判例
知的財産法特許法判例百選第6版95
審決取消請求事件
移転登録請求と民法94条2項類推適用
全文
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 特許庁が不服2023-127号事件について令和5年10月24日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、平成30年4月25日、特許出願(特願2018-83861号。以下「本願」という。)をしたが、令和4年3月17日付け拒絶理由通知を受けた。
原告は、令和4年5月30日に意見書及び手続補正書を提出したが、同年9月21日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)を受けた。原告は、令和5年1月5日、本件拒絶査定に対し不服の審判請求をし、手続補正書を提出した。特許庁は、同請求を不服2023-127号事件として審理した。
⑵ 特許庁審判長は、令和5年6月13日付けで原告に対し、拒絶理由通知(以下「本件拒絶理由通知」という。乙1)をした。原告は、同年8月21日、意見書(以下「本件意見書」という。乙2)及び手続補正書(以下、これによる補正を「本件補正」という。)を提出したが、同年10月24日、結論を「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)がされ、その謄本は、同年11月18日、原告に送達された。
原告は、令和5年12月18日、本件訴訟を提起した。
2 発明(名称「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置」)の内容
本件補正後の請求項は1ないし4から成るが、これらに係る発明の内容は、以下のとおりである(以下、請求項1の発明を「本願発明」という。)。「【請求項1】
食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置であって:
該食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置は、
高電圧変圧器を用いずに直流超高電圧を供給する電源回路、
前記電源回路の高電圧出力端子とGND端子との間に接続される高抵抗値の抵抗器を具えたことを特徴とする、食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置。【請求項2】
前記抵抗器が、両端で電圧が測定可能である低抵抗値を有する第1の抵抗器と、前記第1の抵抗器に直列に接続された高抵抗値を有する第2の抵抗器とからなることを特徴とする、請求項1の食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置。【請求項3】
高電圧変圧器を用いずに直流超高電圧を供給する第1の出力端子及び第2の出力端子を有する第1の高圧電源回路、及び
高電圧変圧器を用いずに直流超高電圧を供給する第3の出力端子及び第4の出力端子を有する第2の高圧電源回路からなり、
前記第1の出力端子と前記第3の出力端子が同一極性であり、
前記第2の出力端子と前記第4の出力端子が同一極性であり、
前記第2の出力端子と前記第3の出力端子との間に高抵抗値の抵抗器が接続され、
前記第1の出力端子と前記第4の出力端子から出力されることを特徴とする、請求項1又は請求項2の食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置。【請求項4】
前記抵抗器が、両端で電圧が測定可能である低抵抗値を有する第1の抵抗器と、前記第1の抵抗器に直列に接続された高抵抗値を有する第2の抵抗器とからなることを特徴とする、請求項3の食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置。」
3 本件審決の内容
⑴ 本件審決の内容は、別紙審決書(写し)のとおりである。その理由の要点は、本願発明は、引用文献1(特開昭62-297677号公報、甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)、並びに、引用文献2(特開2007-159350号公報、甲2)、引用文献3(特開2014-073286号公報、甲3)、参考文献1(特開昭64-5368号公報、甲4。昭和64年1月10日公開)、参考文献2(特開2000-157162号公報、甲5。平成12年6月13日公開)、参考文献3(登録実用新案第3165507号公報、甲6。平成23年1月27日公報発行)及び参考文献4(特開2012-186885号公報、甲7。平成24年9月27日公開)に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項により特許を受けることができない、というものである。なお、引用文献1ないし3は、本件拒絶理由通知において引用された文献であるとともに、本件拒絶査定においても引用されていた文献であり(乙1。なお、引用文献1ないし3は、本件拒絶査定においては、それぞれ引用文献7、同2及び同1として引用されていた。)、参考文献1ないし4は、本件審決において初めて示された文献である。
⑵ 本件審決は、上記判断をするにあたり、引用発明の内容、本願発明と引用発明との一致点及び相違点を、次のとおり認定した。[引用発明の内容]
「庫内に食品用棚を有し、前記食品用棚を高圧電場形成用電極として用い、外部キョウ体2および前記棚の一部3をアース電位とし、残りの食品用の棚4を○+(判決注:プラスの意。以下、単にプラスないし+という。)または○-(判決注:マイナスの意。以下、単にマイナスないし-という。)電位にして庫内の食品を高圧電場処理できる冷凍冷蔵庫1に5kV/cm程度の高圧直流電圧を印加できる高圧電源5。」[一致点]
「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置であって:
該食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置は、
直流超高電圧を供給する電源回路
を具えた食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置。」である点。[相違点]
<相違点1>
本願発明の電源回路は、「高電圧変圧器を用いずに」直流超高電圧を供給するのに対して、引用発明の「高圧電源5」が具える電源回路は、直流超高電圧を供給するものの、「高電圧変圧器を用いずに」直流超高電圧を供給するか否かは明らかでない点。
<相違点2>
本願発明の食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置は、「前記電源回路の高電圧出力端子とGND端子との間に接続される高抵抗値の抵抗器」を具えているのに対して、引用発明の「高圧電源5」は、そのような構成を具えていない点。
⑶ また、本件審決は、上記⑴の判断をするにあたり、相違点1につき、引用文献2及び参考文献1ないし4には、直流高電圧を発生させるための電源回路としてコッククロフトウォルトン回路を用いること、コッククロフトウォルトン回路は、直流高電圧を発生させる際に、高電圧変圧器を用いるものではないこと、コッククロフトウォルトン回路は、直流高電圧を必要とする様々な分野において用いることができるとの周知技術(以下「周知技術1」という。)が記載されているとし、相違点2につき、引用文献2及び3には、直流高電圧を発生させる電源回路の高電圧出力端子とGND端子との間に、高抵抗値の抵抗器と低抵抗値の抵抗器の直列回路を接続し、低抵抗値の両端の電圧を測定することで直流高電圧の値を求めることは当該技術分野における周知技術(以下「周知技術2」という。)であることについての記載がされているとした。
4 原告の主張する本件審決の取消事由
⑴ 取消事由1
本件審決の手続における特許法50条違反
⑵ 取消事由2
本件審決の進歩性判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件審決の手続における特許法50条違反)
〔原告の主張〕
⑴ 本件審決は、参考文献1ないし4を摘示して請求を不成立とし、本件拒絶査定を維持する旨の審決を行ったが、特許法50条の規定に違背し、違法である。
明治8年太政官布告103号「裁判事務心得」第3条に「民事ノ裁判ニ成文ノ法律ナキモノハ習慣ニ拠リ習慣ナキモノハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」とあり、慣習法の効力については、「法の適用に関する通則法」第3条に「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関する限り、法律と同一の効力を有する。」とある。
法的な慣習の代表的なものに、行政機関が統一的取扱いの確立のために発する訓令・通達等による有権解釈があり、慣習法として他の行政機関及び司法機関を事実上拘束する。工業所有権法を所管する特許庁が制定した審査基準等は、権限ある官庁が行った有権解釈として特許庁職員だけでなく、裁判官をも拘束する。「特許・実用新案審査基準」(以下、原告の主張において「審査基準」という。)は、これに当たる。
⑵ 本件審決は、参考文献1ないし4につき、拒絶理由として通知することなく追加摘示して、請求を不成立とする審決をしたが、その判断にあたり参考文献1ないし4を引用している。
審査基準には、拒絶をする場合には出願人に意見書の提出及び手続補正の機会を与えなければならないとされているが、参考文献1ないし4は、拒絶理由として通知されておらず、本件審決までに意見書提出の機会は与えられていない。
拒絶の理由として摘示されていない参考文献1ないし4を審決において摘示し、審判請求人である原告に意見を述べる機会や、明細書等について補正をして拒絶理由を解消する機会を与えなかった本件審決は、不意打ちであり、特許法159条2項で準用する同法50条に違反している。〔被告の反論〕
⑴ 本件審決は、相違点1、2の容易想到性に関して、本件拒絶理由通知においては示していなかった参考文献1ないし4を引用し、引用発明と周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明することができたと判断したところ、これは、特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する違法な手続ではない。
原告が本件意見書において、周知技術1の周知性を争ったことから、本件審決は、周知技術1の周知性を示す文献として、本件拒絶理由通知で例示した引用文献2に加えて、参考文献1ないし4を新たに追加し、コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路が様々な技術分野において周知であることを示した上で、本件拒絶理由通知で通知した理由と同じ理由で、本願発明は、引用発明と周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明することができた、と説示したものである。
そうすると、本件審決は、本件意見書で反論された周知技術1の周知性を示すための文献として、本件拒絶理由通知において例示した引用文献2に加えて、参考文献1ないし4を追加して、周知技術1が食品電場処理装置である引用発明にも適用される点を説示したものであって、本件拒絶理由通知に対する本件意見書に対応するために文献を示したにすぎず、本件拒絶理由通知で通知した拒絶の理由の主引用例やそれと組み合わせる周知技術1、2の内容自体の認定は、本件審決において全く変更されていないのであるから、原告は、本件拒絶理由通知で通知された、「本願発明は、引用発明と周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明することができたものである」という拒絶の理由に対して、反論する機会や補正する機会が与えられていたといえる。
したがって、本件審決は、特許法159条2項において準用する同法50条の「審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。」との規定に違反するものではない。
⑵ 上記⑴で述べたとおり、本件審決は、周知技術1の周知性を示す文献として、本件拒絶理由通知で例示した引用文献2に加えて、参考文献1ないし4を新たに追加し、コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路が様々な技術分野において周知であることを示した上で、本件拒絶理由通知で通知した理由と同じ理由で、本願発明は、引用発明と周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明することができた、と判断したものであるところ、上記の判断は、特許・実用新案審査基準の「第 III 部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」(乙3)の「5.3 進歩性の判断に係る審査の進め方」における下記の記載にも沿ったものであるから、本件審決は、審査基準を無視してなされたものとはいえない。「(2) 補正や、反論、釈明により、拒絶理由通知で示した拒絶理由が維持されず、請求項に係る発明が進歩性を有していないとの心証を、審査官が得られない状態になった場合は、拒絶理由は解消する。審査官は、拒絶理由通知で示した拒絶理由が維持され、請求項に係る発明が進歩性を有していないとの心証が変わらない場合は、第29条第2項の規定により、特許を受けることができない旨の拒絶理由に基づき、拒絶査定をする。例:拒絶理由が維持されないと判断する例
審査官は、新たな証拠を追加的に引用しなければ論理付けができない場合は、拒絶理由通知で示した拒絶理由は維持されないと判断する。ただし、既に示した論理付けに不備はなかったが、その論理付けを補完するために、周知技術又は慣用技術を示す証拠を新たに引用する場合を除
く。」
したがって、原告の主張には理由がない。
2 取消事由2(本件審決の進歩性判断の誤り)
〔原告の主張〕
⑴ 本願発明と引用文献1に記載された発明(引用発明)について
本願発明は「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置」に係る発明であり、食品処理装置の技術分野に属する。
引用発明は、電場処理冷蔵庫に係る発明であるから、食品処理装置の技術分野に属する。引用文献1には、高電圧を印加する解凍用の冷蔵庫が記載されている。印加電圧は5kV/cm程度(2頁左下欄12行目)であるから、通常の解凍用の冷蔵庫の棚間隔10~15cmの場合の印加電圧は50~75kVである。高電圧の電場はドアを閉めた後に一定時間のみ印加し(2頁左上欄19行目ないし20行目)、電場処理時間を調整するための間欠タイマーを付加しドアを閉める毎に一定時間電場が印加される(2頁左下欄1行目ないし3行目)。
これに対して、本願発明では、印加電圧は10kV以下であり、印加時間は制限しない。
引用文献1に記載された解凍用の冷蔵庫では、高電圧の電場はドアを閉めた後に一定時間のみ印加されるが、本願に係る食品電場処理装置は、使用中は直流超高電圧を印加した状態である。
このように、引用文献1に記載された発明は、本願についての従来技術ではない。
⑵ 引用文献2に記載された発明について
引用文献2に記載された発明は、荷電粒子加速器や成膜装置等に係る発明であり、科学技術装置の分野あるいは工業装置の技術分野に属する。
食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、科学技術装置の分野あるいは工業装置の技術分野の当業者ではないから、荷電粒子加速器や成膜装置に係る発明を知らない。
引用文献2に記載されているのは、荷電粒子加速器や成膜装置等に係る発明であるから、操作者が高電圧により感電する可能性は全くない。
引用文献2にコッククロフトウォルトン回路が記載されているとしても、本願発明は「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置」に係る発明であり、食品電場処理装置の当業者である発明者は、高圧変圧器による交流電場処理技術しか知らず、コッククロフトウォルトン回路を知らない。
⑶ 引用文献3に記載された発明について
引用文献3に記載された発明は、医学診断用のX線撮影装置に係る発明であるから、医学診断装置の技術分野に属する。
食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、医学診断装置の技術分野の当業者ではないから、医学診断用のX線撮影装置に係る発明を知らない。引用文献3に記載された発明は、その1頁の【要約】【課題】に記載されているように医学診断用のX線撮影装置に係るものであり、本件審決により摘示された段落【0027】及び【図3】によれば、高電圧変圧器203a、203cの高電圧交流が各々高電圧整流器204a、204cにより整流されて+75kVと-75kV合計150kVという超高電圧がX線管101に供給される。
引用文献3の段落【0026】に「X線発生装置内で放電が発生したことを検知するため、さらにはX線発生装置内で発生した放電の発生箇所を特定するためには、管電流を計測する必要がある。」と記載されている。この記載から見て、段落【0026】及び【0027】に記載された計測回路はX線発生装置内で発生した異常現象を検出するために設けられたものであり、装置動作中は常時動作させる必要があり、当然に計測部401、402も必須となる。
これに対して本願の請求項2に係る発明の食品電場処理装置は民生用の食品電場処理装置であるから、常時の計測は不要である。
したがって、引用文献1ないし3に記載された発明から当業者が本願の請求項2に係る発明の構成を容易に得ることはできない。
⑷ 参考文献1に係る発明について
参考文献1に記載された発明は、キセノンフラッシュランプの点灯装置に係る発明であるから、照明装置の技術分野に属する。
食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、照明装置の技術分野の当業者ではないから、キセノンフラッシュランプの点灯装置に係る発明を知らない。
参考文献1は、拒絶理由として通知されていないので、拒絶の根拠とすることはできない。
⑸ 参考文献2に係る発明について
参考文献2に記載された発明は、食用農産物の鮮度保持、追熟処理に用いられる食用農産物の処理装置に係る発明であるから、農業の技術分野に属する。
食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、農業の技術分野の当業者ではないから、食用農産物の処理装置に係る発明を知らない。
参考文献2は、拒絶理由として通知されていないので、拒絶の根拠とすることはできない。
⑹ 参考文献3に係る発明について
参考文献3に記載された発明は、工業用電場食品処理装置に係る発明であるから、食品処理装置の技術分野に属する。
参考文献3は、拒絶理由として通知されていないので、拒絶の根拠とすることはできない。
⑺ 参考文献4に係る発明について
参考文献4に記載された発明は、苗床栽培装置に係る発明であるから、農業の技術分野に属する。
食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、農業の技術分野の当業者ではないから、苗床栽培装置に係る発明を知らない。
参考文献4は拒絶理由として通知されていないので、拒絶の根拠とすることはできない。
⑻ まとめ
以上のとおり、参考文献1ないし4は、拒絶理由として通知されていないので、拒絶の根拠とすることはできない。また、引用文献1記載の引用発明と、引用文献2、3をはじめとする、本件審決において示された引用文献1以外の文献等とは、それぞれ技術分野と課題が異なる。そうすると、本願に係る食品電場処理装置の発明の先行技術として摘示し得るのは、唯一、引用文献1のみである。
本件審決は、本願発明と引用発明との間に相違点1及び2が存在しているとしている。上記のとおり、引用文献1以外の文献は拒絶の根拠とはなり得ないため、相違点1及び2が依然として存在しており、本願は拒絶されない。本件審決は、特許法50条の規定に違背し、同法29条2項の規定を無視して行われた違法なものである。特許庁が制定した審査基準は、特許庁職員である審判官を拘束するから、審判合議体が審査基準を無視する行為は許されない。〔被告の反論〕
⑴ 本願発明及び引用発明について
特許庁の特許・実用新案審査基準の第 III 部「特許要件」における「当業者」は、「請求項に係る発明の属する技術分野の出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができ、発明が解決しようとする課題に関連した技術分野の技術を自らの知識とすることができること。」という条件を備えた者とされる(同審査基準 第 III 部第2章第2節 進歩性(乙4)の「2.進歩性の判断に係る基本的な考え方」参照)。この発明者の定義と本願の特許請求の範囲の記載からすれば、本願発明における当業者は、食品電場処理装置の技術分野の技術常識を有し、出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とした者であって、食品電場処理装置の技術分野に限らず、食品電場処理装置に付随した各種部材についても、課題解決にあたり検討するものといえるから、かかる食品電場処理装置に関連する部材である「直流高電圧電源装置」の技術分野の技術を知悉する者であるといえる。
ここで、引用発明は、「庫内の食品を高圧電場処理できる冷凍冷蔵庫1に5kV/cm程度の高圧直流電圧を印加できる高圧電源5」に関するものであるから、「食品電場処理装置」の技術分野、及び、当該分野に関連した「直流高電圧電源装置」の技術分野に属する発明である。
そうすると、上記した本願発明における当業者(食品電場処理装置の技術分野の技術常識を有し、出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とした者であって、食品電場処理装置に関連した「直流高電圧電源装置」の技術分野の技術を知悉する者)については、「食品電場処理装置」の技術分野、及び、当該分野に関連した「直流高電圧電源装置」の技術分野に属する引用発明を、本願発明の拒絶の理由の根拠となる発明として考慮することができるといえる。
なお、原告は、引用文献1では高電圧の電場はドアを閉めた後に一定時間のみ印加し(2頁左上欄19行目ないし20行目)、電場処理時間を調整するための間欠タイマーを付加しドアを閉める毎に一定時間電場が印加される(2頁左下欄1行目ないし3行目)のに対して、本願発明では、印加電圧は10kV以下であり印加時間は制限しない旨、引用文献1に記載された解凍用の冷蔵庫では、高電圧の電場はドアを閉めた後に一定時間のみ印加されるが、本件出願に係る食品電場処理装置は使用中は直流超高電圧を印加した状態である旨を主張するが、本願発明に係る本件補正後の請求項1には、「印加電圧は10kV以下であり、印加時間は制限しない」ことや、「使用中は直流超高電圧を印加した状態である」ことについては何も特定されていないから、原告の上記主張は請求項の記載に基づくものではなく、失当である。
⑵ 引用文献2及び参考文献1ないし4について
引用文献2には、「荷電粒子加速器、電子顕微鏡、分析機器類等の高電圧を必要とする機器にコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路が用いられること」が記載され、参考文献1には、「キセノンフラッシュランプを発光させるためにコツククロフト・ウオルトン回路が用いられること」(「コツククロフト・ウオルトン回路」は「コッククロフトウォルトン回路」を指す。)が記載され、参考文献2には、「野菜や果実類等の食用農産物の鮮度保持や追熟処理に用いられる食用農産物の処理装置にコッククロフト・ウォルトン回路が用いられること」(「コッククロフト・ウォルトン回路」は「コッククロフトウォルトン回路」を指す。)が記載され、参考文献3には、「食用油の酸化抑制のためのマイナス直流電位電極板を備えた大型自動フライヤーにコッククロフト・ウォルトン回路が用いられること」(「コッククロフト・ウォルトン回路」は「コッククロフトウォルトン回路」を指す。)が記載され、参考文献4には、「農業用に高電圧の電気的刺激を与えるのに適した高電圧印加装置にコッククロフトウォルトン回路が用いられること」がそれぞれ記載されている。
また、例えば、電気情報通信一般の教科書ともいえる、乙5の「5.電源回路」の「5・1 整流回路と平滑回路」の項には、交流電圧よりも高い直流電圧を得ることができる電源回路の例として、半波整流回路を多段接続した高電圧発生回路であるコッククロフト・ワルトン回路(「コッククロフトウォルトン回路」を指す。)が記載されている。さらに、乙6には、コッククロフトウォルトン回路を利用した機器の例として、レーザー装置、高圧電源、X線装置、イオンポンプ、粒子加速器、研究用機器にとどまらず、液晶バックライト、静電気帯電装置、エアーイオナイザー、複写機、オシロスコープ、ブラウン管テレビ、スタンガン、電撃殺虫器などの日常的な電気機器にも利用可能であることが記載されている。
そうすると、コッククロフトウォルトン回路は、直流高電圧を必要とする様々な分野において用いられる周知の電源回路であるといえる。
そして、本願発明の容易想到性を判断するにあたり、容易に本願発明をすることができたか否かの検討対象となる当業者は、上記のとおり、食品電場処理装置の技術分野の技術常識を有し、出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とした者であって、食品電場処理装置に関連した「直流高電圧電源装置」の技術分野の技術を知悉する者であるから、直流高電圧を必要とする様々な分野において周知であるコッククロフトウォルトン回路を自らの知識としており、そのような当業者は、引用発明の高圧電源5に内在する小型化・軽量化という一般的な課題に対して通常の創作能力を発揮して、小型・軽量の電源装置(本願の明細書の段落【0016】)として著名(本願の明細書の段落【0012】)なコッククロフトウォルトン回路を採用し、相違点1に係る構成、すなわち、高電圧変圧器を用いずに直流超高電圧を供給する構成を容易に想到することができたといえる。
また、原告は、「食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、科学技術装置の分野あるいは工業装置の技術分野の当業者ではないから、荷電粒子加速器や成膜装置に係る発明を知らない。」、「食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、照明装置の技術分野の当業者ではないから、キセノンフラッシュランプの点灯装置に係る発明を知らない。」、「食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、農業の技術分野の当業者ではないから、食用農産物の処理装置に係る発明を知らない。」などと主張する。
しかしながら、上記した、本願発明の容易想到性を判断するにあたり、容易に本願発明をすることができたか否かの検討対象となる当業者は、「荷電粒子加速器や成膜装置」、「キセノンフラッシュランプの点灯装置」、あるいは「食用農産物の処理装置」の各種装置が備える直流超高電圧電源装置を参考にして、直流高電圧電源装置の技術分野において周知であるコッククロフトウォルトン回路の採用を試みるものであって、相違点1に係る電源装置の設計変更を行うことができることは明らかであるから、原告の上記主張は失当である。
また、原告は、参考文献1ないし4について、拒絶理由として通知されていないので、拒絶の根拠とすることはできない旨を主張するが、既に述べたとおり、これらの文献は、周知技術1の周知性を示すために追加した文献であって、拒絶の理由を直接構成するものではないから、原告の主張は、失当である。
⑶ 引用文献2に関する原告の主張について
原告は、引用文献2に記載されているのは、荷電粒子加速器や成膜装置等に係る発明であるから、操作者が高電圧により感電する可能性は全くないと主張する。
この点について、本件審決は、本願発明の容易想到性を判断するにあたり、容易に本願発明をすることができたか否かの検討対象となる当業者は、引用文献1において内在する課題である電圧測定に関する知識、技術を有しており、周知技術2も知悉する者であるから、高抵抗と低抵抗で出力電圧を分圧して測定する周知技術2に基づけば、高抵抗を接続することは容易に想到し得たことであると判断したものである。
したがって、原告の感電についての上記主張は、本件審決を正解しないものであり、失当である。
⑷ 引用文献3に関する原告の主張について
原告は、「食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、医学診断装置の技術分野の当業者ではないから、医学診断用のX線撮影装置に係る発明を知らない。」と主張するが、本願発明の容易想到性を判断するにあたり、容易に本願発明をすることができたか否かの検討対象となる当業者は、食品電場処理装置の技術分野の技術常識を有し、出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とした者であって、食品電場処理装置に関連した「直流高電圧電源装置」の技術分野の技術を知悉する者であるから、直流高電圧電源装置の技術分野において周知である「直流高電圧を発生させる電源回路の高電圧出力端子とGND端子との間に、高抵抗値の抵抗器と低抵抗値の抵抗器の直列回路を接続し、低抵抗値の両端の電圧を測定することで直流高電圧の値を求める手法」(以下、「高電圧測定手法」という。)を自らの知識としており、そのような当業者は、引用発明において、上記周知の高電圧測定手法を採用し、当該高電圧測定手法を用いるために、高電圧出力端子とGND端子との間に(高抵抗値の抵抗器と低抵抗値の抵抗器の直列回路からなる)高抵抗値の抵抗器を設けること、すなわち、相違点2に係る構成を容易に想到し得るといえる。
したがって、食品処理装置の技術分野の当業者である発明者は、医学診断装置の技術分野の当業者ではないから、医学診断用のX線撮影装置に係る発明を知らないとの原告の主張は失当である。
また、原告は、「請求項2に係る発明の食品電場処理装置は民生用の食品電場処理装置であるから、常時の計測は不要である。」と主張するが、本願の請求項2には、請求項1を引用する部分も含めて、「常時の計測は不要である」ことについて何も特定されていないから、原告の主張は請求項の記載に基づくものではなく、失当である。
⑸ 特許法29条2項に係る判断についてのまとめ
以上のとおりであり、本願発明と引用発明との間には、本件審決が認定した相違点1及び2が存在するところ、これらの相違点に係る本願発明の構成は、引用文献2及び参考文献1ないし4から認定される周知技術1、及び、引用文献2、3から認定される周知技術2に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであると判断される。したがって、引用文献1以外の文献は拒絶の根拠とはなり得ないため、相違点1及び2は依然として存在しており、本願は拒絶されないとの原告の主張には理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件審決の手続における特許法50条違反)について
⑴ 原告は、本件審決に摘示された、本件拒絶理由通知において示されていない参考文献1ないし4について、意見書を提出する機会等が与えられていないから、本件審決の手続は、特許法159条2項で準用する同法50条に違反する旨主張する。
特許法159条2項は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に同法50条を準用するとするところ、同条は、「審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。」と規定しており、本件審決の手続がこれに違反するか否かにつき、以下検討する。
⑵ 本件における手続の経過は前記第2の1及び同3⑴のとおりであり、本件拒絶査定においては、引用文献1ないし3を示して拒絶査定をしたところ、本件拒絶理由通知においても、引用文献1ないし3を引用して、拒絶理由を原告に通知した。
本件拒絶理由通知は、引用文献1に基づいて同文献記載の発明(引用発明)の内容を認定した上で、同文献記載の発明と本願発明との一致点及び相違点1、2を認定したものであるところ、本件拒絶理由通知が引用文献1(本件拒絶査定においては前記のとおり引用文献7)記載の発明として認定した内容は、「庫内に食品用棚を有し、前記食品用棚を高圧電場形成用電極として用い、外部キョウ体2および前記棚の一部3をアース電位とし、残りの食品用の棚4を+または-電位にして庫内の食品を高圧電場処理できる冷凍冷蔵庫1に高圧直流電圧を印加する高圧電源5を具えた装置。」であり(乙1)、前記第2の3⑵の本件審決が認定した引用発明と比べると、本件審決が認定した引用発明において、印加できる高圧直流電圧の程度が「5kV/cm程度の」と記載されているのに対し、そのような印加する高圧直流電圧の程度が記載されてない点が異なるのみで、その他は実質的に同内容である。そして、本件拒絶理由通知が認定した引用発明と本願発明との相違点1、2は次のとおりであり(乙1)、この内容は、前記第2の3⑵で本件審決が認定した相違点と同じである。
<相違点1>
本願発明の電源回路は、「高電圧変圧器を用いずに」直流超高電圧を供給するのに対して、引用発明の「高圧電源5」は、そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
本願発明の「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置」は、「前記電源回路の高電圧出力端子とGND端子との間に接続される高抵抗値の抵抗器」を具えているのに対して、引用発明の「装置」は、そのような構成を具えていない点。
その上で、本件拒絶理由通知においては、「上記相違点1、2について、まとめて検討する。例えば引用文献2(特に図1及びその説明の記載を参照。)に記載されているように、『高電圧変圧器を用いずに』構成される高電圧発生回路として、コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路は周知であるものと認められ、また、引用文献2の図1において、高電圧発生回路の高電圧電極とGNDとの間に『高電圧測定用高抵抗(Rh)』と『電圧測定用抵抗(Rm)』の直列回路が接続されているように、高電圧発生回路の出力に、出力電圧を測定するための抵抗器を接続して出力電圧を測定することは、当該技術分野における周知技術であるものと認められる。してみると、引用発明の『高圧直流電圧を印加するための高圧電源5』として、周知のコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を採用し、その際、出力電圧を測定するための抵抗器を高電圧電極とGNDとの間に接続することで、相違点1、2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。」とした(乙1)。
⑶ なお、引用文献2の【発明の詳細な説明】の【背景技術】には、「高電圧を発生する機構は、トランスによる昇圧、倍電圧整流やコッククロフトウォルトン回路等の多段縦続整流回路、及びベルト発電機等の機械的運動を伴った静電昇圧法があり、これらのいくつかを組み合わせた装置が粒子加速器等の電源として用いられている(非特許文献1参照)。」(段落【0003】)と記載されており、これを踏まえて、引用文献2には、この従来技術に属するコッククロフトウォルトン回路(コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路)を用いた実施例が、本件拒絶理由通知の摘示する図1及びこれについての説明である明細書の段落【0022】に記載されている(後記2⑵ア及びイ参照、甲2)。
⑷ 本件拒絶理由に対して、原告は、本件意見書において、「請求項1に対して、引用文献1として特開昭62-297677号公報が、引用文献2として特開2007-159350号公報が摘示され、引用発明の『高圧直流電圧を印加するための高圧電源5』として周知のコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を採用し、その際、出力電圧を測定するための抵抗器を高電圧電極とGNDとの間に接続することで、相違点1、2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとの拒絶理由が通知されています。」とした。
その上で、「引用文献1及び引用文献2に記載された発明から当業者が請求項1に係る発明の構成を容易に得ることはできません。
ある技術分野において特定の技術が周知技術であるとするためには、複数の先行技術を摘示するか、先行技術が数多存在することを説明する必要があります。
コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を使用することは引用文献2第1頁の[要約][課題]に例示されている荷電粒子加速や成膜装置のような、科学研究分野や工業分野では周知ですが、食品電場処理装置のような民生品分野では全く使用例がありません。したがって、食品電場処理装置のような民生品分野ではコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を使用することが周知であるとすることはできません。
また、拒絶理由で摘示されたコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路は僅かに1例のみです。
食品電場処理装置にコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を採用することが周知であるというためには、コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を採用した食品電場処理装置が先行技術として数例示される必要があります。
食品電場処理装置の当業者が科学研究分野等のみで使用されているコッククロフトウォルトン型高電圧発生装置を食品電場処理装置に採用することはあり得ません。現に、引用文献1の発明が1986年になされ、引用文献2の発明が2005年になされていたにもかかわらず、本願発明がなされた2018年に至るまで、このような構成が存在していないということが、コッククロフトウォルトン型高電圧発生装置が食品電場処理装置の分野で周知ではないことを物語っています。
科学研究分野等のみで使用されている技術を、全く無関係な食品電場処理装置で利用することが容易であるとするのは、後知恵といえます。
したがって、引用文献1及び引用文献2に記載された発明から当業者が請求項1に係る発明の構成を容易に得ることはできません。」(乙2)と主張した。
⑸ 上記⑵のとおり、本件拒絶理由通知は、コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路は周知(周知技術1)であり、また、高電圧発生回路の出力に、出力電圧を測定するための抵抗器を接続して出力電圧を測定することは周知技術(周知技術2)であるから、本願発明は、引用発明と周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの拒絶の理由を通知したものであるところ、上記⑷のとおり、原告は、本件意見書において、上記拒絶の理由に対して、「食品電場処理装置のような民生品分野ではコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路を使用することが周知であるとすることはできません。」、「科学研究分野等のみで使用されている技術を、全く無関係な食品電場処理装置で利用することが容易であるとするのは、後知恵といえます。」として、相違点に係る容易想到性についての反論をしたものである。
そして、本件審決は、上記第2の3のとおり、本件拒絶理由通知が主引用例とした引用文献1を主引用例とし、本願発明との相違点である相違点1及び2についても、本件拒絶理由通知と同一の認定をした上で、引用文献2及び3の記載に示される周知技術1及び2から相違点に係る構成は容易に想到できるとしたものであって、本件拒絶理由通知と本件審決とは、同一の文献に基づき、同一の理由により判断をしたものということができる。
加えて、上記相違点に係る容易想到性について、上記⑷のとおり、本件意見書において、原告は本件拒絶理由通知における上記内容を踏まえた反論をしている。
なお、本件審決においては、それまで原告には示されていなかった参考文献1ないし4も引用されているところ、これらは、高電圧変圧器を用いることなく直流高電圧を発生させる電源装置としてコッククロフトウォルトン回路が周知技術であり、様々な分野で用いられていることを示すために挙げられたものであって、上記⑶のとおり、引用文献2に【背景技術】として従来技術に係るものとして記載されたコッククロフトウォルトン回路につき、本件拒絶理由通知及び本件審決が認定した周知技術1を示す刊行物等を追加したに過ぎないものである(本件審決22頁3行目ないし10行目)。
そうすると、本件審決は、原告の本件意見書の記載に対応して、本件拒絶理由通知における論理付けを変更することなく、引用文献2の記載に示される周知技術の裏付けとなる刊行物等の証拠として参考文献1ないし4を加え、周知技術1に係るコッククロフトウォルトン回路の技術を複数提示したものであるから、これら参考文献1ないし4につき、新たに拒絶理由を通知することなく、本件審決を行ったことに違法はない。
以上のとおり、本件審決における手続は違法ではないから、本件審決は特許法159条2項の引用する同法50条の規定に違反するとの原告の取消事由1の主張には理由がない。
⑹ 原告の主張に対する判断
原告は、本件審決は、参考文献1ないし4を拒絶理由として通知することなく、審決において追加適示し、「本件審判の請求は、成り立たない。」との判断を行っており、出願人である原告にこれらについて意見書の提出及び手続補正の機会が与えられておらず、不意打ちであり、特許法159条2項で準用する同法50条に違反するから、本件審決を取り消すべきである旨を主張する。
しかし、本件審決で追加提示された参考文献1ないし4は、本件拒絶理由通知で指摘されていた引用文献2に例示される周知技術の裏付けとなる刊行物等の証拠を追加したものに過ぎず、新たに拒絶理由を通知しなくとも特許法159条2項の準用する同法50条違反の問題が生じないことについては既に述べたとおりであり、前記⑴ないし⑷の経緯に照らせば、参考文献1ないし4について個別の反論の機会が与えられなかったことによって、原告が特段の不利益を被ったものとも認め難い。
また、特許・実用新案審査基準は、審査に当たる審査官にとって基本的な考え方を示すものであり、出願人にとっては出願管理等の指標としても広く利用されているものではあるとしても、飽くまでも特許・実用新案登録の出願が法の規定する要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性、合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であって、行政手続法5条にいう「審査基準」として定められたものではない(特許法195条の3により、行政手続法5条の規定は適用除外とされている。)。すなわち、特許・実用新案審査基準は法規範そのものではないから、審決が同審査基準に従ったものであるかどうかは、審決の適法性と直接の関係はなく、審決の適法性は、飽くまでも特許法の規定に基づいて判断すべきものである。そうすると、同審査基準は、裁判所を拘束するものでもなく、仮に審査基準にある説明に審決が違背していたからといって、直ちに審決を取り消すことにはならない。もっとも、本件で特許・実用新案審査基準への違背の有無を検討したとしても、同審査基準の「第 III 部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」(乙3)の「5.3 進歩性の判断に係る審査の進め方」には、「審査官は、新たな証拠を追加的に引用しなければ論理付けができない場合は、拒絶理由通知で示した拒絶理由は維持されないと判断する。ただし、既に示した論理付けに不備はなかったが、その論理付けを補完するために、周知技術又は慣用技術を示す証拠を新たに引用する場合を除く。」と記載されており、本件審決で新たに示された参考文献1ないし4は、論理付けを補完するために、周知技術又は慣用技術を示す証拠として新たに引用されたものであるから、本件審決の手続は、同審査基準にある説明に違背するものでもない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
2 取消事由2(本件審決の進歩性判断の誤り)について
⑴ 原告は、本件審決の進歩性判断は誤りである旨主張するので、以下、検討する。引用文献1(甲1)には、以下の記載がある(下線は判決で付記)。
ア 明細書の発明の詳細な説明
(ア) 産業上の利用分野
「本発明は、産業用または家庭用食品保存装置に関するものであり、特に、食品の長期保存を可能ならしめる防腐防バイ効果の高い冷蔵庫等の食品保存装置に関するものである。」(1頁左下欄19行目ないし同頁右下欄3行目)
(イ) 従来の技術
「従来、食品の長期保存の目的としては、冷蔵庫や冷凍庫が商品化され普及率も100%近くに達している。これらの基本原理は、食物を低温に保存しておくことにより、バクテリアやカビの増殖を防止することであり、食品の寿命を長くしたり、さらに食品の鮮度を保つ効果がある。また、断熱構造の庫内を冷却する手段としては、冷媒とコンプレッサーを用いたヒートポンプ方式が主に用いられている。
一方、冷蔵保存の方法以外に、電場処理による保存効果をねらったものとして浅川効果(科学朝日、Jul.1984、P78)が知られている。」(1頁右下欄4行目ないし16行目)
(ウ) 発明が解決しようとする問題点
「しかしながら、従来の冷蔵庫や冷凍庫は、庫内を低温にすることによ
マ マ
りバクテリアやカビの発生をおさえ方式であり、保存効果を上げようとすればする程、庫内温度を下げねばならず、このためにはコンプレッサーを使用しているためエネルギー(電力)消費が大きくなる欠点があった。また、保存期間も冷蔵庫で数週間、冷凍庫で数ヶ月が限界であった。」(1頁右下欄17行目ないし2頁左上欄5行目)
(エ) 問題点を解決する手段
「そこで、本発明は、冷蔵庫や冷凍庫のような食品保存装置において、より長期間カビやバクテリアの発生を防止し、生鮮食品の鮮度を保ち、さらに、調理穀物類のベータデンプンからアルファデンプンへの転化を促進し味を良くする目的で、食品保存容器、たとえば冷凍庫や冷蔵庫内のたとえば食品受け棚を高圧電場形成用電極として用い、前記電極に高圧の直流又は交流の高圧電場を印加できる機能を付加することにより、保存中の食品に高圧電場が印加できる装置を提供するものである。」(2頁左上欄6行目ないし17行目)
(オ) 作用
「水を含む物質に高電圧の電場を数分程度印加すると、室温保存でも電場をかけた物質におけるカビの発生をおよそ1ヶ月間防止できたり、野菜が果物の水分蒸発を抑制したり、デンプンを含むイモ類や穀類のベータデンプンをアルファデンプンへ転化を促進することが浅川勇吉氏により確認されている。すなわち、食品類を任意に高圧電場処理できる冷蔵庫や冷凍庫を提供することにより食品類の長期保存を可能としたり、味を改良する作用が生じる。」(2頁左上欄18行目ないし同頁右上欄8行目)
(カ) 実施例
「本発明の実施例を図を用いて説明する。たとえば、図に示すような、庫内に食品用棚を有し、コンプレッサーと吸熱板を備えた冷凍冷蔵庫1において、食品用棚を高圧電場形成用電極として用い、外部キョウ体2および前記棚の一部3をアース電位とし、残りの食品用の棚4を+または-電位にして高圧電源5より高圧直流電圧を印加できる構成の冷凍冷蔵庫を製造する。第1図中、複数の棚は、交互に電位が反転するように電源と結線し、高圧電場処理が容易に行なえる構造としている。
なお、このとき、電場処理時間を調整するための間欠タイマーを付加しても良い。また、ドアを閉める毎に一定時間電場場が印加される構造を採用しても良い。さらにまた、棚4を電極として用いないで専用電極を取り付けたり、ドアと庫内奥との間に電場を印加できる構造を採用しても良い。さらにまた、ドアの棚6にも同様に電極を備えておいた方が良い。一方、高圧電源は、キョウ体と一体構造の方が良い。
ただし、使用上の安全を考慮して、電源には、電流制限機構を付加しておく必要がある。また、生鮮食料品の場合電場処理効果は5kV/cm程度以上あれば交流でも効果があるが、直流の方がより大きな効果が得られる。さらにまた、直流に交流を重乗させればより大きな効果的である。」(2頁右上欄9行目ないし同頁左下欄15行目)
(キ) 発明の効果
「本発明の食品保存装置を提供することにより、それ程低温に保たなくても保存食品の寿命を効率良く大幅に延長でき、さらに、味を良くする効果も生じる。すなわち、電場処理機構により食品の腐敗やカビの発生を防止し、鮮度を保ち、ベータデンプンからアルファデンプンへの転化を促進し穀物やイモ類の味をよくする効果があり、生活上効果大なるものがある。また、間接的に食中毒の発生を低減できる効果もある。」(2頁左下欄16行ないし同頁右下欄5行)
イ 図面
ウ 上記ア(特に下線部を参照)及びイによると、引用文献1には、以下のとおりの引用発明が記載されているものと認められ、これは、本件審決が認定した引用発明と同じである。「庫内に食品用棚を有し、前記食品用棚を高圧電場形成用電極として用い、外部キョウ体2および前記棚の一部3をアース電位とし、残りの食品用の棚4を+または-電位にして庫内の食品を高圧電場処理できる冷凍冷蔵庫1に5kV/cm程度の高圧直流電圧を印加できる高圧電源5。」
エ 上記ウのとおり認められる引用発明と、前記第2の2のとおりの本願発明との一致点及び相違点は、次のとおり認められ、これは本件審決が認定した一致点及び相違点と同じである。[一致点]「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置であって:
該食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置は、
直流超高電圧を供給する電源回路
を具えた食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置。」である点。[相違点]<相違点1>
本願発明の電源回路は、「高電圧変圧器を用いずに」直流超高電圧を供給するのに対して、引用発明の「高圧電源5」が具える“電源回路”は、直流超高電圧を供給するものの、「高電圧変圧器を用いずに」直流超高電圧を供給するか否かは明らかでない点。<相違点2>
本願発明の食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置は、「前記電源回路の高電圧出力端子とGND端子との間に接続される高抵抗値の抵抗器」を具えているのに対して、引用発明の「高圧電源5」は、そのような構成を具えていない点。
⑵ 引用文献2(甲2)には、以下の記載がある(下線は判決で付記)。
ア 発明の詳細な説明
【技術分野】・「本発明は、数キロボルトないし数メガボルトの高電圧を発生する高電圧発生方法、及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、高真空場を絶縁体(空間)として利用した高電圧発生方法、その高電圧発生装置、及び該装置を高電圧発生部として利用した機器に関するものである。」(段落【0001】)・「本発明は、高真空場を絶縁体(空間)として利用することにより、高電圧発生装置のコンパクト化、低コスト化を実現するとともに、それにより、例えば、高電圧を必要とする、高エネルギーの電子ビームやイオンビームを発生するための荷電粒子加速器、イオン工学的手法をベースとした成膜装置、電子顕微鏡、及び分析機器類等の機器のコンパクト化、低コスト化を実現することを可能とする高電圧発生手段に関する新技術・新製品を提供するものである。」(段落【0002】)【背景技術】・「高エネルギーの電子ビームやイオンビームを発生するための粒子加速器やイオン工学的手法をベースとした成膜装置等では、数キロボルト(以下、kVと略す)から数メガボルト(以下、MVと略す)の直流ないしパルス状高電圧が必要とされる場合がある。高電圧を発生する機構は、トランスによる昇圧、倍電圧整流やコッククロフトウォルトン回路等の多段縦続整流回路、及びベルト発電機等の機械的運動を伴った静電昇圧法があり、これらのいくつかを組み合わせた装置が粒子加速器等の電源として用いられている(非特許文献1参照)。」(段落【0003】)【課題を解決するための手段】・「本発明は、従来の高電圧発生装置を含む任意の高電圧発生装置に適用することが可能であり、例えば、数kV~数MVの高電圧を発生するためのコッククロフトウォルトン(以下、コッククロフトと記載することがある)装置や高圧トランス、静電発電機等の高圧電源装置に適用することが可能である。また、本発明は、高電圧を必要とする機器の高電圧発生部として適用することが可能である。」(段落【0012】)【実施例1】・「図1に示すコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路は、RFトランスとRF発振器からなるRF電源を有し、そのトランスの1対の出力端子のそれぞれに互いに並列の2群の縦続回路を形成するようにn段階で直列に接続されているコンデンサC1~Cn-1の回路と、コンデンサC2~Cnの回路と、このコンデンサの両回路同士で互いに1対の接点間を、順次交互に接続する整流素子D1~Dnから構成される回路からなる。このコッククロフトウォルトン回路では、充電用のトランスの出力電圧ピーク値の2N倍の直流電圧が発生する。」(段落【0022】)・「(図1の符号)C1~Cn:コンデンサD1~Dn:整流器Rh:高電圧測定用高抵抗Rm:電圧測定用抵抗Vin:駆動電圧Vh:出力電圧A:電流計V:電圧計(図2の符号)C1~C20:コンデンサD1~D20:ダイオード」(段落【0030】)
イ 図面
【図1】
⑶ 引用文献3(甲3)には、以下の記載がある(下線は判決で付記)。
ア 発明の詳細な説明
【発明を実施するための形態】・「図2を用いて中性点接地型X線管装置用の高電圧発生装置111について説明する。中性点接地型X線管装置とは、接地電位にある真空外囲器の中に陽極と陰極が配置され、陽極と陰極に絶対値の等しい正負の電位がそれぞれ印加されるX線管装置である。例えば、管電圧が150kVの場合、陽極には75kV、陰極には-75kVが印加される。」(段落【0020】)・「図3を用いて管電圧及び管電流の計測回路の一例について説明する。図3に示した計測回路は、分圧抵抗301と管電圧計測抵抗302と管電流計測抵抗303と中性点電流計測抵抗304とを備えている。」(段落【0026】)・「分圧抵抗301と管電圧計測抵抗302は直列に接続され、分圧回路を構成する抵抗である。分圧抵抗301と管電圧計測抵抗302の接続点には管電圧を計測するための計測端子Vc、Vaが接続される。分圧回路は、X線管装置101の一方の電極と接地電位に対して、並列に接続される。計測端子Vc、Vaには管電圧に比例した値が出力される。なお、Vcには負の値が、Vaには正の値が出力される。例えば、分圧抵抗301が300MΩ、管電圧計測抵抗302が3Ωであるとすると、X線管装置101の陽極と陰極にそれぞれ75kVと-75kVが印加されたとき、計測端子Vaには約0.75mV(約75kV・3Ω/(300MΩ+3Ω))が、Vcには約-0.75mVが出力される。また分圧回路の抵抗値(300MΩ+3Ω)がX線管装置101の負荷(150kΩ~10MΩ)の30倍以上となるので、分圧回路がX線管装置101の管電流に与える影響は十分に小さい。」(段落【0027】)
イ 図面
【図3】
⑷ 本願出願当時の技術常識を示す文献には、以下の記載がある。
ア 乙5(電子情報通信学会編「電気情報通信ハンドブック」第1分冊平成9年5月30日第1版第5刷発行)の「5.電源回路」、「5・1 整流回路と平滑回路」の項には、交流電圧よりも高い直流電圧を得ることができる電源回路の例として、倍電圧整流回路である半波整流回路を多段接続した高電圧発生回路である「コッククロフト・ワルトン回路」(「コッククロフトウォルトン回路」を指す。)が記載されている。
イ 乙6(ウイキペディア。平成28年(2016年)11月6日最終更新)には、コッククロフトウォルトン回路を利用した機器の例として、レーザー装置、高圧電源、X線装置、イオンポンプ、粒子加速器、研究用機器にとどまらず、液晶バックライト、静電気帯電装置、エアーイオナイザー、複写機、オシロスコープ、ブラウン管テレビ、スタンガン、電撃殺虫器など、高電圧を必要とする日常的な電気機器にも用いられていることが記載されている。
⑸ 引用文献2、3及び出願当時の技術常識を示す文献の各記載から認められる事項と相違点に係る容易想到性について
ア 上記⑵アの背景技術に係る記載によると、引用文献2には、高電圧変圧器を用いることなく直流高電圧を発生させるコッククロフトウォルトン型高電圧発生回路が周知であることが記載されており、上記⑷によれば、コッククロフトウォルトン回路は、高電圧を必要とする日常的な電気機器にも幅広く用いられているものであることが認められる。
さらには、例えば発明の名称を「電源装置」とする参考文献1(特開昭64-5368号公報、甲4)にも、「〔従来の技術〕一次側低電圧交流を負荷側で高電圧直流に変換する形式の電源装置に関する従来技術として、例えば、『高電圧工学 第90,91頁 』(電気学会発行)に記載されたコツククロフト・ウオルトン回路と呼ばれる回路が知られている。」(第1頁右下欄9ないし14行)として、電源装置につきコッククロフトウォルトン回路が従来技術として記載されているほか、参考文献3(登録実用新案第3165507号公報、甲6)にも、「本考案は、・・・特に2つの油槽を備える大型自動フライヤー及び大型自動フライヤーの食用油酸化抑制装置に関する。」(段落【0001】)として、「なお、マイナス直流電位発生回路6は公知の方法が適用可能である。例えば、図8に示すような、コッククロフト・ウォルトン回路などがある。コッククロフト・ウォルトン回路とは、高圧電源を得るために使用される整流回路(rectifier)の一種であり、コッククロフト・ウォルトン回路は、コンデンサとママダイオード"ダイオードを多段式に組み合わせることによって、直流あるいは交流の電源を高電圧の交流電源へ変換できるものである。」(段落【0024】)と記載され、食品に係る装置の分野においても公知の方法としてコッククロフトウォルトン回路を用いる例が記載されている。
これらによれば、直流高電圧を発生させるための電源回路として、コッククロフトウォルトン回路は周知技術であると認められる。
そして、引用発明は高圧直流電圧を印加する機能を有する冷凍冷蔵庫の高圧電源に係るものであり、引用発明の高圧電源を具体化するにあたり、分野を問わず周知の電源回路の中から、具体的にどの回路を選択するかという点には、何らの困難性も認められない。
よって、引用発明の直流高電圧を発生させるための電源回路として周知のコッククロフトウォルトン回路を採用し、上記相違点1に係る本願発明の構成、つまり電源回路を「高電圧変圧器を用いずに」直流超高電圧を供給する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
イ 上記⑵アの「実施例1」を示す段落【0022】、【0030】及びイ(【図1】)によれば、引用文献2には、コッククロフトウォルトン型高電圧発生回路の出力端子と接地電位との間に高電圧測定用高抵抗と電圧測定用抵抗を直列に接続し、電圧測定用抵抗の両端電圧を測定することについて記載されているものと認められる。
また、上記⑶によれば、引用文献3には、高電圧発生装置の出力端子と接地電位との間に300MΩの分圧抵抗と3Ωの管電圧計測抵抗を直列に接続し、3Ωの管電圧計測抵抗の両端電圧を計測して出力することが記載されているものと認められる。
そうであるとすれば、上記引用文献2及び3に記載された事項に例示されるように、高電圧発生回路の出力に、高抵抗値の抵抗器と低抵抗値の抵抗器の直列回路を接続して出力電力を測定することは、高電圧を発生する装置における周知技術であると認められる。また、高電圧を発生する装置において、所期の電圧が発生されているかを測定して確認できるようにすることは一般的な課題であるから、引用発明の高圧電源5にも同様の課題が内在するものといえる。
そうすると、引用発明において、高電圧を発生させる電源回路の出力電圧を測定して確認できるようにするために、高電圧出力端子とGND端子との間に高抵抗値の抵抗器と低抵抗値の抵抗器の直列回路を接続し、その結果として、高電圧出力端子とGND端子との間に、高抵抗値の抵抗器と低抵抗値の抵抗器の直列回路からなる高抵抗値の抵抗器が接続されるような構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということができる。
ウ 本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものとは認められない。
エ 以上によれば、相違点1及び2に係る本願発明の構成は、本願の出願当時の周知技術から容易に想到し得るものと認められるから、本件審決における特許法29条2項の判断に誤りはなく、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、原告の主張する取消事由2には理由がない。
⑹ 原告の主張に対する判断
ア 原告は、本願発明は「食品電場処理装置用直流超高電圧電源装置」に係る発明であり、本願発明の食品電場処理装置の当業者は、高圧変圧器による交流電場処理技術しか知らず、コッククロフトウォルトン回路を知らないなどと主張する。
しかし、食品電場処理装置の技術分野の当業者は、食品電場処理装置に付随した各種部材についても、課題解決にあたり検討するものといえるから、食品電場処理装置に関連する部材に係る技術を知悉する者であるといえる。加えて、既に検討したとおり、引用発明の高圧電源を具体化するにあたり、分野を問わず、周知の電源回路の中から具体的にどの回路を選択するかという点には何らの困難性も認められないところ、コッククロフトウォルトン回路自体、本願の出願当時において、日常的な電気機器にも用いられていたことが認められるところである。そうすると、食品電場処理装置の技術分野の当業者は、周知のコッククロフトウォルトン回路の採用を着想し得たと認められる。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、引用文献2、3をはじめ本件審決において示された文献等と引用発明とはそれぞれ技術分野と課題が異なる旨などを主張する。
しかし、仮に技術分野と課題が異なるものであったとしても、上記のとおり、引用発明の高圧電源を具体化するにあたり、分野を問わず周知の電源回路の中から、具体的にどの回路を選択するかという点には、何らの困難性も認められないから、食品電場処理装置の技術分野の当業者が高圧電源として周知のコッククロフトウォルトン回路を採用することは、通常の創作能力の発揮に過ぎない。さらに、引用発明に、周知のコッククロフトウォルトン回路を採用することに阻害要因があるものとは認められない。そうすると、引用発明の高圧電源に周知のコッククロフトウォルトン回路を採用することは容易というべきであり、原告の上記主張は採用することができない。
その他、原告が縷々主張するところについては、いずれも理由がない。
3 結論
以上のとおり、本件審決の認定及び判断に誤りは認められず、原告主張の取消事由1及び2には、いずれも理由がなく、本件審決に、これを取り消すべき違法はない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
(別紙審決書写し省略)