判例
民事訴訟法民事執行・保全判例百選第3版62
転付命令(3)
全文
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# 転付命令(3)
——執行抗告提出期限後の執行停止決定の提出
① 東京高裁昭和56年12月11日決定
(昭和56年(今)第893号:債権差押及び転付命令に対する執行抗告事件)
(判時1032号67頁,判タ456号72頁,東高民時報32巻12号288頁)
② 東京高裁昭和57年3月15日決定
(昭和56年(今)第1086号:債権転付命令に対する執行抗告事件)
(下民集33巻1・4号110頁,判時1042号103頁,判タ471号122頁)
立命館大学教授
出口雅久
でぐち まさひさ
## 事実の概要
[①事件] 昭和56年9月14日にX(相手方・原審債権者)の申立てに基づいて、Y(抗告人・原審債務者)が有する債権に対して債権差押および転付命令が発令され、同月17日に迅速された。これに対して、Yは不服申立ての期間内の同月18日に執行抗告を申し立てたが抗告理由の記載がなく、その後、同月25日に法定期限内に執行抗告理由書を提出したが、その理由は、第1が執行証書作成に関する代理権欠缺、第2が執行債権の不存在を理由とするもので、いずれも適法な執行抗告理由ではなかった。その後Yは同年10月1日に請求異議の訴えを提起し、強制執行の停止を申し立て、同月5日執行証書に基づく執行停止の決定を得て、同日にその旨の追加理由書を提出し、執行抗告を留保する旨の決定を求めたが、法定抗告理由書提出期間である9月18日からはすでに1週間を経過していた。
[②事件] 昭和56年11月19日にX(相手方・原審債権者)の申立てに基づき、Y(抗告人・原審債務者)が有する債権に対して債権差押および転付命令が発令され、いずれも同月24日に迅速された。これに対して、Yは不服申立て期間内である同月28日に執行抗告申立書を提出したが、同申立書には抗告理由の記載が全くなく、抗告の理由は追って提出すると記載されていたのみであった。その後、同年12月5日になってYは、原裁判所に対して本件差押えの基礎となった和解調書第4項記載の違約金300万円の請求債権の不存在を理由として和解調書の執行力排除のために同年12月2日に請求異議の訴えを提起し、強制執行停止の申立てをしている旨の抗告理由書を提出した。Yは12月22日に至り、本件債務名義に基づく強制執行停止の決定を取得し、翌日にその旨の「強制執行停止上申書」と同決定正本を裁判所に提出した。
## 決定要旨
[①決定] 本件執行抗告の裁判は、請求異議の判決があるまで留保する。
「追加理由書記載の右理由は同法〔民事執行法〕159条6項〔現7項〕記載の特殊な執行抗告理由にあたるものであって、当裁判所は、これについては、同法10条3項の例外を認めるのが相当であると考える」。その理由として、転付命令以外の強制執行は、差押えから換価の実現までにかなりの日数を必要とするから、債務者は強制執行を防御するために請求異議訴訟を提起する余裕があるが、転付命令はその確定により強制執行は終了してしまうという特殊性を有しており、仮に適時に請求異議訴訟が提起できたとしても保証金の調達などにより執行停止決定の取得が遅れることもあり、また裁判所の都合で決定が直ちになされないこともあり、「民事執行法159条6項は、転付命令の発付後に生ずる事由である執行停止決定
を取得したことを理由として特に執行抗告の理由とすることを認める趣旨のものであると解されるから、これにつき他の執行抗告理由と同列に扱うことは、右規定を設けた趣旨から必ずしも合理的でないのみならず、むしろ、同法10条3項の期限経過後であっても転付命令未確定の間は右理由をもって適法の抗告理由とすることができるものと解するのが相当である」、「よって、本件執行抗告については、前記執行停止決定につきYの提起した請求異議の訴の判決において裁判するまで留保することとし(民事執行法159条6項の規定による裁判の留保は、事実上執行抗告についての裁判を留保することを意味するのであるが、本件のような場合には、事実上裁判を留保すべき場合にあたるかにつき法律上疑問もあるので、民訴法184条〔現245条〕の規定の趣旨に準じ、特に裁判するのが相当であると考える。)」とした。
[②決定] 抗告棄却。
「強制執行の基礎となった債務名義に対する請求異議の訴等の提起に伴い、強制執行停止決定があることを抗告理由とするためには、右停止決定を執行抗告理由書の提出期間(民事執行法10条3項)内に提出することを要するものと解するを相当とするところ、本件についてみるに、本件記録によれば、Yは昭和56年11月24日原決定の迅速を受け、同月28日原裁判所に抗告申立書を提出して本件執行抗告を申立てたが、右申立書には、『抗告の理由は追って提出する。』との付記があるのみで抗告の理由の記載は全くなかったこと、同年12月5日別紙のとおりの抗告の理由が原裁判所に提出されたが、民事執行法10条3項の抗告理由の提出期限たる右同日までには強制執行停止決定が提出されなかったことが認められ、Yの主張する事由のみをもってしては原裁判の取消、変更を求めるに足る執行抗告の事由とはなしえない」。また、「Yは同月23日に至り、同月22日東京地方裁判所において本件債務名義に基づく強制執行を停止する旨の決定を得たとの『強制執行停止上申書』と題する書面と共に右停止決定正本を当裁判所に直接提出したことが認められるが、本件記録を精査するもYにつき執行抗告理由書提出期間の伸長を認めた裁判がなされたことは認められないから、右事由をもって本件執行抗告の理由とはなしえないものである」。
## 解説
1 被差押債権が金銭債権である場合に、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、執行債権・執行費用の支払に代えて被差押債権を券面額で差押債権者に移付する旨の転付命令を発することができる(民執159条1項)。転付命令は、執行債権と被差押債権の目的の同質を基礎に代物弁済的解決を図る方法であり、平等主義の基調に背いて、いわゆる独占的満足を導くものとされている(中野貞一郎・下村正明『民事執行法』[2016]724頁)。
別冊 Jurist No.247
たがって、適式な執行正本に基づいて差押命令および転付命令がなされ確定した以上は、執行債権の不存在・消滅あるいは債務名義の無効等の瑕疵が存在したとしても、転付命令の効果が生じることにより(同160条)、執行手続は終了することになる。旧法下においては、大審院以来、執行債権および執行費用の弁済に代えて被差押債権を券面額で差押債権者に移転させる転付命令(民訴旧600条)は、第三債務者に対する送達によって効力が生じ、それと同時に具体的執行は終了するから、もはやこれに対し執行方法に関する異議の申立てをすることはできないとされていた(大決昭和8・4・18民集12巻724頁)。旧法下においては、転付命令に対する不服申立てが規定されていなかったために、転付命令発令後に債務者が執行停止命令決定正本を執行裁判所に提出したことは転付命令に対する不服申立ての理由となりうるのかについては争いがあった(宮脇幸彦『強制執行法(各論)』(1978)160頁)。この争いを立法により解消するために、転付命令に対しても明文で執行抗告を認めることとした(民執159条4項)。すなわち、転付命令は、その確定によってはじめて効力を生じるとした(同159条5項)。民事執行法159条4項は、一般的には、転付命令に対して、その要件の欠陥を理由とする執行抗告を認めつつ、その例外として、同法159条7項で、同法39条1項7号文書(執行停止文書)および8号文書(弁済受領・猶予文書)を提出したことを理由とする執行抗告を新たに設けて、かつ、その際には、転付命令が確定されてしまうと、執行手続内において解決する可能性が失われてしまい、執行手続以外の救済手段として後に不当利得返還等の訴えに変更することを余儀なくされることになる。そこで、こうした執行法上の救済としての請求異議の訴えや第三者異議の訴え等の提起とそれによる強制執行の停止命令などを無視する事態をできるだけ避けるために、転付命令についての異議については特に、請求異議訴訟や第三者異議の訴えなどの結論が出るまで執行手続を終結させずに、上記執行抗告についての裁判を留保する措置を認めたものである(河野正憲・本百選(第2版)131頁参照)。
2 しかし、立法によっても明確に解決されずに残った問題が、本件両高裁の「留保」の件に関する裁判例である。すなわち、民事執行法159条7項が転付命令自体の特異性に着目して定められたものであり、そもそも同法10条3項の規定の例外であると解するべきだとし、期間経過後の追加の理由書提出を許す無制限説(①決定)と、同法159条7項に掲げる文書も一般的執行抗告の場合と同じく、抗告状提出の日から1週間以内に提出しなければならない(民執10条3項)、それが期間内になされた場合に限り抗告の裁判を留保するとの趣旨と解する制限説(②決定)の両説が拮抗している(竹下守夫・浦野雄幸ほか・民事執行セミナー[ジュリ増刊]331頁以下参照)。いわゆる制限説は、旧法下で即時抗告が重用され、執行遅延の原因となっていたことに対する反省から、執行抗告理由が限定され、抗告理由書提出が義務付けられ、理由によっては原審却下を行うと規定した(民執10条5項)のであり、原則として、この1週間の期間内に執行停止文書を提出しなければ、執行抗告は不適法却下されるとする(②決定、浦野雄幸『条解民事執行法』(1985)689頁)。すなわち、一般的に転付命令に対して不服申立てとして執行抗告をすることはできるが、それは転付命令の発令段階における瑕疵に基づくことを大原則としており、転付命令後の執行抗告ができる1週間の間に執行停止をもらってきたものについては、それを抗告理由として救ったものであるとして、いわゆる執行債権者保護を優先している(浦野雄幸『『裁判の留保』とその要件』NBL259号39頁)。
そもそも民事執行法制定の立法趣旨は、いわゆる濫抗告を防止し、抗告審の範囲を明示された抗告理由に限定することにより、強制執行の迅速化を図ることを目的としたものであり、したがって、期間経過後の単純な追定は認めるべきではなく、理由書提出期間内に執行停止の申立てがされているような場合には、その旨を裁判所に上申することにより、理由書提出期間を伸長すること(旧民訴158条・現民訴96条)等によって救済を図るのが妥当であるとする(甲斐哲彦・本百選(第1版)163頁、坂原正夫・判評285号[判時1052号]47頁)。しかし、制限説によれば、債務者は、転付命令の送達からごく短い期間内に(民執10条2項)執行停止文書を提出しなければならない。民事執行法159条が特別に転付命令発令後の事由に基づく執行抗告を許した立法趣旨が十分に活かされない結果となる。
これに対して、無制限説によれば、何らかの別の抗告理由が適時に主張されていれば、執行抗告はそれ自体適法となり、債務者は、執行抗告が棄却されて転付命令が確定するまでは、いつでも、執行停止文書を提出してそれをも抗告理由として主張することができることになる(①決定、奈良次郎『民事執行の停止・取消し』竹下守夫・鈴木正裕編『民事執行法の基本構造』[1981]240頁、塩崎勤編『注解民事訴訟法(1)』(2002)138頁[竹下守夫]、中野=下村・前掲729頁、上原敏夫『債権執行手続の研究』(1994)186頁)。しかし、無制限説に対しても、転付命令のみに例外を許す理由が見いだせないと制限説を説く見解(坂原・前掲48頁)や、さらには、いずれの見解にも一長一短があり、実務上はそれほど両説に差はないとする見解もあり(伊藤貞・判評287号[判時1058号]51頁)、学説上も必ずしも見解の一致を見ていない。
3 民事執行法159条7項は、転付命令が短時間のうちに終了してしまう執行手続であることを考慮して、発令後の事由に基づく執行抗告を特別に許して債務者の保護を図る一方、債権者の利益を考慮して、いきなり転付命令を取り消すのではなく、執行停止文書の帰趨が決まるまで、転付命令を未確定の状態にしておく、という裁判の留保という特殊な手続を定めている(なお、『裁判の留保』が単なる事実上の留保か、それともその趣旨の裁判かについては疑問が残されている。詳細は、河野・前掲131頁参照)。請求異議訴訟などの反対名義形成手続と執行手続を架橋すべく執行停止が生じたにもかかわらず、執行停止文書などの追加主張を排斥して転付命令を確定させてしまう結果、抗告理由書提出の時間的な制約が、その枠を越えて一方的に執行停止中の債権の満足を生じてしまうことは、やはり執行債権者と執行債務者のバランスを欠いていると言わざるを得ないであろう(中野=下村・前掲729頁)。最終的には、転付命令を取得した執行債権者と、執行停止決定を取得した執行債務者のどちらの利益を保護するかが問題となるが、執行停止文書の取得には時間を要するところで抗告理由書提出期間の制限を通じて執行停止中の執行債権の満足をもたらすことは不合理であり、執行停止決定は、転付命令未確定の間は抗告理由提出期間後もこれを提出することができると解するべきであろう(松本博之『民事執行保全法』[2011]289頁)。
[参考文献]
本文中に掲げたもの。