判例
民事訴訟法民事執行・保全判例百選第3版74
差押命令に対する執行抗告における実体上の事由の主張
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# 差押命令に対する執行抗告における実体上の事由の主張
① 東京高裁昭和60年3月19日決定
(昭和59年(今)第511号:債権差押命令に対する執行抗告事件)
(判時1152号144頁,判タ556号140頁,東高民時報36巻3号38頁)
② 高松高裁平成2年10月15日決定
(平成2年(今)第51号:電話加入権差押え及び換価命令に対する執行抗告事件)
(判時1377号69頁,判タ753号230頁)
同志社大学教授
中西 正
なかにし まさし
## 事実の概要
[①事件] AはY(債権者―相手方)よりある商品(動産)を買い受け、これをBに転売した後、破産手続開始決定を受け、X(債務者―抗告人)が破産管財人に選任された。いずれの売買についても代金は支払われていない。Yは、売買代金回収のため、本件商品上の動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、A・B間の売買契約に基づく代金債権の差押えを申し立て、裁判所は差押命令を発令した。Xは、民事執行法193条2項・145条5項(現6項)により、Yを相手に執行抗告を行い、本件売買代金債権は破産手続開始前に既にAからCに譲渡され、対抗要件も具備されたので、Yは本件物上代位権を行使し得ないと主張した。
[②事件] Y(相手方)は、X(抗告人)に対し、電話加入権を目的とする担保権(根質権設定契約に基づく質権)の実行としての差押・換価命令を得たが、Xは193条2項・145条5項(現6項)により、Yを相手に執行抗告をし、上記担保権の不存在を主張した。
## 決定要旨
[①決定] 執行抗告認容、原決定取消し、債権差押命令の申立て却下(確定)。
「民事執行法193条2項は、同法145条5項の規定を準用して、債権その他の財産権を目的とする担保権の実行又は債権を目的とする担保権に基づく物上代位権の行使としての差押命令に対して執行抗告をすることができるものとする一方、同法182条の規定をも準用しているところであるが、同法182条の規定は、不動産を目的とする担保権の実行としての競売の申立てが債務名義なくして開始されるものであることに鑑み、不服申立方法としてはもともと執行異議の申立てしか許されない不動産競売の開始決定について、担保権の不存在又は消滅を執行異議の理由とすることができるとするものにすぎないのであるから、同法145条5項の規定とともに同法182条の規定を準用する旨を定める同法193条2項の規定の法意は、債権その他の財産権を目的とする担保権の実行又は債権を目的とする担保権に基づく物上代位権の行使としての差押命令について、執行抗告の申立てとは別に担保権(物上代位権)の不存在又は消滅を理由として執行異議の申立てをすることができるとするものではなく、本来は手続上の瑕疵に対する不服申立方法である差押命令に対する執行抗告において、例外的に担保権(物上代位権)の不存在又は消滅という実体上の事由を主張することができるとすることにあるものと解するのが相当である。」
[②決定] 執行抗告却下(確定)。
「法(民事執行法)は、民事執行に関する不服申立ての方法として、執行抗告と執行異議の2つを規定し、執行抗告は、民事執行の手続に関する裁判のうち法に特別の定めがある場合に限って許される(法10条1項)ものとし、執行異議は、執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対してのみ許される(法11条1項)として、執行抗告と執行異議のできる場合を分け、両者を重畳的に行使することができない立前をとっている。しかるに、債権その他の財産権並びに電話加入権を目的とする担保権の実行としての差押命令に対する不服申立てに関しては、法193条2項は、債権及びその他の財産権に対する強制執行としての差押命令に対し執行抗告を許す旨を定めた法145条5項の規定を準用するとともに、担保権の実行としての不動産競売の開始決定に対して執行異議の申立てをすることができるとする法182条の規定を準用しているので、担保権実行の差押命令に対しては例外的に執行抗告と執行異議の2通りの不服申立てを許しているものと認めざるを得ない。そしてこの両者の関係がどのようになるのかについて法は明文の規定を設けていないが、当裁判所は、執行抗告は専ら手続上の瑕疵を理由とするものについてのみ許され、担保権の不存在又は消滅についての実体上の事由を理由とするものについては専ら執行異議によるべきものと解する。その理由は、次のとおりである。法181条は、担保権実行による不動産競売につき担保権の存在することを証明する確定判決、家事審判、公正証書又は担保権の登記のされている登記簿の各謄本が提出されたときに限り開始するものと規定しているが、これは、担保権の存在の証拠方法(証明資料)を法定したものであって、担保権の実行に当たっては、その実行すべき担保権が存在しなければならないことは理の当然である。したがって、たとえ右法定文書が提出されたことにより担保権が存在することが証明されたとして競売開始決定がされても(右法定文書が提出されれば、担保権の存在が一応証明されたものとして開始決定をすることになる。)、債務者らが担保権の不存在を主張し反証をあげることにより担保権の存在が証明されないことになった場合においては、一旦された競売開始決定は取り消さなければならないこととなる。そうであれば、競売開始決定に対する不服申立てにおいて、担保権の不存在等の実体上の事由が主張された場合においては、執行裁判所において立証を促し前記法定文書によって一応証明された担保権が真実存在するものか否かについて審理されなければならないものであるから、右のような実体上の事由に基づく不服申立ては執行裁判所に向けられた執行異議によるのが相当であり、執行抗告により抗告裁判所においていきなり審理すべきものとするのは相当ではない。右の解釈は、法182条の『不動産競売の開始決定に対する執行異議の申立てにおいては、担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。』との文意にもかならない。
すなわち、法193条2項が、債権及びその他の財産権についての担保権の実行の場合に、強制執行の場合に関する145条5項の執行抗告の規定を準用したのは、専ら手続上の瑕疵を理由とするものについてのみこれを認めた趣旨であって、担保権の不存在又は消滅という実体上の事由を理由とするものについて認めたものではないと解すべきである」。したがって、「質権の不存在を理由とする本件執行抗告は不適法である」。
別冊 Jurist No.247
# 解説
1 担保権の実行としての債権差押命令が発令され、債務者が、これに対して、担保権(物上代位権)の不存在または消滅を理由に、不服を申し立てる場合、執行抗告によるか、執行異議によるかは、問題であった。民事執行法193条は、債権その他の財産権上の担保権の実行や、民法などに基づく物上代位権の行使につき規定するが、担保権の存在を証する文書が提出されたときに限り手続を開始すると規定するほかは(同条1項)、第2章第2節第4款(債権及びその他の財産権に対する強制執行)の規定、および182条から184条までの規定(不動産担保権の実行としての競売)を準用するのみであり(同条2項)、不服申立ては、執行抗告によることもできるし(193条2項、145条6項)、執行異議によることもできると(193条2項、182条)、読めるからである。
2 この問題については、3つの見解が対立していた(いずれも、平成15年改正前の182条を前提としている。また、担保権や物上代位権の不存在・消滅を理由に、訴えを提起し、手続を停止し、取り消し得る[193条2項・183条]のは当然である)。第1の見解は、執行抗告および執行異議の双方が許され、いずれにおいても、不服申立ての理由として、手続法上の事由および実体法上の事由を主張できるとする(田中康久『新民事執行法の解説[増補改訂版][1980]466頁)。第2の見解は、執行抗告および執行異議の双方が許されるが、手続法上の事由は執行抗告において、実体法上の事由は執行異議において主張すべきであるとする(山木戸克己『民事執行・保全法講義[補訂2版][1999]256頁ほか)。そして、第3の見解は、執行抗告のみが認められ、手続法上の事由および実体法上の事由を、執行抗告において主張できるとする(竹下守夫『執行機関の処分に対する不服申立て』竹下守夫=鈴木正裕編『民事執行法の基本構造』[1981]88頁、中野貞一郎『民事執行法[増補新訂6版][2010]376頁、東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務 債権執行編(上)[第2版][2007]242頁以下、浦野雄幸編『基本法コンメンタール民事執行法[第6版][別冊法セ][550頁[町田版]、ほか多数)。
下級審の裁判例も判断が分かれており、①事件では、第3の見解がとられ、②事件では、第2の見解がとられているが、第3の見解によるものが一般的であるといわれていた(東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著・前掲242頁を参照)。
3 見解が分かれるポイントは、以下の点にあると思われる。
(1) 上述したように、193条が、145条6項も、182条も準用している点に鑑みれば、不服申立ては、執行抗告によることもできるし(193条2項、145条6項)、執行異議によることもできる(193条2項、182条)ことになろう。
(2) 182条は、平成15年改正前には、不動産競売の開始決定に対する執行異議の申立てにおいては、担保権の不存在または消滅を理由とすることができると、規定していた。182条は193条2項により準用されている点を見れば、担保権の実行としての債権差押命令に対する不服申立てにおいても、実体法上の事由は、執行異議において主張すべきであると、解することになろう。すなわち、担保権実行手続は法定文書が提出されれば開始される(181条1項・2項、193条1項前段ほか)が、法定文書は担保権の存在に関する法定証拠に過ぎない以上、担保権の存在につき反証し、あるいはその消滅を疎明し、開始決定の取消しを導く法的手続が保障されなければならない。そこで、執行裁判所に対し、実体法上の事由を理由として、執行異議を申し立て、手続開始を取り消し得ると、解するのである(②決定を参照)。
(3) ある執行処分に対する不服申立方法は執行抗告か執行異議かいずれか1つであり、執行抗告ができる場合は個別に規定され、それ以外は執行異議によるというのが、民事執行法の原則である(10条1項、11条1項。詳細は、竹下・前掲65頁を参照)。この原則に従えば、執行抗告が認められる場合には、執行異議は認められないことになる。そして、担保権の実行としての債権差押命令が発令された場合には、執行抗告が認められる以上(193条2項、145条6項)、執行異議は認められないことになる。
(4) さらに、債務者らの利益をより適切に保護するのは、執行異議なのか執行抗告なのかという問題がある(東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著・前掲243頁を参照)。執行異議には期間の制限がないが、執行抗告には1週間の期間制限があり(10条2項)、債務者の保護に欠けると考えれば、執行異議が妥当であることになる。しかし、債権執行は不動産執行と比較して早期に換価に至る点を考慮すれば、1週間の期間制限は問題とならない(必要があれば民訴法97条1項の追定を認めればよい)。さらに、執行抗告によれば、再度の考案による原審での是正の機会に加え、上級審での判断を受ける機会が保障されることを考えれば(執行異議は執行裁判所[原審]限りである)、執行抗告が妥当であることになる。
4 (1) 193条によれば、債権差押命令に対する不服申立ては、執行抗告によることもできるし(193条2項、145条6項)、執行異議によることもできると(193条2項、182条)解し得る。しかし、上述3(3)のように、ある執行処分に対する不服申立方法は執行抗告か執行異議かいずれか1つであり、執行抗告が認められる場合はそれによるという原則に鑑みれば(10条1項、11条1項)、この場合では、執行抗告が認められる以上、これによるほかないと思われる。そして、執行抗告によれば、原審および上級審で判断を受ける機会が保障されるので、当該審級限りの執行異議よりも、債務者らを手厚く保護することになる。
(2) これに対しては、193条2項が182条を準用している点(その具体的意味については3(2)を参照)を無視することになり不当であるとの批判も、あり得よう。しかし、平成15年改正前の182条のもとでも、193条2項が182条を準用するのは、本来は手続上の瑕疵に対する不服申立方法である執行抗告において、例外的に担保権(物上代位権)の不存在または消滅という実体上の事由を主張することを可能ならしめる趣旨であるとの説明がなされていた(浦野編・前掲550頁[町田]、東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著・前掲242頁ほか)。
さらに、その後、平成15年の民事執行法改正で、182条は、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいては、債務者または不動産の所有者は、担保権の不存在または消滅を理由とすることができると、改められた。したがって、改正された182条のもとでは、実体法上の事由=執行異議という定式の実定法上の根拠は消滅したと見ることができ、このような批判はもはや成り立たないというべきであろう。
(3) 以上のような次第で、現在では、第3の見解が、多数説であり(中野貞一郎=下村正明[民事執行法][2016]360頁ほか)、実務の見解である(相澤真木=塚原聡編著『民事執行の実務[第4版]債権執行編(上)』[2018]272頁、伊藤真=園尾隆司編集代表『条解民事執行法』[2019]1680頁[山木戸勇一郎]ほか)。
5 なお、以上とは別に、担保権に基づく物上代位の行使としてされた債権差押命令に対する執行抗告において被差押債権の不存在、消滅を主張できるかという問題があるが、第三債務者は担保権者が提起する当該債権の取立訴訟等でこれを主張できるので、否定されるべきである。最決平成14・6・13(民集56巻5号1014頁)は、抵当権に基づく物上代位権の行使の事案につき、これを否定している(長谷川浩二・裁判解民事篇平成14年度(上)496頁)。
[参考文献]
本文中に掲げたもののほか、坂田宏・民事執行法判例百選225頁とそこに引用の各文献参照。