判例
刑法刑法判例百選Ⅱ第8版8
業務上堕胎、保護者遺棄致死、死体遺棄被告
保護責任者の意義
全文
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人池宮城紀夫、同新里恵二、同上間瑞穂連名の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、その余の点は、すべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。なお、保護者遺棄致死の点につき職権により検討すると、原判決の是認する第一審判決の認定によれば、被告人は、産婦人科医師として、妊婦の依頼を受け、自ら開業する医院で妊娠第二六週に入つた胎児の堕胎を行つたものであるところ、右堕胎により出生した未熟児(推定体重一〇〇〇グラム弱)に保育器等の未熟児医療設備の整つた病院の医療を受けさせれば、同児が短期間内に死亡することはなく、むしろ生育する可能性のあることを認識し、かつ、右の医療を受けさせるための措置をとることが迅速容易にできたにもかかわらず、同児を保育器もない自己の医院内に放置したまま、生存に必要な処置を何らとらなかつた結果、出生の約五四時間後に同児を死亡するに至らしめたというのであり、右の事実関係のもとにおいて、被告人に対し業務上堕胎罪に併せて保護者遺棄致死罪の成立を認めた原判断は、正当としてこれを肯認することができる。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
昭和六三年一月一九日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官
坂上壽夫
裁判官
伊藤正己
裁判官
安岡滿彦
裁判官
長島敦