判例
刑事訴訟法民法判例百選Ⅰ第9版42
道路交通法違反、贈賄、自転車競技法違反、賭博開張図利、傷害
前主の無過失と10年の取得時効
全文
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人山田有宏、同伊東眞の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点は、実質は単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、所論の引用する判例が本件とは事案を異にしているので前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
所論にかんがみ、職権により判断するに、「被告人甲は、公務員乙と共謀のうえ、乙の職務上の不正行為に対する謝礼の趣旨で、丙から賄賂を収受した」という枉法収賄の訴因と、「被告人甲は、丙と共謀のうえ、右と同じ趣旨で、公務員乙に対して賄賂を供与した」という贈賄の訴因とは、収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性がある場合には、両立しない関係にあり、かつ、一連の同一事象に対する法的評価を異にするに過ぎないものであつて、基本的事実関係においては同一であるということができる。したがつて、右の二つの訴因の間に公訴事実の同一性を認めた原判断は、正当である。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
この決定は、裁判官団藤重光の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。
問題は、第一審における本位的訴因と予備的訴因とが公訴事実の同一性の範囲内にあるものといえるかどうかである。本件は、被告人Aが自動車運転免許証取得者と運転免許試験の試験官とのあいだに介在して賄賂の授受に関与した事案であるが、本位的訴因では被告人を収賄側の共犯者とみたのに対し、予備的訴因では同人を贈賄側の共犯者とみたのであつて、そこに基本的事実関係の同一性があるのはもちろんのこと、わたくしのいわゆる構成要件的共通性(団藤・新刑事訴訟法綱要・七訂版・一五一頁参照)があることもあきらかである。けだし、本件の本位的訴因において収賄罪の構成要件に該当するものとされた事実と、予備的訴因において贈賄罪の構成要件に該当するものとされた事実とは、重要な部分において重なり合うものだからである。私見も多数意見―従来の判例の見解―と基本的に異なるものではない。
昭和五三年三月六日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官
藤崎萬里
裁判官
岸盛一
裁判官
岸上康夫
裁判官
団藤重光
裁判官
本山亨