エーザイに対し、裁判所による侵害の有無の判断(確認判決)さえ示されたならば、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という、控訴人の法律的地位に対する危険は除去されるのであるから、確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に該当する。
イ 控訴人は令和4年2月25日付けで原告医薬品の製造販売についての承認申請を行い、原告医薬品を製造しているところ、控訴人の当該製造行為は、特許発明の実施行為に該当するが、試験研究(特許法69条1項)に当たるため、特許権の効力が及ばないだけである。被控訴人らは当該製造行為に対しては権利行使をしないと述べるが、当該製造行為も承認後に行う製造行為も事実行為としては同じ行為である。さらに、控訴人は、原告医薬品が承認され、薬価収載さえされれば、すぐに原告医薬品の製造販売を行う意思を有している。他方、被控訴人らは、現状において権利行使をする意思がないとは述べているが、実際に権利行使を行い得る状況にあり、また、確認の利益は客観的な状況によって判断されるべきであって、被控訴人らの主観によって左右されるべきではないから、侵害の有無を判断すべき客観的な状況が存在する以上、本件における確認の利益は認められるべきである。ウ(ア) 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下「TPP11協定」という。)の「第18章知的財産」の「第18・53条「特定の医薬品の販売に関する措置」」は、次のとおり規定している。「1 締約国は、医薬品の販売を承認する条件として、安全性及び有効性に関する情報を最初に提出した者以外の者が、以前に承認された製品の安全性又は有効性に関する証拠又は情報(例えば、先行する販売承認であって、当該締約国によるもの又は他の国若しくは地域の領域におけるもの)に依拠することを認める場合には、次のものを定める。(a)、(b) (略)(c) 承認された医薬品又はその承認された使用の方法が請求の範囲に記載されている適用される特許の有効性又は侵害に関する紛争を適時に解決するための手続(司法上又は行政上の手続等)及び迅速な救済措置(予備的差止命令又はこれと同等の効果的な暫定措置等)
2 締約国は、1の規定の実施に代えて、特許権者若しくは販売承認の申請者により販売承認を行う当局に提出された特許に関連する情報に基づき又は販売承認を行う当局と特許官庁との間の直接の
調整に基づき、当該特許権者の承諾又は黙認を得ない限り、請求の範囲に記載されている特許の対象である医薬品を販売しようとする第三者に販売承認を与えない司法上の手続以外の制度を採用し、又は維持する。」
(イ) 二課長通知に基づく実務がTPP11協定(第18・53条2項)に根拠を有するものとして許容されるためには、承認申請に係る医薬品が問題となった特許権の効力に服することが前提であり、そうである以上、問題となった特許の有効性や権利範囲に疑義が生じた場合には、対象製品が「特許の支配下にある医薬品」(特許の対象である医薬品)といえることの確認ができなければならず、特許抵触の有無に疑義がある本件のような確認訴訟が提起された場合については、確認の利益を認めて裁判所が実体的な判断を示すことが必要である。
エ 以上によれば、本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の不存在確認請求に係る本件各訴えには、いずれも確認の利益があるというべきである。(当審における被控訴人らの補充主張)
ア 本件において「パテントリンケージ」のシステムが発動しているといえるのかは不明であるが、仮に、「パテントリンケージ」のシステムが発動しており、これにより、控訴人の権利又は法律的地位に危険又は不安が生じたとしても、被控訴人らは、控訴人に対して、何ら権利主張をしていないのであるから、控訴人と被控訴人らとの間に法律上の紛争が存在しているということにはならない。
二課長通知等によれば、その運用において、特許権者と後発医薬品メーカがそれぞれ相手方に対して先発医薬品に係る特許等の侵害に関して何らかの主張をすることが予定されているわけではなく、単に、厚生労働大臣が承認をするかどうかを判断する際に当該特許等を考慮することがあるということのみであるから、上記承認がされないことによって、控
訴人と被控訴人らとの間に法律上の紛争が存在することにはならない。
イ 控訴人が主張するように、「差止請求権や損害賠償請求権が発生しない原因が二課長通知に基づく実務」にあり、それが問題であるというのであれば、厚生労働省に対して行政訴訟を提起するなどして是正を図ればよいのであって、仮に、本件において控訴人が望む確認判決が得られたとしても、当該判決は厚生労働省に対する法的な拘束力を有しておらず、厚生労働省が当該判決に従って承認するかどうかは不明というほかない。また、仮に、厚生労働省が当該判決に従って承認するということがあったとしても、法律上の紛争が存在しない被控訴人らに対して応訴の負担を強いる合理的な法的根拠は存在しないというべきである。
⑵ 争点③(被控訴人エーザイRDに対する将来の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)及び④(被控訴人らに対する将来の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について(当審における控訴人の補充主張)
現在の二課長通知に基づく承認審査の実務では、後発医薬品メーカは特許権者に対して特許無効審判を提起するしか現実的な方法がないが、これでは特許の有効性しか判断されず、後発医薬品の特許発明の技術的範囲の属否といった点が判断されることはない。技術的範囲の属否は裁判所のみが判断できる事項であり、かつ、裁判所が判断すべき事項であるにもかかわらず、これについて、厚生労働省が機械的な処理を行っているという状況は、法治主義に反する状況というべきであって、後発医薬品メーカの裁判を受ける権利や営業の自由といった憲法上の権利をも侵害するものである。(当審における被控訴人らの補充主張)
控訴人は、厚生労働省に対して行政訴訟を提起するなどして承認審査の実務が「法治主義に反する」などといった主張をすることができるから、控訴人の裁判を受ける権利などの憲法上の権利は何ら侵害されていない。
第3 当裁判所の判断
1 争点①(被控訴人エーザイRDに対する現在の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)及び②(被控訴人らに対する現在の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決22頁16行目の「確認の利益は」を「確認の訴えは」と、同頁21行目の「最判昭和47年11月9日」を「最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・」と改める。
⑵ 原判決23頁8行目から9行目にかけての「2⑷ウ」を「1⑷エ」と、同頁12行目の「エ」を「オ」と改め、同頁13行目から14行目にかけての「本件各特許権を有する。」を削り、同頁16行目の「これらの状況と」を「しかるところ、」と改める。
⑶ 原判決24頁14行目の「同⑶」を「同⑵」と、同頁18行目の「ア」を「イ」と改める。
⑷ 原判決25頁17行目の「なお」から20行目末尾までを次のとおり改める。「 なお、仮に二課長通知等に基づく運用によれば、本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされないことが控訴人にとって問題であるとしても、そのことは、厚生労働大臣が医薬品医療機器等法14条3項に基づく原告医薬品の製造販売についての控訴人の承認申請を認めるかどうかという控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。
⑸ 控訴人は、当審において、①パテントリンケージのシステムが発動するということ自体が、控訴人において、特許権の侵害の有無という法律的地位が問題になっている状況にあることを意味し、現に、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在」している状況にあり、このような状況自体が現在の法的紛争であり、また、パテントリンケージは、あくまでも先発医薬品メーカの特許権が有効で、かつ、後発医薬品がその技術的範囲に含まれることを前提とする制度であり、被控訴人らに対し、裁判所による侵害の有無の判断(確認判決)さえ示されたならば、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という、控訴人の法律的地位に対する危険は除去されるのであるから、確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に該当する、②控訴人は承認申請のため原告医薬品を製造しており、承認後に行う製造行為も事実行為としては同じであって、さらに、控訴人は、原告医薬品が承認され薬価収載さえされれば、すぐに原告医薬品の製造販売を行う意思を有しており、他方、被控訴人らは、現状において権利行使をする意思がないとは述べているが、実際に権利行使を 行い得る状況にあり、また、確認の利益は客観的な状況によって判断されるべきであって、被控訴人らの主観によって左右されるべきではないから、侵害の有無を判断すべき客観的な状況が存在する以上、本件における確認の利益は認められるべきである、③二課長通知に基づく実務がTPP11協定(第18・53条2項)に根拠を有するものとして許容されるためには、特許抵触の有無に疑義がある本件のような確認訴訟が提起された場合については、確認の利益を認めて裁判所が実体的な判断を示すことが必要であるなどとして、本件においては確認の利益が認められるべきである旨主張する。
しかしながら、①については、前記(4)のとおり、控訴人が主張する「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位」の「危険又は不安」とは、控訴人と厚生労働大臣との間で問題となる事柄であり、控訴人と被控訴人らとの間の「請求権の存否に係る法律上の紛争」に係るものではないし、また、かかる危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。
②については、前記⑷で述べた事情を考慮すると、控訴人と被控訴人らとの間の本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の存否について、現に当事者間に紛争が存在し、控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存しているとは認められないから、本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の不存在確認請求に係る本件各訴えについて確認の利益があると認められないと判断したものであって、被控訴人らの主観のみによってこのような結論を導いているわけではない。
③については、TPP11協定の第18・53条2項は、医薬品の販売承認に当たって、特許抵触の有無に疑義があるとして本件のような特許権侵害に係る確認訴訟が提起された場合に、裁判所が確認の利益を認めて実体的な判断を示さなければならない旨を規定するものではない。したがって、控訴人の上記主張は理由がない。」
⑸ 原判決25頁21行目の「⑸」を「⑹」と改める。
2 争点③(被控訴人エーザイRDに対する将来の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)及び争点④(被控訴人らに対する将来の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について
以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の3記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決26頁16行目の「本件において」を「本件証拠上」と、同頁19行目の「2」を「1」と改める。
⑵ 原判決26頁24行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 なお、控訴人は、現在の二課長通知に基づく承認審査の実務において、裁判所が判断すべき技術的範囲の属否について、厚生労働省が機械的な処理を行っているという状況は、法治主義に反する状況というべきであって、後発医薬品メーカの裁判を受ける権利や営業の自由といった憲法上の権利をも侵害するものである旨主張する。
しかし、本件で控訴人が確認を求めている対象は、控訴人と被控訴人らとの間の法律関係であって、仮に上記承認審査の実務に控訴人が指摘するような問題があるとしても、そのことによって、上記法律関係について確認の利益が認められることにはならないというべきである。」
(3) 原判決26頁25行目の「将来において」を削る。
3 争点⑤(被控訴人らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認請求に訴えの利益があるか。)について
以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の4記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決27頁13行目の「適切有効」を「必要かつ適切」と改める。
(2) 原判決27頁15行目の「二課長通知等」の次に「に基づく運用」を加え、同頁17行目の「そのことによって」から19行目の「解されない。」までを「そのことは、前述のとおり、控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。」と改める。
第4 結論以上によれば、本件各訴えは、いずれも訴えの利益を欠くものであるから、これらを却下すべきである。したがって、本件各訴えを却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 遠山敦士
裁判官 小川卓逸は、転補のため署名押印することができない。
(別紙)
物件目録下記の医薬品
記販 売 名 エリブリンメシル酸塩静注1mg「ニプロ」効能・効果 手術不能又は再発乳癌用法・用量 通常、成人には、エリブリンメシル酸塩として、1日1回1.4mg/㎡(体表面積)を2~5分間かけて、週1回、静脈内投与する。これを2週連続で行い、3週目は休薬する。これを1サイクルとして、投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。